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大魔王様はすっとこどっこい

「エロの封印、エロの封印、エロ封印……」


 悪魔でも呼び出しそうなほどの勢いで一人呟く比呂斗、顔には生気がなかった。絶賛落ち込み中である。



 そうだよ、エロを封印すれば……

 無理です、そんな煩悩を捨て去るぐらいなら悪魔に身を売り渡すわ!

 ってそもそも大魔王だよ?

 煩悩の守護者と言ってもおかしく無いじゃないか、なんて開き直ってみるほど煩悩だらけではないしな……


「ハア……」


 テラスにでて頭を冷やしても碌なアイデアが浮かばない。というか何でヴィヴィは走って逃げたんだろうか、まずそこから見つめなおさねばならない、だが綺麗な女性に傍に居てほしいと思うのは当然だとして……


 あれか、大魔王だからモテテルってのを理解しきれてなかった訳だな。


 まずそこは反省しよう。


 で、傍に居てほしいと俺が言えば……大魔王だもんな、嫌って言えないよなあ。


 俺って馬鹿だなあ。ああ、どうして後悔って後にしか立たないんだろうか。

 土下座でもするか?

 いや土下座は誠心誠意を見せるには相応しい技術だけど、通じるかどうか解らんし、大魔王が土下座はちょっと色々と問題が……


 そして相談相手もいないんだよな。ルルもフクもこの件については相談できる相手じゃない。大魔王の完全新派シンパとまでは言わないが気を使うだろう、そうなるとヴィヴィとの関係が益々こじれそうだ。


 ここは一つ親方にでも愚痴ってみるか。いるかな親方。


 比呂斗が会場を去るのが大々的に伝われるのは拙いと考えて、テラス沿いに隣の部屋から抜け出すと工房へと向かったのであった。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「旦那、流石にそれは考えすぎじゃないか」

「そうだろうか」

「いや、確かに地位ってのは大事だ、ある種のステータスだからな。だが女はそこまで馬鹿じゃないさ」

「だがな親方、走って逃げたんだぞ?」

「まだまだ旦那は大魔王様と言えど若いからな、そこはテレだろテレ」

「テレって、照れ隠しなのか走っていったのが」

「そりゃそうだろ、そんなセリフを真顔で言われてみろ、しかも男装の戦姫ともなれば絶対に初心だぞ」

「うーん」

「そりゃ、同じセリフをルシフェル様ルキフグス様に言ったとしたらまた違う反応だっただろうけどな」

「だれだそのルキフグスって奴は」

「何言ってんだ?魔王補佐官様だぜ」

 あれ、もしかしてフクちゃんの事か、そういえば重要職については本名は基本教えないんだったな。

「ああ、なるほどな、ルシフェルに言えば……どうなんだろう、困らせそうだな、ルキフグスならはっきり拒絶されそうだが」

「はぁ、完全に自信をなくしてるなあ、いいですかい。言っとくが旦那が大魔王様ってのを抜きにして、今回の戦争でユイキス神の事象改変能力(マホウ)を防いで、しかも武器を用意したり防具を用意してこの戦を勝利に導いたのは間違いなく旦那だ。これは間違いないんだぜ」

「まあ、たしかに頑張ったとは思うぞ」

「だろ? そんな英雄的な大魔王様ってえ存在を慕う女性は多かれど嫌う女性なんている訳が無いじゃないですかい」

 そうなのか?

 でもエッチなのが問題、いや違うのか?

「うむ、解らなくなったが……自信を持っていても問題ない気がしてきたぞ」

「まあ、旦那が本気になったら好意を寄せてる女性は大量なんだから入れ食いってもんよ。おっとこれは俺が言ったなんて言わないで下さいよ(ルシフェル様とルキフグス様に殺されちまう)」

「大丈夫だ親方、まあ入れ食いはないさ。でもそうだな少なくとも大魔王らしく堂々としている事にするよ」

「(もったいないなあとは思うが)まあ、10年したらうちの娘もいい年頃になるからその時独り身だったら紹介しやすよ、ハハハハ」

「親方が義父か、それも悪く無いな。ありがとう親方じゃあまた明日くるよ、次のアイデアをもってくるから、また無理を頼むけど宜しく」

「ああ、それじゃあな、大魔王の旦那」


 テレかぁ、そうだったらいいなあと正解を得ながらもそれを希望だと思いながら比呂斗は部屋へと戻っていった。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 まさか比呂斗が落ち込んでいるなんて知らないヴィヴィは舞い上がっていた。


