八話
雄と手を繋いだまま海から離れ誰も居ない場所にたどり着いた。雄は振り向くと私を見つめて言った。
「なんですぐ逃げなかったんだよ…」
雄の声は少し強い口調だった。
「だって…」
「だって…じゃない…男に何かされたら抵抗出来るのかよ、相手は男なんだぞ」
「…雄…私!」
雄が私を探しに来てくれると信じてたから…。
そう言おうとした瞬間に雄に抱き締められていた…そして気付けば私は雄の背中に腕を回していた。
雄の胸の音が聞こえる…。雄ってこんなに温かいんだ…。
すると雄の温かみがなくなり、雄は私に背を向けた…
あれ?雄の耳赤い?
「…だから、この旅行が終わるまで嫌かもしれないけど、俺から離れるなよ…」
「嫌なんて思ってない…雄と一緒に居たい…」
雄と一緒に居たから私は一緒にいるんだよ…
私は雄傍に行き雄の手を繋ぐと、雄は一瞬ビクッとしてたけど、雄も私の手を握りかえしてくれた。
私の気持ちが伝わってくれた気がして嬉しかった。
私達は海辺を歩いたりして海を楽しんだ。
ホテルに戻り、お互いにお風呂に入り夕食を食べる。
夕食をお腹いっぱい食べた私達はソファーでくつろぐ…。なんか家に居るよりも雄の傍にいる気がして…凄くドキドキしてる。
あの時の雄の言葉…俺から離れるなよ…
その言葉が胸に響く…初めて言われたから…
人生で初めて…
「あのね、今日雄と一緒に海に行けて嬉しかったよ♪」
雄に伝えたかった…
「べ、別にあんたが危なっかしいから…」
雄はきっと照れ屋なんだと思う。
だから素直に伝えられないのかも…
ちょっとずつでいいから素直になってほしいなぁ…
それと、`あんた´じゃくて、`由梨´って呼んでほしいなぁ…。
いつかそう呼んでくれる時が来るかな?
そんな事を考えていると雄は立ち上がり寝る準備をしている。
雄は家から持参した服で寝る。私も同じく持参したパジャマを着替える。
いざ寝室に入るとやっぱり一緒の部屋でベットは二人ある。
同じ部屋で寝たことない私達…
どうやら雄も緊張しているらしく、ベットの上で寝返りを何度もしていた。
私は軽く目を閉じ今日あった事を思い出していた。
何度も何度も頭の中で「俺から離れるなよ…」がリピートされていた。
すると雄がムクッと起き上がり、ベットが軋む。
雄を横目から見ると、髪をくしゃくしゃさせて前髪を上げる…その仕草にドキドキした。
雄は溜め息を吐くと立ち上がり、寝室を出ていってしまった…
その夜は寝室に戻ってくる事なく朝になった。
朝になると雄は私より早く起きていた…あの時の事を話そうとしたけど、おせっかいだと思われたくなく言わなかった…
「雄は昨日眠れた?」
「あぁ…」
「そっか…私も」
本当は私はあまり寝られなかったけど、雄に心配させたくなく嘘をついた私だったのに、雄は不機嫌そうに言った。
「あんな状況でよく寝れたな…」
えっ?なんで怒ってるの?なんで?
それだけを言い残し部屋に行ってしまった。
私は雄が行ってしまった部屋をただただ見ていた…。
雄を怒らしてしまった夜。雄は不機嫌のまま私の目の前に現れて、雄と目が合う。
私はなんて言っていいか分からず、雄から目を外してしまった。
溜め息が聞こえた…。
雄は本当に怒ってるんだと私は思った。
だから謝れば終わるのに、怖くて言えない。
「…別に怒ってるわけない…」
「えっ…怒って…ないの?」
じゃどうして?私の頭の上をハテナがいっぱい飛んでる。
「あのさ…もし…好きな人が隣に居たら、あんたは、どう思うか知りたい…んだけど…」
「えっ?好きな人が隣に居たら?」
「…別に答えなくても…いいんだけど…」
「私はドキドキしたり、好きな人に触れたい…とか思うけど…それでいいかな?」
なんか雄からそんな事を聞かれないから、恥ずかしくなってきた私。
そして雄は息を吐くと、私の目の前に立ち私を見下ろす。
つい私は構えてしまった。
雄は何を言うの?
私の心臓はバクバク…思わず目を閉じた…。
「あのさ…俺…」