第45話 愚者
ゼオとの打ち合わせはすぐに終わった。
明日の行程、割り当てなど5分もかからない内容だった。正直、立ち話でも済む内容だった。ゼオはセイジの不思議そうな顔を見て、
「なあに、猊下から逃げられる様に言い訳を作っておいただけだ。話し好きであらせられるからな。侍女がいつも困っておったよ」
と言って笑った。セイジも苦笑いで答えた。
確かに大変だろうな、と二人の侍女の心労を思った。
ゼオの部屋を後にし、セイジは自分の部屋に戻ろうとした。鍵を開けようとして、ふとおかしいことに気が付いた。
空いている?
鍵がかかっていない。キーを差し込んで回しても何の手応えも無い。ノブに手をかけて見ると、抵抗なく扉が開いた。
「あ、セイジ様」
クレアの声が聞こえた。どうやら入れ違いに戻っていた様だ。
部屋にはクレア以外に3人の人間がいた。レナード、リム、そしてロウガだ。
レナードとリムはいいとして、何故ここにロウガがいるのか?
「散歩しに言ったんじゃ無かったのか?」セイジはロウガに聞いた。
「散歩に行こうとしたら面白そうなものを見つけてな。付いてきたのさ」
ロウガは親指を立てて、レナードとリムを交互に指さした。
レナードは腕を組んで、目をつむり、口を結んで立っている。いつもと同じように見えるが、眉をきつく寄せ、口も真一文字ではなくへの字に曲がって結ばれている。
さらにリムはもっとおかしかった。気をつけの姿勢のまま右斜め45度を向き、何やらぶつぶつと呟いている。目に生気が無く、ボーとあらぬ空間を見つめている。
どう見ても様子がおかしい。特にリムの方が。
「……どうした? リム」
「ダイジョウブデスヨー」
尋ねてみるとあらぬ方向を見つめたまま、リムから全く抑揚の無い声が返ってきた。
「どう見ても大丈夫そうではないが」
「ダイジョウブデスヨー」
「……いや、とてもそうに……」
「ダイジョウブデスヨー」
「リム、自分の名前言えるか?」
「ダイジョウブデスヨー」
……とりあえず大丈夫では無いのはよくわかった。クレアに視線をやると、困った笑い顔をしていた。
「お母様にリムちゃんがいる、とお話をしたら是非逢いたいと言うことになりまして……あとレナード様も御一緒にと」
「成程ね……」セイジは呟いて、顎を手で撫でた。
「今、お母様は別の方と逢われていますので、その間部屋で待っているのですが……」
「猊下はリムを知っているのか?」
「その、以前リムちゃんを預かった時は実家でしたので。リムちゃんもお母様に良くなついていました。まあ、その時は法皇の妻というか、法王の一家だとは知らなかった様です」
「で、今、逢いたいって言われて緊張でこうなっちゃった、と」
「はい……」
「ダイジョウブデスヨー」
リムは天井を見ながら壊れ続けていた。
レナードのへの字口も緊張の表れだろう。先程からセイジの方に一切見向きもせず、固く目をつむっている。
扉がノックされ、失礼しますと騎士が入ってきた。先程扉の前にいた騎士の一人だ。
「クレア様、猊下がリム様とレナード様をお呼びです」
「……解りました」
レナードが薄く目を開けた。壊れ続けているリムの手を取り、歩き始める。
「あの……私も付いていきますね」
「そうしてやってくれ」
セイジが頷くのを見て、クレアもレナードに続いて行こうとする。が、ふと振り返った。
「あ、セイジ様、お母様からの伝言で夕食を一緒にどうですか、とのことですが」
セイジは一瞬顔を背けて俯いた。が、すぐに……
「畏まりました、とお伝えしてくれ」
さすがに断るわけには行かないだろう。
「解りました。それでは……」
セイジとロウガに一礼して、クレアは去って行った。
騎士も一礼して扉が閉められる。とたんにロウガが後ろから肩を組む様にのしかかってきた。
