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灰色頭脳を持つ大魔王様

 一人で取る夕食なんて真っ平御免と常に4人で食べるようにしている。ボッチ飯の何がいいというのか、高貴なマナーとか知らん、ご飯は美味しく食べる為にあるんだよ。

 4人でも少ないぐらいだぞ。

 俺は現在親衛隊も含めるように画策中だ。

 現代社会なみにややこしいマナーやルールは存在しない点はいいのだが、身分やなんだと煩いのだ。


 フークーが一番の障害になりそうだからな、早めに懐柔しよう。


「やはり皆と食べる食事は最高だ」

「ヒーロ様は権威だとか威厳だとか嫌われますね」

「それを持ったところで美味しいご飯は食べられん」

「魔界を統治するべきお方です、多少はお考えを」

「私も国では一人の食事をする王族より、

 軍で食べる野営中の方が楽しいですわ」

「うむ、ヴィヴィアン殿は解って居るな。

 明日からは更に余に付き従っている三人も加えよう」

「ヒーロ様…」

「構わぬだろう、あの者達も公爵家出身と聞くぞ」

「はぁ、ではその様に手配いたしましょう」

「余が考案した料理を明日は出そう」

「ヒーロ様の考案した料理ですか」


 フッフッフ、手づかみとスプーンとナイフのみの国に箸を導入してくれるわ!

 俺は明日の晩にこの世界に革新をもたらすぜ!



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 晩御飯を食べ終わると俺は作らせた工房へと向かう。

 日課である付与魔法(エンチャント)のお時間なのだ。


 付与魔法(エンチャント)も数種類存在する。

 これは毎晩地道に努力した結果だ。

 火などの属性を付与するのは比較的簡単だ。

 炎の剣、氷の剣、風の剣、雷の剣はまさに攻撃用の魔剣としては最高の物だろう。

 これをコツコツと作り続けた。

 伝説の武器職人にでもなった気分だ。なかなか楽しかった。

 気分を良くした俺は調子に乗っていたのだろう。

 そして次は盾や鎧へと付与するのに付与魔法(エンチャント)を使って倒れたのだ。

 ルシールに授けたクラスの魔剣を生み出そうとすると大量の魔力を消費して、下手をすれば魔力欠乏症に陥る。あれと同じ現象が起きた。

 ルシールの魔剣は全てを切り裂く事をイメージして付与した。

 盾は全ての魔法攻撃無効をイメージしたのだ。

 ガッツリと減った、それはもう見事なほどにぶっ倒れた。

 目が覚めた俺の前には黒く輝く盾が鎮座していた。

 わからん、炎無効の盾なんていくら作っても倒れないのだ。


 翌日その盾の効力を調べる事になりフークーにE級から順に魔法を放ってもらった。

 フークーが使用できる最大級の魔術はA級殲滅級魔術だ。個人レベルでA級魔術を操るのだから如何に優秀な人材かが伺われるな、所謂エリートだ、流石クールビューティー。


「火の理、無限なる煉獄、灼熱の業火、其の炎は全てを焼き尽くす物なり、ヘルフレイム」


 城壁にも穴を穿つか破壊してしまうという殲滅級だレジストしなくては盾など木っ端微塵のはずなのに、盾を構えた案山子は無事だった。


「これは、とんでもない魔具ですね」

「そうか、フクに褒められるとはいい性能なのだな」

「A級の魔術をレジストしているのですよ。

 これが素晴らしいと言わず何と言うのですか」


 まあ褒められたところで量産はできないんだけどね。

 さらに試したのは火属性のみの物、C級までは耐えれたがB級になった途端に粉砕された。

 B級からは複合魔術になるため仕方ないらしい。


 そこで、俺が作った日産10個限定の盾の登場である。

 C級までのレジストをイメージして作った盾である。

 これはB級魔術までは防いだ。そしてフークーのA級には一撃のみ防ぎ力尽きて砕け散った。

 なかなか優秀である。


 親衛隊の分だけでも早速増産する。


 この作業は鎧も含め日々寝るまで続けた。


 夜なべで魔具を作り続けた大魔王として名前が広まらないように願うのみだ。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 魔界に召還されてからこうして一月が過ぎ去った頃にフークーが手配していた使者の返答が訪れた。

