大魔王様と親方
そして付与魔法の時間の前に立ち寄る場所がある。
それは親方の工房、そこは俺の息抜きの場所だ。親方は闇輝人所謂ドワーフなんだけど、親方達曰くちょっと俺の知るドワーフと違う部分がある、というか俺の知識の中のドワーフや闇エルフっていうのがそもそも二次元脳の知識でしかなかった訳で、この世界の常識を教えてもらったというのが正しい。
最初に世界に生み出された神に続いて精霊生み出されそれに続く主として生まれたのが古代光輝人という、光輝人と闇輝人の祖先だ。次第に彼等は信仰する精霊の違いから住む地域を違え、結果として光輝人は森に闇輝人は洞窟へと棲家を変えた。そして世界は留まることなく人間なども生み出し続けたのだが、闇輝人は区別することなく様々な種と付き合ったのだ。特にこの世界で種族の差もなく人間、魔族共に受け入れられているのは闇輝人ぐらいだ。
信じられない話だけど、人間は広大な地域を王国という人間だけの世界で成り立たせているのだ。闇輝人はその技術があるのでなんとか差別も軽いものらしいが人間世界では生き辛いのだ。獣人種などは獣の耳や尻尾を持つだけで完全に排除もしくは奴隷としてしか生きられないのだという。ありえない、獣耳を愛でないなんて人間じゃない。
「それで大魔王の旦那、今日は何を作ろうってんだ」
「うむ、先日の侵攻を防いだのは完璧だったとは言えどもう一度来る可能性もあるだろう」
「そりゃ戦争なんてのは無くなる事はないからな」
「一応ヴィヴィの実家であるアメラ連邦国家には結婚に加えて同盟締結の使者は出したがな、他の国やユイキス教に関してはそうも行かないだろう、となれば少ない兵力をより強化せねばならない」
「凹凸式甲冑Vr.1.02も大活躍だったと聞いてるし、他の武具も役に立ったんだろ」
「そりゃ役に立ったぞ、何よりも素晴らしかったのは味方の被害が無かった事だからな」
「うむ、稀にみる大勝利だ、でもそこで満足しねえってことだな」
「もちろんだ、だからこそ、他の予定を変えても親方との打ち合わせに関しては変更を入れてないのだからな。と云う訳で、これが次の仕様書だ」
「投擲装置よりちょっとこれは複雑だな」
「かなり複雑だが超強力な兵器になるぞ、魔術式連発銃Vr.1.00、魔術式大砲Vr.1.00、魔術式地雷Vr.1.00だ」
「事象改変能力を全員が使えないのは承知ですけど、ならば魔術が最初からあるじゃないですか?」
「魔術に対しては魔術障壁が有効だろ? そして物理は事象改変能力かもしくは魔術によって構成した壁かもしくは盾などの物理的な防御しか出来ない訳だろ」
「成程ね、物理攻撃力を旦那は近接戦闘より遠距離からの戦等方式に変えたいのか」
「その通り、だからこの兵器開発は急がないとな、次にユイキスの神が攻めて来たら目に物を見せないといけない、この国を侵略する者は俺が許さんとな」
「任せろ旦那、俺は直接の戦にはでれねーが、その分をこの武器開発で貢献してみせるぜ」
「頼むよ、一応この武器用の魔術付与はロッティに頼んでるからさ」
「ロッティさんか、あの人の魔術は優秀だからな。でも特別性は旦那が担うんだろ?」
「ああ、それは勿論だよ」
「まったく、大魔王様ってだけでも大変だってのに、毎晩毎晩コツコツと良くやるもんだ」
「それでこの国の兵士が死なないなら俺にとってはご褒美だからな」
「流石3人もお后を迎える男は言うことが違うねえ」
「ハハハ、親方のお蔭だからな」
「フフフ、俺も負けないで次の嫁さん、おっと殺されちまうからやめておこう」
「俺もまだ親方の嫁さんに殺されたくないからな」
「「桑原桑原」」
「「プ、ハハハハ」」
更なる軍事力の強化策。その為に必要なのは圧倒的火力。親方には頑張って貰おう、そのうちに勲章を用意しようと決意しながら付与魔法の部屋へと比呂斗は移動するのであった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
付与魔法の部屋は武具管理室の隣にある。城内の近衛兵や衛兵、そして警邏部隊を除けば基本的な武具は全てここに保管される。特に付与事象改変能力の与えられた武具は管理が厳しく為されている。常に一隊の警備隊が常駐している為にここが城内で王宮に次ぐ安全な場所となっている。そんな一室で今日も一人黙々と作業を続ける一人の大魔王がいた。
「よし、これで今ある凹凸式甲冑Vr.1.02の付与魔法は終了っと」
