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第52話 血戦

 町の中心を走る大通りを、数100人の兵士たちが歩いていた。

 兵士たちは黒塗りの小型馬車を中心にして歩いていた。その馬車を操っているのはレナードだった。荷台後方の(へり)にセイジが立っている。出っ張りをつかみ、縁のわずかな隙間に足を乗せ、あたりを注意深く見渡していた。


 馬車の中にはクレアとリムが乗っている。二人の体力の消耗を抑えるため、馬車に乗せていた。荷台も通常とは違い、魔法防御が施された特性品だ。並の魔法では傷一つつかない。

 二人は今回の切り札だ。何があっても守らなければならない。そのためセイジは馬車に同乗せず、荷台の縁からあたりを注意深く監視していた。


 馬車の周りを囲んでいる兵士も、あたりに気を配りながら歩いている。ゼオが回してくれた兵士100人だった。

 さすが本部に勤めている兵士たちだった。先ほど作戦が説明されたときにも声一つ、表情一つ変わらなかった。全員、死の覚悟が出来ている兵士たちだ。


 後ろには途中で合流してきた兵士たちがいた。メルドム勤務のエミリーナ兵と警備兵達だ。その数は50人程度。

 本来はもっといたのだが、作戦を簡単に説明し、メルドムを守るため死ぬ覚悟のある者のみついてこい、と告げると大概は逃げ腰になった。怯えた兵士は避難場所の防衛に回し、死ねる者のみついてこさせた。50名しかいないのか、50名もいると言っていいのか解らない。

 エミリーナの兵でも大概が逃げた。警備兵でも残るやつはいた。後ろからついてきている警備兵が、大声で話しているのがセイジの耳に届いた。


「俺が死んだら、母ちゃんが泣いちまうわな」


「おお、泣いて喜ぶんだろう? 見舞金の多さに」


「そうそう、やっと父ちゃんが死んでくれた、しかも金もいっぱいもらってくれたってな」


 男が大声で笑った。周りのエミリーナの兵士も一緒になって笑っていた。

 顔を向けると、兵士と言うより、ごろつきのような男が剣を担いで哄笑(こうしょう)していた。今の時分にはなんとも心強い。


 急に馬車が止まった。敵か? と顔を戻したが違うようだ。前方からやってきた兵士二人がクラウスに何か告げている。

 とはいっても二人のうち一人は頭から血を流し、もう一人に肩を貸してもらい、ぐったりとうなだれていた。無事な一人が息を切らしながらクラウスに話していた。

 やがて二人が道の端にどいた。再び馬車が歩き始める。二人は壁により掛かるように座っていた。血を流している方は頭を下げたままぴくりともしない。


 ちらりと見て、助からないだろうなと思った。まともに頭が割られている。これ以上歩くのは無理なのだろう。

 クレアの回復魔法を使えば助かるのかもしれない。だが、魔法を使わせる訳にはいかない。魔力は少しでも温存しなければならない。

 先頭を歩いていたロウガが、セイジのところまで下がってきた。


「敵に人間が混じっているようだ」


「人間? スケルトンを操っている者と言うことか?」


「そうらしいが、妙な格好をしていたと言っていた。黒い装束を身にまとった者達がスケルトンと共に襲いかかってきたと。しかも1人2人じゃ無い、3、40名はいるとのことだ。共闘していたので、仲間であることには間違い無い様だが」