 使者を派遣したのは魔界全土にある王国と人間の支配する地域に対してである。

 ルシールとフークーには無駄かも知れませんよと言われたが、大魔王降臨で纏まってくれれば幸いなのだ。


 一人目は一番近い魔界中央に勢力がある魔人国ブランデンからの返答を携えた使者だった。


「貴国に現れた大魔王名乗る者が本物か否か不明である。

 よって我等がその者の力を確認するまで認める事は出来ない」


 俺が本物かどうかわからないから認めないってことね。


「魔界における正義は力、統治を臨むなら参られよ。

 以上が我が主よりの返答で御座います」

「あの頭でっかちの言いそうなことだ…」

「ふむ、出来れば戦いをし無駄に死者を出したくないのだがな」

「大魔王を名乗るのであれば力を示されよ。

 さすれば私が主に伝えよう」

「ふむ…卿はこの国に来た事はあるか」

「使者として数度は」

「これ以上山を吹き飛ばすのもどうかと思っててな。

 幾度も来た事があれば此処から見える山があった事は知らぬのか」

「その山を消し去ったのが大魔王の力だと」

「様をつけぬかこの無礼者がっ」

「失礼、大魔王様の力で山を消されたと、そう申されるのか」

「うむ、必要ならば何時でも消せる。力を見せる必要があると言うならば、そなたの国の山を消しに行くと伝えてくれ」

「…解りました、主にはそう伝えましょう」


 使者を数度も務めてるならテラスからみた景色の違いに気付くだろ。

 なんだろう、力が正義って頭まで筋肉になる事なのか?

 ルシールなんて斬りかかりそうな程怒ってるじゃないか。

 ならば戦争だと言って来ないだけ警戒はしてるのだろうし、隣接国の中でも一番大きな国が仕掛けてこないならばそれでいいかと俺は思うことにした。


 それから3週間で魔界の有力三ヶ国の使者も到着したが、どこも同じ態度だった。


 力こそ正義、俺達を押さえつけるならやってみろ。

 使者の言は要約すればこうである。

 全ての国が山切り開いた王都周辺を見てきてるから戦争を仕掛けて来ないだけの頭はあるようだ。



 人間との隣国はヴィヴィアンの祖国だったので此方は和やかに締めくくられた。今後、相互不可侵条約締結に向けて協議する事も決まったのだ。但しヴィヴィアンは教会派の動きが不明な為大使として留まる事になった。


「ヴィヴィアン殿、余はこれまで過ごして信頼している、国許に帰る必要があればいつでも帰国されても問題はない」


 俺としては精一杯気を回した心算だったのだ。

 いや本当に、やっぱり故郷が気になるだろうと思ったんだ。


 それがどうして泣く事になるんだよ。嬉し泣きって事かなあ、そうだといいなあ。


 教えてプリーズ!


 咄嗟にルシールとフークーに助けを求めた、ヘルプミー!

 だが向けられた視線は何やってんですかアンタ、と冷めた目線…

 俺が悪いんですか、いえ、女性を泣かせたらそれは男が悪いんですねハイ姉上達にも散々言われてきました。


 考えろ俺の頭脳よ!

 少ない灰色頭脳で最適解を導びくんだ。


「余の本当の気持ちは違うのだがな、

 出来ればこのまま貴方に居て欲しいと思っているのだ」

「ハイ」

 

 泣き止んで俺を見てくれた、よかったぁ。

 危機は脱した…どうよ!

 ルシールとフークーの眼差しは変わらなかった。


 あれ、なにか間違ったか?

今回の更新はここまでです

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