「すげえ上玉じゃねえか。あれほど美人のシスター落としていたとは思いもしなかったぜ。やるじゃねえか、このむっつりスケベ」
「離れろ、この酔っ払い」
セイジはのしかかってきた顔面にパンチを入れようとする。慌ててロウガが後ろに下がった。
「で、よう、セイジ」
「何だ? まだ何か用か」
「一杯やらねえ?」
ロウガは親指で酒が詰まった棚を指さした。
「……仕事中だ、と言いたいところだが、いいだろう。ただし一杯だけだ」
正直、セイジも一杯やりたい気分だった。
「へ、こういう事にお堅いのは相変わらずだな」
言いながら、ロウガは喜々として、棚の方に向かった。
脳を突き刺された様な刺激を覚え、ライトンは目を覚ました。
目の前の世界が歪んで回っていた。頭が引き裂けんばかりに痛い。心臓が妙なラップを刻んでいるのが解る。
バタン、と何か大きな物音がした。衝撃がライトンの体をゆらす。
急速に気分が悪くなる。前屈みになって床に手を突こうとしたが、出来なかった。両手は背中に回され縛られていた。この時になって、ようやく自分が壁際に座らされているのだと解った。足は縛られてはいない。だが、立ち上がれるほどの体力も無かった。
体勢を直し、壁によりかかる。大きく息を吸って、目をつむった。ほんの少しだけ気分が良くなったが、頭の痛みはいっそう酷くなった。
どこなのだ、ここは……。
ライトンは再び目を開け、辺りを見回した。
冷たいコンクリート打ちっ放しの何もない部屋だった。暗い部屋に一筋の光が入ってきている。ライトンが上を向くと、天井近くに小さな小窓があるのが解った。
解ったのはそれだけだった。それ以外にはもの一つ見当たらない。
確か……私は馬車に乗ってメルドムに向かっていた。
痛む頭に顔をしかめながら、ライトンは記憶の糸をたぐる。月夜の中、メルドムまで馬車を走らせていたはずだった。
その道中に敵の襲撃を受けた。魔物と人間の混成部隊、護衛の兵士達も次々に討たれた。
考えが甘かった。情報が漏れているのはうすうす気が付いていた。その裏をかくつもりで急に予定を変更し、夜間の移動を決行した。だが、それすらも漏れていた。
クレアだけでも逃がすため、敵に突撃した。黒装束に身を包んだ者達との戦闘、何人倒したのか覚えていない。そして、敵の一人と相打ちになった。
そうか、私は敵に捕まったのだな、と息を吐いた。
腹が猛烈に減っていた。それよりも喉の渇きが凄まじかった。喉が焼け付き、口の中に唾すらわいてこない。呼吸しただけで喉に痛みを感じる。
3日……いや、4日くらい経っているか?
腹の減り方と喉の渇きから、そのくらい経っているのだろうと推測した。
クレアは……あの子は無事なのだろうか……。
考えて見て、無いな、と俯いた。クレアは戦闘訓練など受けてはいないし、何より体力が無い。どう考えたところで逃げ切れる訳も無かった。
自分と同じように敵に捕まっているか、あるいは殺されているのか……。
バタン、と再び衝撃が走った。ライトンは顔を上げ、その方を向く。
光が入り込んでいた。暗くて解らなかったが、奥に扉がある事を知った。衝撃は扉の開け閉めだった。
その開いた扉から、大男……カツタダがぬっと姿を現した。
カツタダは黒頭巾で顔を覆っていた。唯一見える目がギロリとライトンを睨んだ。他に3人の男が部屋に入ってくる。全員が同じ黒頭巾をかぶっている。
カツタダはライトンの前に立ち、黙って見下ろした。ライトンも口を真一文字に結び、カツタダを黙って見ている。
「殺せ……」やがてライトンがかすれた声で言った。喉が渇きすぎて上手く喋れなくなっていた。
「私は何も喋らない。今のうちに殺して処分しておくのが貴公達のためだ」
かすれ声で一気に言うと、ライトンは目をつむり、力を抜いて壁により掛かった。
