大魔王様喜劇にする
宴会の会場は王宮の広間であったが、王都全てが会場となっていると言ってよかった。これまで幾度か戦争をしてきたスイペンではあるが死者がいない戦争などは初めてだったのである。準備を進めていたにしろ多少の犠牲は全員が覚悟していただけに喜びは一層増したのであった。
1万で4万を撃退した事はそれだけでも大きな出来事である。
種族の差を考えたとしても、昼間の戦闘であり国民は歓喜と共に国軍の帰還を祝ったのである。
「では勝利を祝して、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
一部からはそのまま人間界への侵攻も可能ではないかとの声なども聞こえる。
そんな事はしないからね?
だがユイキス神は倒す必要があるな……
あれは危険な存在過ぎる。
消滅させる事は難しくても信仰を奪い取られれば弱体化もするし、封印される事もあるそうだ。
フクにもっと詳しく説明を受けないといけない。
まあそんな事は正直どうでもいいのだ。
目の前にいる妖精のような美女達を前に無粋な話は抜きである。
ルルは薄い青色と白をあわせたドレスで髪を結って巻き上げている。隠し切れないダイナマイト!
これは正直にいって目のやり場が自然と誘導するように狙っているとしか思えない。
ナイス侍女隊!俺は思わず後方に控える侍女たちに賞賛の眼差しを送った。
どうでしょうかとその目が訴えているのが解ったからである。
勿論完璧だとも!あの谷間を完璧と言わずしてなんと表現すれば言いのだろうか。
フクもドレスを身にまとっている。執事服も似合うが変身時のラバー系セクシー鎧を知っているだけにマーメイド系のドレスが非常によく似合っている。これは侍女隊ではなく自分で用意したものであるらしいが己を生かす方法をよく心得ている、流石としか言いようが無い。腰の括れを生かすとは……
やるではないか!
ヴィヴィは何時もの軍服である。鎧も素敵だが、ヴィヴィは軍服が似合う。一度はドレス姿も見てみたいのだが、今度送ってみようか……。だがこの男装の麗人は凛々しさの中に気品と美しさまで持っているのだが、変な趣味に走る気はないとだけは宣言しておこう。あくまで中身が美しいヴィヴィだからこそこの男装に引かれるのである。まちがえてもマラ○ヒとかそっちには興味はない。ネタで許せても本人はノーサンキューである。
「ヒーロ様、やはりこのフォークというものは食べやすくて宜しいですね」
「うむ、やはり手掴みが悪いとは言わないが皿に盛った料理などはこうして食べる時に便利だからな」
祝賀パーティーはかなり俺の意見が反映された。この立食形式で好きなものを食べれるようにさせたのも俺の指示である。そして音楽を取り入れさせたので中央ではダンスが繰り広げられている。
このような形式では宴を開いた事が無いらしい。
だが席について喋るよりも交流も深まるし、なにより楽しい。
だがルルとフクは何時もどおりとして、ヴィヴィが若干元気が無さそうに壁際にいるのが気になった。
折角のパーティーである。
大きく考えればホストという役目は大魔王なのだ。
うん、一人を気にしてるわけじゃあないぞ。
「どうしたヴィヴィ」
「ヒーロ様、いえ、人間の私がここで祝っていて良い物かと思いまして、本来なら捕まっても当然のはず」
「何を馬鹿な事を言っているんだ?」
「馬鹿ですか」
「そうだ、ヴィヴィ、一緒に俺を守って戦場に居たのは誰だ。
我はアメラと戦争したとは思っていないぞ。あれはユイキス教との戦いだ、参加していただけなら他国も混ざっていたではないか」
「確かにそうなのですが……」
「気になるものは仕方がないのかもしれぬがな、前に言った時からヴィヴィが我の傍にいてくれて嬉しくおもっているのは事実なのだ」
「それは……その、どういう意味でで御座いますか」
どういう意味ってどういう意味?
それは男女としてだが……
「ヴィヴィのような美しい女性が傍に居てくれて、その嬉しくない者などいないと我とて思うのだが、可笑しいか」
「あの、えっと……失礼します」
あれ?もしかして選択肢ミスですか。
いや、うん、もしかしたらミスかもしれないなあとは思ったんだよ。
うん。
何も言わなくていいさ。
所詮は大魔王という肩書きですよ、ええ、中身はこれですから。
この世界にきて初めて凹んだ、ちょっと泣いてもいいですか?
「ヒーロ様如何されましたか、ヴィヴィが(顔を赤らめて)走って(照れながら)行きましたが」
「ああ、ルル」
そうだよ、こうやってルルを見ても胸元に視線がいく唯のスケベですよ。
「いや、すまない、どうやら我は何か勘違いをしていたようだ、ちょっと風にでも当たりにテラスに出ている」
「???」
うん、ルルもやっぱり可愛いなあ。大魔王としては慕ってくれてるんだろうなあ、すまないスケベで。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「ヒーロ様はどうされたのだ?」
「フクちゃんに解らない事は私も解らないよ」
「うーむ、なにやら落ち込まれているようにも思えるが」
「この衣装が気に入らなかったのかな」
「いや、似合っているだろう」
「そうなのかなあ、ヒーロ様はフクちゃんのドレスの括れに釘付けだったし」
「いや、ルルの胸元の破壊力に釘付けだったと思ったのだが」
「「もしやヴィヴィの一人勝ち?」」
「男装なのか?」
「男装はたしかにヴィヴィの十八番かもしれないけど、なんだかヴィヴィが顔を赤らめて出て行った後からかなあ」
「やはりヴィヴィの勝利か」
「私の魅力じゃ無理なのかなあ」
「それはないと思うのだが……」
「戦争の事で胸を痛めておいでなのかもしれない」
「その可能性はあるな」
何処までも比呂斗を好意的に見てくれる2人であった。故にまさか自己嫌悪の内容がスケベである事についてまで及んでいるなど思いもしない。ヴィヴィが比呂斗に思いを寄せている事も二人は知っていたからである。悲しいすれ違いも此処までくれば喜劇であった。