「黒い装束だって?」


「思い当たる節があるのか?」


 セイジはクレアを助けた時に戦った黒装束の話をした。


「なるほどな、そりゃ間違いないだろう。昨日のミノタウロスもそいつらの仕業なんだろうな」


「最初の時も、現場には何種類の魔物の死体があった。そう考えるのが自然だろう」


「目的は何だと思う?」


皆目(かいもく)見当が付かん。強いて言うなら法皇を狙っているのだろうが……」


「まあ、あいつら捕まえて口を割らせるしか無いか」


「そう簡単にいく相手じゃ無い。戦闘能力に関して言えば、ロウガ傭兵団(うち)の兵隊といい勝負だ」


「……まじかよ、そりゃまいったね」


 ロウガはボリボリと頭を掻いた。そのまま前に進み、今度はレナードに話しかけていた。今の話を伝えている様だ。


 やはり、今回の件は全てつながっている様だな……。


 セイジはあの時遭遇した5人の黒装束達を思い浮かべていた。

 全員、ただ者では無かった。個々の戦闘能力も高かったが、連携も見事だった。例え1人2人やられようが、確実に相手を仕留める、そういった動きが出来る者達だった。

 5人いた内、2人を不意を突いて倒せたから勝てた。もし、5人全員に囲まれていたら斬り抜けられたかどうかは解らない。今日出会ったグランドナイツの面々よりも強いかも知れない。

 黒装束は自分達で引き受けるしか無い、と覚悟を決めた。いかにエミリーナ兵といえども、奴らが相手では被害が広がる一方だ。


 思考を巡らせていたら、再び馬車が止まった。今度はクラウスがセイジの元にやってくる。


「すぐ先の広場で敵が展開しているようです。スケルトンの姿が確認出来ます」


「こちらを待っていた様だな。どのみち突破しなければならない」


「馬車はここまでとして、後は陣形を組んで進みましょう」


「了解した、クレアとリムを出そう」


 セイジは荷台から飛び降り、鉄製の重い扉を開いた。中にいた二人がセイジの方を見る。


「敵が見えた。ここからは徒歩で行く。降りてくれ」


「解りました」


「は、はい!」


 二人が荷台から降りてくる。クレアはいつもと変わらない様に見えるが、リムは緊張でがちがちになっている。


「リムは私が」隣からレナードの手が伸びてきて、リムを抱き寄せる。見上げたリムがほっと息をつくのが解った。


 クレアが右手に腕を絡めてきた。一瞬迷ったが、セイジも応じる様にクレアの手を握った。

 敵がどこから来るか解らない以上、本当は右手は開けておきたいところだが、クレアの心を平静に保つことが重要だと判断した。


「全員、陣形を組め! これより敵陣へと入る」


 クラウスが声を上げた。




 一団は陣形を組み、ゆっくりと通りを歩いていた。

 先頭をロウガと本部のエミリーナ兵が歩く。中央にクラウス、セイジとクレア、リムとレナードが歩き、その周りを大盾を持った兵士が囲みながら歩いている。後ろに現地のエミリーナ兵と警備兵が続く。