ひたすら付与魔法を行う、鼻歌さえ最近は混じっているが、一切手は抜かれていない。
兵士の命に関わる物だ、付与の終わったものは手伝いをしている近衛によって即座に魔術耐性や物理耐性の検査が行われる。そういう意味では最初と違いボッチの作業ではないな。
「大魔王様、時には休憩をなさらないと」
そう次げてきたのは近衛でも筆頭のミレーヌだ。後2人が大魔王付きの近衛として常に付き従ってくれている。全員が吸血鬼一族で公爵だったり伯爵だったりする。云わばお嬢様親衛隊なのだが、この三名は実力に関しても中々の物でルルやフクを除けばこの国では敵うものがいない見た目を信じると痛い目を見る実力者だ。
「そうだな、一息入れようか」
「では直にお飲み物をご用意しますね」
即座に飲み物が準備されるが、こちらはまた侍女隊が用意してくれる。その手際はフクちゃんに鍛えられているとは云えど一分の隙も見当たらない完璧な所作、そして実は近衛に匹敵する強さを持つ実力者で選抜されている。採用基準ってどうなってるの? そうフクちゃんに尋ねたら剣技に優れた物が近衛、近接戦闘徒手格闘技に優れている者が侍女隊に選抜されるそうだ。恐るべし侍女隊である。
「次は何を付与魔法されるのですか」
「今度は侍女隊の制服だ」
「わ、私達のですか」
「うむ、侍女隊にも近衛とは違うが付与魔法の制服を着てもらう事にした」
「恐れ多くて着れませんよ!」
「何を言ってるんだか、我等近衛と同等の力を持つ者が侍女隊として入るというのに」
「だな、先日の戦場にも鎧をきて参戦してたであろう」
「その、確かにそうなのですが」
「受け取っておけ、その制服の下に鎖帷子を着込んでいるのは皆しっているぞ」
「そうなのか?」
「そ、その、はい」
「凄いな、それでいてその立ち振る舞いか。安心してほしい、我が訓練に使用して確かめた戦闘服と同等の付与魔法を込めるのだ。鎖帷子よりもこのメイド服で完全防御になろう」
「今着ておられる物はあの訓練で使用されている物よりも防御力が上なのですか」
「あれは訓練用だからな、特訓で痛さがわからぬと駄目と言われているので性能は敢えて落としてある」
「成程、でしたら侍女隊にとってこれ以上ない下賜の品となりましょう、我等のこの鎧など家宝にしたい程の物です」
「家宝にされると困るがな、使ってもらう事こそが武具の本来の意味だ」
「私達などが親衛隊の方々と同等の物を使って良いのでしょうか」
「それはどうしてだ」
「その、家格といいますか、我等は飽くまで一般からの応募」
「そんな事を気にするものがいるのか」
「少なくともこの国ではそんなものはいません、他国では一定の種族以外が王宮に勤める事は少ないようですが、我が国では実力者が優先されます」
「と云う事だ、フクに選ばれて仕事をしているのだ誇っていいと思うがな」
「有り難う御座います」
侍女隊の面々は一般市民からも雇用されている。流石に吸血鬼の国だけあって貴族はそちらの血族が中心になっている。だが優秀な者は一般市民でも途用するのがルルやフクの考えで、むしろ比呂斗の政策はそれをさらに推し進めている。一部の貴族などは領地の心配をする者がでる程らしい。
決まった役職が存在しない為にこれまでは地方貴族がそれなりに権力をもって治めていたのだが、国難に際して比呂斗は大魔王命令でトップダウンの国作りを進めている為でもあった。
大魔王ヒーロを頂点として軍部、内政、の各トップへルルとフクを沿え、内政のフクの下には法を司るロッティが付く事になっていた。現在は地方の領主を全て軍部と内政に組み込む作業を行う作業の真っ最中であった。なにしろ山を吹き飛ばした大魔王が推進する改革で反対する者など存在しなかった。
実際に領地がなくなる可能性は100%なのだが貴族の地位は保証され、寧ろ統治における心配などが完全に無くなる事と王都での暮らしは地方に比べてしまえば一目瞭然の違いであった。比呂斗としては今後地方も改革を齎す心算ではあったが先ずは王都周辺での改革に力を注いだので食から衛生面、衣類や屋敷の便利さまでが悉く違ったのが要因だろう。
比呂斗はお茶を楽しみ終わるとまたもや一人で黙々と付与魔法を掛け続ける作業へと戻っていた。その作業を見守っているのが貴族の近衛兵と闇輝人の侍女や獣人種の侍女達であるのがこの国のあり方を示している。
尊敬の眼差しにも気付かないで黙々と作業を続ける比呂斗は、この国にいる誰もが真の大魔王として認めているなど全く気にしていなかった。