観念したのでは無く、もうこれ以上喋る力が無かった。目を開けているのも、もう限界だった。
勝てぬ訳だ……。
カツタダはライトンを見下ろしたまま、心の中で唸った。
ライトンは死にかけだった。あの戦いの後、簡単な治療だけしてここに放り込んでおいた。先程までずっと気絶していたとはいえ、一切の食事も水も与えていない。
ライトンは今年50になっているはずだ。普通であればとうの昔に死んでいる。しかし、今カツタダを睨んだライトンの目には力があった。
歴戦の雄、カツタダが思わずたじろぐ程の力強い視線。その後の死を一切恐れぬ態度。ライトンの言葉通り、どのような拷問も、はては自白剤でさえこの男の口を割らせる事は出来ないだろう。
覚悟が違う……この男は死ぬ事が出来る。自分以外の何かのために、死ぬ事が出来る。
ふふ……と覆面の中でカツタダは笑った。自虐の笑いだった。
カツタダはすっと手を前に出した。後ろにいた2人がさっと前に出た。ライトンの両側に周り、崩れていた体勢を起こさせた。ライトンが再び目を開け、カツタダを見上げる。
カツタダはしゃがみ込むと、ライトン頬の辺りに両指をあて、力を込めた。自然と空いてきたライトンの口に、残った一人から受け取った瓶の中身をぶちまける。
「!!!」
ライトンの口の中に水が注ぎ込まれた。ライトンは吐きだそうとしたが、体は反して水を飲み始めた。からからに乾いていた体だ、例えそれが毒の水だろうと、吐き出せるはずも無く飲み続けてしまう。
待望の水だった。水分を得た体が音を立ててほぐれていく感覚がする。カツタダは瓶を上に向け水を注いでいる。口から溢れた水が服を濡らしていった。
やがて瓶の水が無くなった。ライトンはギロリとカツタダを見る。先程より格段に力が戻っていた。
「……無駄な事を」
声も力強くなっていた。かすれ声も大分戻っている。
「何をしてもワシは吐かない。何をされようが、だ」
「何もしない。これから貴公を解放する」カツタダが部屋に入ってから初めて口を開いた。
「そうか」とライトンが短く答えた。ライトンは解放すると言う意味を殺して解放する、と解釈した。
「勘違いされては困るな。解放とは言葉通りの意味だ」
「何?」
どういうことだ? 捕まえておいて何もせずに解放だと?
捕らえるのに、敵は相当の被害を出している。にもかかわらず尋問の一つもせずに解放?
自分に必要がなくなった? であれば殺せばいいだけだ。
それにクレアは? クレアから必要な情報を手に入れたから用は無いと言う事か? いや、そもそもクレアは捕まっているのか?
カツタダを見据えたまま、ライトンは必死に頭を回転させる。
すると視界が急激にぼやけ始めた。頭の中に濃い霧がかかったかの様に何も考えられなくなる。
意識が急激に遠くなった。自分の体を支えられず、前に倒れる。手は後ろで縛られているので顔面から床に落ちた。
先程の水か……。消えかかる意識の中、それだけは解った。
「ライトン、お前は見事だった」上からカツタダの声が降り注いだ。
「我らの負けだ。だが、我々はただでは散らない。必ず爪痕を刻む」
「な……に……」
何をしようとしている。そう聞きたかったがもう喋れなくなっていた。
「明日、お前がその目で確かめると良い。その頃には全ては終わっている」
一体……こいつらは何を……。
カツタダの言葉の途中で、ライトンの体ががくりと落ちた。
動かなくなったライトンを見下ろしながら、カツタダは昨夜のことを思い浮かべていた。
サボイに向かう道中、間者に襲われ、その後自らの主君であるアキタダ=アベと対峙した時のことを……。
アキタダは剣を正眼に構えたまま、じりじりとカツタダの方に間合いを詰めてきた。
カツタダはそれを呆然と見ていた。が、急に弾かれた様に後ろに飛び下がった。巨体に見合わない跳躍力で大きく間合いを離した。