 先程まではちらほら聞こえた話し声は無くなっていた。全員、真剣な表情で前を見据え歩いている。


 やがて広場の入り口付近に来た。


「ここからでもスケルトンが見えますね」


 レナードが呟いた。セイジも囲んでいる兵達の隙間から、白い異形の物体が見えた。


「動いてこないな」 


「待ってるんでしょうね、ご丁寧に」


「魔法の射程もある。なるたけ近寄りたいところだが……」


「どうですか? クレア様」


 クラウスの問いかけにクレアは唇に手を当てて考えていた。


「……少し遠いですが、それ以上は無理でしょう。ここで詠唱してみます」


「詠唱の時間はどれほど……」


「広域魔法ですので、15分はかかりましょう。急いで魔力が崩れてしまってはどうしようもありませんから」


 15分か……、とセイジは心の中で呟く。


「了解致しました」クラウスは兵の輪の中から外れた。すぐに、進行止まれ! という大声が響いた。一斉に兵達の足が止まる。


「レナード、そろそろ俺たちも前に出るぞ」


「了解です」


 セイジはクレアに顔を向けた。クレアもじっとセイジを見上げていた。


「クレアが鍵だ。頼む」


「…………はい」


 握っていた手にほんの一瞬、力が込められた。やがてクレアの手が緩み、セイジの手を離す。

 クレアの目は震えていた。離れたくない、と必死に訴えていた。その目から逃げる様にセイジは顔をリムとレナードの方に向ける。

 リムはレナードを見上げ、手を離そうとしなかった。体が震え、今にも泣きそうだった。


「リム、行ってくるよ」レナードは優しくリムに話しかけた。


「おじさま……おじさま……」


「心配することは無い、いつも通りだ、私は生きて帰る。約束は守る」


「はい……はい……」言いながらリムの目から涙が溢れ出した。レナードがリムの手に自分の手を重ねると、ようやくリムは手を離した。


「では行きましょうか、隊長」


「ああ……」


「セイジ様、レナード様、ご武運を」


「おじさま、先生、どうかご無事で……」


 セイジとレナードは並んで歩き出した。その背中に二人の声が投げかけられる。


「どうですか、隊長、今のご気分は」


 レナードの言葉に、セイジは不機嫌そうな顔でちらりと視線を向けただけで、何も答えなかった。

 

 10日酔いみたいな、最悪の気分だよ。


 鉄の塊の飲み込んだ様な重苦しい感覚が、胸の中で渦巻いていた。




「お、来たか、色男共」


 隊の先頭にいたロウガが、二人の姿を見つけ、にやにやしながら首を回した。


「見ろよ、うじゃうじゃいやがるぜ。何ともな光景だ」


 ロウガの指さした方向にはスケルトン達が群れを成してうろついていた。いまだこちらに来ることは無く、同じ所をうろうろと歩き回っている。


「お前さんのお姫様は、詠唱にどのくらいかかるって言ってたか?」


「15分見てくれ、との事だ」


「15分か……それでどれだけスケルトンを潰せるかが肝か」


「それだけじゃない、まだ後ろにもいる。その事も考えるとな……」


 クレアの魔力を考えれば、スケルトンは相当な数を祓えるはずだ。前に出てきている200体全て祓うことも出来るかも知れない。

 後に控えているもう200体のスケルトンまでにどれだけの戦力が残るか、それが一番の問題だった。


 ……黒装束達の実力次第だな。


 そうセイジは考えていた。40名近くいる黒装束達が、あの時の者達と同じ実力を持っているとすれば勝ち目はない。全滅は必死だろう。


 だが、セイジはそれは無いと考えていた。希望的観測もあったが、もしいたのであれば、ライトン襲撃時にもっと戦力を投入していたのでは無いか? と考えたのだ。

 クレアの話によれば、襲撃した黒装束は10名程度だったという。他に魔物達がいたことを考えてても、戦力としては少ない。それで足りるというより、それしかいなかったと考える方がしっくりくる気がした。