「あ、あれはお世辞よ、ヴィヴィ、そうおちつきないさ、落ち着きなさい」


 少々頭まで舞い上がりすぎて言葉まで侵食されている様子である。所謂いわゆる恋愛脳汚染エアヘッドである。

 先程からヴィヴィはウフフ、エヘヘと奇妙な声ばかり発していたのである。そしてこういった症状は途端に現実に自分を引き戻すと同時に逆の想像も本人に与えるのである。本当の意味で自分に自信があればこんな状態に落ち込まないので当然と言えば当然の事態であるが、今まで恋愛経験など全くなかったヴィヴィにとってまさに初体験の連続であった。


「よく考えたら、私の顔の傷の事を……忘れてた、何を私は浮かれてたのかしら、ヒーロ様はきっと落ち込んでる私を慰める為にだけ言ったのよ……そうよ、だったら納得がいくわ」


 先程まで笑っていたと思えば今度はベットにうつ伏せになって涙を流し始めてしまう。末期症状と言っても良いかもしれない。そしてまたも姉たちのようになぜ淑女としてドレスの一着も持たずに来たのかと嘆くのである。


 まさかヒーロが男装が素晴らしいのだよと本気で言っているなどとは恋愛経験値がマイナスを記録するヴィヴィにとっては予測不能の事なのだ。そして先程突然にしてヒーロの前から姿を消してしまった自分の行為を思い出してしまった。


「し、しまった、浮かれすぎて逃げ出すなどと……これは人としての問題ではないか」


 どうすればいいのか解らずに立ち上がって部屋の中をグルグルと歩き出してしまう始末である。

 出産時に落ち着かなくなって動物園の熊のようだと揶揄される状態である。相当追い詰められていたのだろう。


 そのままフラフラと幽鬼のような表情になったヴィヴィは部屋をでて歩いている事にも気が付いていないで城内を彷徨ってしまうのであった。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 祝賀会の会場ではヤキモキしている2人の乙女がいた。表面上には現さず、心の底で早く駆けつけなければいけないのではないかと、ヒーロが居なくなってから考え続けているのである。

 女の直感に従って動くなら早期にヒーロの下へと駆けつけたいのである。しかし魔王と補佐官という立場が彼女達を縛り付けていた。


 ルルもフクもお互いの立場、そして親友同士という枷さえなければとっくの昔にヒーロへと想いを伝えていたはずである。そしてお互いを思うが故にヴィヴィに抜け駆けされてしまったのではないかと考えているのであった。半分は正解であるし、まだ実現していないという意味では不正解でもある。


 だが女の感はこのままではいけないと告げているのであった。

 2人は目を合わせた、どちらが確認にいくかである。

 そしてお互いこの問題に関してだけは譲る選択肢が存在し無い事を確認してしまっただけであった。


 斯くなる上は……2人は再度目を合わせ、違う扉から夫々が一時退出と言って会場を後にすることにしたのである。まさに竹馬の友である2人にしか出来ない芸当である。そして肩をぶつけ合いながら共にペースを守って歩く所も幼馴染故の呼吸である。


「判ってるわよねフク」

「もちろんよルル」

「この恋は独り占めは出来ないわよ、人形のドラクみたいにはいかないわ」

「当たり前よルル、ノストを譲るのとは意味が違う、だからって」

「「第一王妃は譲らない」」

「フフフ、でもいいわ、フクなら第二王妃を認めましょう」

「あら、偶然ね、私もルルなら許してもいいかと思ってたのよ」

「そこはヒーロ様次第だけどね」

「無駄に乳だけでかいからって、括れに引かれる男は多いのよ」

「フフン」

「クッ、確かにスタイルでは一歩リードしてるかもしれないけど、知力まで含めれば」

「ヌゥ、それは頭はフクちゃんが賢いのはしってても、愛には関係ないわ」

「それはスタイルも同じ事よ」

「グヌヌヌヌ」

「グヌヌヌヌ」

「こんな事をしてる場合ではないわ、急ぐわよ」

「そうね、ここは一先ず休戦よ、こうなる前に一度3人で話し合うべきだったわね」

「今考えてもしかたないわ、先を急ぎましょう」


 そして銀と金の光が城内を走りぬけた。変身能力までつかって何処まで行こうとしてるのか、確実に比呂斗がいる場所である事だけは間違いなかった。

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