「殿、私とやり合うおつもりですか」
「そう言ったはずだ」アキタダはなおじりじりと間合いを詰めてくる。
無謀だった。アキタダは文官である。剣を携えてはいるが使ったことは一度も無いだろう。対してカツタダは武官だ。人を叩き殺すことは慣れている。
どうあがいてもアキタダに勝ち目は無い。しかし、アキタダは臆した様子も無く、じりじりと間合いを詰めてくる。
「では、この間者達は殿が差し向けた者達ですか?」
カツタダは周りに転がった死体に目を向けた。先程カツタダを襲おうとして、返り討ちに遭った者達だ。
「……そうだ」一拍遅れてアキタダが答えた。
「そんなわけは無い」カツタダが遮る様に言った。「殿が私を討とうとするならば、この倍以上の人数を用意するでしょう」
アキタダは足を止めた。剣の構えを解き、その場に立った。
アキタダはカツタダの力を一番知っていると言っても過言では無い。僅か15人足らず……しかも素人同然の者達に襲わせるはずはない。
アキタダならばこの数倍……100人以上で襲いかからせる。さすがのカツタダもろくな武装もしていない状態で、100人を相手にするのは不可能だ。
二人は黙って見合った。二人の間を冷たい風が通り過ぎていく。
「そうですか……」やがて、カツタダが天を仰いだ。「ミツイエ殿は逃げられましたか」
間者達はミツイエが送り込んできた。そう思った。
何故か? 考えるまでも無かった。ミツイエはカツタダ達が邪魔になったのだ。始末しようとしたのだ。
「そうだ。ミツイエ殿は尻をまくって逃げやがった」
アキタダは顔を背け、吐き捨てる様に言った。それはイーストのセイイタイショウグンに対する言葉づかいでは無かった。
カツタダは何も言わない。目をつむり、黙っている。
ミツイエが逃げた……それはこの計画の終了を意味する。計画は失敗したのだ。
作戦に関する費用は全てミツイエが秘匿している埋蔵金から捻出されている。手持ちの資金はほとんど残っていなかった。カツタダ達はまだかなりの数のガガンボを飼っていた。金が無くてはガガンボの維持も出来なくなる。必要な兵力が足りなければ、襲撃も出来ない。
金が無ければ行動も出来ない。何をするにも、とりあえずは金だ。その生命線を立たれてはどうしようも無い。
アキタダは懐から書状を出すと、カツタダに突きだした。
「昨日の夜、サボイに逗留していたミツイエ殿の元に賊が忍び込んだ。元はイーストのシノビだった者だ」
「シノビが?」
「エミリーナに懐柔された様だな。殿の寝室に忍び込み、これを手渡し、その場で果てたと聞く。ワシはその場に居なかったが、殿はシノビの血で真っ赤になっていたそうだ」
カツタダは書状を受け取り、読み始めた。内容は簡潔だった。
証拠は全てそろっている。イーストがドラグーン、ファイナリィ二国で行っている愚行をすぐさま中止せよ。
また各国にはなったスパイも即刻撤収させよ。
さもなくば、全力をもって事の次第に対処させて頂く。
「これだけですか」
「これだけだ。児戯にも劣る文章だろう。だがミツイエ殿は青ざめ、即刻エドに帰った。城の部屋に引き籠もって一切姿をお見せにならないそうだ」
くくく、とアキタダは喉で笑った。
カツタダは大きく息を吐いて天を見上げた。驚きは無かった。
ミツイエは暗愚だ。本来、人の上に立つべき者では無い。自尊心が高いわりに臆病で、猜疑心が強く、残忍な性格をしている。平気で部下に死を要求しておきながら、自分の死は何よりも恐ろしい。そういう男だった。
この程度の脅し文章で白旗を上げて逃げ帰った。しょせん、何の覚悟も無い男だ。命をかけて何かを成そうとは思っていないのだろう。
「殿は私の首を持たねば帰れませんか?」
「ワシはお前を止める様、仰せつかっただけだ。すぐさまライトンを解放し、全ての活動を止めさせろ、とな。ライトンはまだ生きているのか?」