「ポイントは黒装束の奴らだと思う」セイジはロウガとレナードを見た。


「奴らの戦闘力は相当なモノだ。放っておいては被害は広がる。なるべく俺たちでしとめたい」


「了解だ。ところでセイジ、お前魔法ぶっ放さねえの? ほれ、あの広域吹っ飛ばす危険な魔法」


 ロウガは暗黒暴風(ブラックストーム)を言っている様だった。セイジは辺りをぐるりと見回す。


「周りに高い障害物がありすぎる。これでは標的にぶつかる前に建物に当たる。逆に危険だ」


「んだよ、使えねえな」


「悪かったな」


「まあ、後の切り札としてとっておきましょう。もっとも詠唱する暇があるかどうかは解りませんが」


「結局は宝の持ち腐れで終わるってか?」


「お前らな……」セイジは二人を睨む。


 メルドム常駐の兵達を引き連れ、クラウスが戻ってきた。


「配置完了しました。クレア様も詠唱を開始されます」


「解った……クラウス、先陣は俺たちに任せて、クレア達の警護に就いてくれ」


「……しかし、それは」セイジの言葉に、クラウスは困惑の表情を浮かべる。


「クレア達がやられては元も子もない。お前の出番は俺たちがやられた後だ」


「……………………」


 スケルトン達の動きが変わった。一斉にこちらに振り向き、のそりと動き出した。

 クレアの詠唱が始まったのだ。自分達の弱点である浄化魔法を、スケルトン達は敏感に察知する。己の障害となるものを嗅ぎ分け、排除しようと動き出した。


「クラウス下がれ、俺たちに任せろ」


「……了解しました。クレア様達は私が命に代えてもお守りします」


「頼む」


 セイジは刀を抜いて右手に下げた。ロウガとレナードも戦闘態勢をとる。


「いいか、野郎共! 骨共をここから先に一体たりとも通すんじゃねえぞ!!」


 ロウガが大声を上げた。「おお!」と言う声がばらけて上げる。


「行くぞ! 死んでも守れ! いいな!!」


「おお!!」と鬨の声が上がる。全員が覚悟を決めた目になっていた。


 スケルトンがぞろぞろと迫ってくる。それに混じって黒い影がちらほら見える。黒装束達だ。


「ロウガ、俺は黒装束に行く!」


「おう、前出過ぎんじゃねえぞ!」


 セイジ達も一斉に動き始めた。兵達もばらける。スケルトン達も合わせる様に広がる。

 一瞬にして広場は戦場となった。

 

 

 

 セイジは他の兵達より、少し前に出ていた。


 今の目的はクレア達の防衛だ。詠唱の時間を稼ぎ、なるべく多くのスケルトンを祓う。前に出ず、防御に徹し、後半のスケルトン200体に備える作戦だった。

 セイジも元よりそうするつもりだった。だが、今は少し状況が変わっている。


 どこだ、とセイジは目を左右に走らせた。一体のスケルトンがセイジに気が付き、歯をカタカタと噛み合わせながら近寄ってくる。動くはずの無い髑髏(どくろ)の表情が、獲物を見つけた喜びに歪んだ様に見えた。

 無造作に剣を振り上げる。セイジは一気にスケルトンの間合いに入り込んだ。

 

「しっ!」と息の吐く音と共に斬り上げた。スケルトンの胸骨を刀が逆袈裟に裂いていく。

 胸を寸断されたスケルトンがそのまま後ろに崩れ落ちた。セイジは斬り上げた刀を引き寄せ、すぐさま反転する。

 後ろから別のスケルトンが迫ってきているのは解っていた。突いてきた剣の脇を抜け、胸を横一文字に薙いだ。剣の重みに引っ張られる様にスケルトンは前のめりに倒れ、そのまま動かなくなった。


 スケルトンのやっかいなところは痛覚が無いところだ。腕を斬り落としても、足を裂いても奴らは決して止まらない。弱点は頭部である。だが、刀では頭部は狙いづらい。斬り下ろしても頭蓋骨は固く、丸みに刃が滑りやすい。突くか薙ぐしかない。

 セイジは胸を狙っていた。経験上、ここを深く斬り裂いても機能が停止することを知っていた。


 本当は腹が一番斬りやすい高さであるのだが、そこを斬ってもスケルトンは止まらない。上半身だけで地面に這いつくばり、その場で剣を振り回す。低い位置で暴れるため、剣が届かず、よりやっかいになる。

 頭部か、頭部に近い位置に強いダメージを与える。これがスケルトンとの戦い方だった。


 視線の先に黒装束がいた。周りに3体のスケルトンがいる。その後方に、二人の黒装束が見えた。

 セイジは駆けた。気が付いた黒装束が指さすと、スケルトン達が向かってくる。


「はあっ!!」


 掛け声とともに、セイジは先頭のスケルトンを薙ぎ斬った。崩れるスケルトンに目もくれず、スケルトンの剣をその場で踊る様にかわし、あっという間に2体のスケルトンを斬り倒す。

 止まらず、そのまま駆けた。黒装束が驚きで目を剥き、後ろに下がりつつ、剣を振り上げる。


 遅い!


 詰めるセイジの動きの方が圧倒的に早かった。刀を振り上げながら、あっという間に黒装束の眼前に飛び込んだ。その瞬間には刀を振り下ろしていた。


 まさに疾風迅雷の動きだった。


 刃が肩口に落とされ、そのまま垂直に斬り下ろされる。黒装束は振り上げた刀を下ろすことも出来なかった。叩き付けた刃が肉を骨を一気に裂いていく。肉がまるで豆腐の様に斬られていき、股下までまっすぐに抜けた。


 斬りすぎだ!! 


 ぞくりと背筋に寒気が走った。胴田貫で人を斬ったのは初めてだったが、自分の想像より遙かに斬れた。いや、斬れすぎた。

 慌てて刃を止めた。地表すれすれで止まった刀を引き寄せ、後ろに飛び下がった。どう、と血が噴き出し、両断された黒装束の体が二つに分かれ、地に崩れ落ちた。

 ふう、とセイジは一つ息を吐いて、焦りで乱れた呼吸を戻そうとする。周りの牽制も含めて凄絶(せいぜつ)に斬るつもりだったが、ここまであっさり斬れるとは思わなかった。危うく刃が地を()むところだった。


「うわわっっ!」


 駆け寄ってきていた黒装束達がたたらを踏んで慌てて止まった。そのままじりじりと後退していく。目の前で人間が二枚に()()()()()のだ。あまりの残酷な斬り様に、腰が引けるのも当然だった。

 入れ違いにスケルトンがゆっくりと近づいてきた。スケルトンに恐怖という感情は無い。両断された黒装束に目もくれず、ゆっくりとセイジに近寄ってくる。


 セイジの呼吸も戻っていた。右手に刀をぶら下げたまま、その場に立っている。

 目に宿った冷たい光が、歩み寄るスケルトンを冷徹に捉えていた。




「馬鹿な……」


 コタローが遠眼鏡を除きながら呻いた。その目はセイジを離すこと無く捉えていた。


 生きていたというのか! あれほどの傷を負いながら!


 信じられない事だった。間違いなく死亡したと思った男が、今、目の前で何事も無かった様に刀を振るい、仲間を斬り刻んでいる。その動きは昨日と何も変わらない。コタローにとっては悪夢以外の何物でも無かった。


 間に合っていた? クレアの回復魔法とはそれほどであったか……。


 ぎり、と唇を噛んだ。やはり攻めておくべきだったか。そう思っても後の祭りだった。

 ふと、ジュウメイを起こしていないことを思い出した。振り向くと、寝ていたはずの裏路地にジュウメイの姿は無かった。ぐるりと見回したがどこにもいなかった。


「ほほほ……」ななめ上方から不気味な笑い声が聞こえた。顔を向けると、ジュウメイが塀の上でしゃがみ込み、広場の方を目を細めてみていた。


「エミリーナなど腑抜けの固まりと思うておったが、なかなかどうして(つか)い手がおるようじゃのう」


 ジュウメイが塀の上から飛び降り、物音一つ立てる事無く、コタローの隣に降り立った。


「刀を振っている男がいたのを見ましたか?」


「おお、いたな。あいつは別格だな。頭1つどころじゃ無い、10個ぐらいは出ておる」


「あの男です。部隊の4名を斬り、自分の右手を落とした者は……」


「ほほう」ジュウメイの目がコタローに向けられた。


「あやつ一人だったのか?」


「一人でした。囲むことも出来ず、一太刀も浴びせること無くやられました」


「実力を見誤ったな、あいつと真正面ではワシもおよばんだろうよ」


 コタローは目を剥いた。ジュウメイの口からおよばないという言葉が出てくるとは思っても見なかった。


「ジュウメイ殿でも奴には勝てませぬか?」


「慌てるな、正々堂々では及ばないと言っているだけだ。勝てないとは言っていない。まあいい、奴はワシが殺ってやろう。後は勝手にやらせてもらうぞ」


 そういうと、ジュウメイの姿が消えた。足音一つ立てずに闇に溶け、走り去っていく。何を言っても聞く人では無い。勝手にやってもらうしか無かった。


 スケルトンも追加しておくしかないか……。


 コタローは手の中の鈴を握りしめ、広場をぐるりと見渡した。

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