「さて……」カツタダは首を捻った。捕らえたと報告は受けているが、まだ生きているかどうかカツタダにも解らなかった。
「まあ、どちらでも良い事だ。さあカツタダ、ワシを斬るが良い」
アキタダは剣を手放し、目をつむってその場に棒立ちとなった。カツタダは首を横に振る。
「殿を斬る理由がありません」
「理由などどうでも良い。斬ってくれ。ワシはここで死にたい。これ以上イーストの凋落をこの目で見るのは忍びない」
「お断り致します。どうしてもと言うならば、殿がご自分でなさって下さい。介錯もお断り致します」
アキタダは目を開けて睨んだ。カツタダもじっとアキタダを見ている。
二人は再び黙って見合った。
「どうしてもか」やがてアキタダが聞いた。
「殿はイーストに無くてはならないお方。そのお方を命令とは言え斬る事は出来ません」
「イーストが滅亡していく様を見ておけと言う事か」
「例え滅びるのが定めとしても、それを一分一秒でも遅らせるのが殿の使命かと存じます」
「ふん」とアキタダは鼻を鳴らして、ぺっと唾を吐いた。
「お前はどうする?」
「作戦も終わった以上、あとは好きにやらせて頂きます」
「死ぬ気か?」
カツタダは何も言わなかった。無表情でアキタダを見つめるだけだった。
「そうか。では好きにせい。ワシも好きにすることにしよう」
「ありがとうございます」カツタダはその場に平伏した。
「達者でな」と言い残し、アキタダは振り向き、去って行った。
カツタダは平伏した格好のまま、アキタダを見送っていた。
アキタダが見えなくなっても、しばらくカツタダはその場で平伏していた。
不意に風も無いのに周りの木がざわめいた。同時にカツタダの背後に一つの影が降り立った。
「聞いていたか」カツタダは体勢を起こし、後ろを見る事無く聞いた。
「御意」影が喋った。
カツタダが振り向く。そこには膝を突き頭を下げているコタローの姿があった。
「さて……これからどうする」とカツタダは呟いて顎に手をあてた。
今日のコタローのクレア襲撃については何も聞かなかった。こうなった以上、クレアが生きようが死のうが、何ら関係の無い事だ。
「案がございます」
「ほう?」コタローの言葉に、カツタダは目を細めた。
コタローは懐に手を突っ込み、一枚の書状をカツタダに差し出した。
受け取り、目を通した。するとカツタダの細い目が一瞬にして見開かれた。口端が歪み、にやりと歯をむき出した。
「我らが墓標を刻むには格好の場所かと」
「策はあるのか?」
「一応ございます。ですが細かい策など不要かと」
「そうだな。それと隠密達を撤収させよ。ミツイエ殿のお言葉だ、従っておかねばならん」
「隠れ里に集結せよと命令を出しておきます。ドラグーンのシノビは間に合わないかと思われますが、ファイナリィの者達は問題ないかと」
「コタローに任せる。隠れ里でまた逢おう」
カツタダは来た道を引き返していった。既にコタローの姿は無く、木々がざわめく音だけが聞こえていた。
ライトンは部下の手で部屋から運び出されていった。夜の内に近くの村に置いていく手筈になっている。ライトンの生命力ならば一晩位ならば死ぬことは無いだろう。
明日の朝まで目を覚まさないはずだ。ライトンが目を覚ます頃には全ては終わっている。
部下と入れ違いにコタローが入ってきた。カツタダの前で膝を突く。
「準備はととのうてございます。移動は目立たぬ様、日が暮れてからに致します」
「うむ」とカツタダは頷き、コタローに目を移した。「交代で皆を休ませておけ。お前も少し休め」
「なんの、どうせ後でいくらでも眠れましょう」
「確かにな」カツタダは笑った。コタローも呻く様に笑った。
二人の笑い声は、不気味な音となり、室内に響き渡った。




