ただあなたを守りたい 騎士編 2
ただあなたを守りたい 騎士編
―2―
視界に広がるのは白銀の世界だった。
空を見上げると雲一つない快晴であるが寒さは全く変わらなかった。
冷酷とも言える容赦ない寒さに身を震わるノイアは、早くもこの地が嫌いになりそうである。新調した薄茶色の防寒用ローブだけでは、とてもではないが耐えられない。
「シェル、大丈夫か?」
左隣を歩く黒髪のシスターに問う。正式なシスターの証である青いローブを纏っている彼女。だが、それはそもそも防寒用ではないのだ。表情からは読み取れないが寒いのではなかろうか。
「これくらいは大丈夫」
小さな拳を胸の前で握り、しっかりとした言葉を返すシェル。
(あの時とは違うんだな)
ノイアは今でもこの小さなシスターを子供扱いしてしまう。すでにノイアの元から離れ、自らの足で歩いて進んでいけるというのに。
「無理なら言ってくれ。どこかで暖を取る」
シェルに優しくつぶやいて先頭を進む男を見上げる。
「あと一時間ほどです」
視線に気づいたのか先頭を進むザーランドが振り向いてつぶやく。
「さすがに冷えてきた。それにこの雪……体力を奪われるな」
ジュレイドが苦々しくつぶやく。歩を進める度に纏わりついてくる雪。動きを鈍らせ、それでいて余計な労力を使わせる雪は厄介な事この上ない。
「ここイリース雪原は深く積もらない事が唯一の救いですね」
ザーランドは前を向いたままつぶやく。
イリース雪原。
周囲には花などの植物が姿を見せず、柔らかな雪がくるぶし辺りまで積もっている。ここまでは何の特色もないただの雪原である。
だが、この雪原地帯に足を踏み入れた瞬間に気になる物が一つあった。それは所々に散在している大きな岩だった。
(輝石みたいだな)
ノイアは岩を視界に収めた瞬間に輝石に近いと感じた。輝石とは神力に反応して明かりを燈す石の事である。光を得るだけではなく、コンロなどに組み込むことで神力を動力へと変換できる大陸マクシリアでは欠かせない石だ。
(色は少々薄いが……近いな。試してみる価値はある)
ノイアは一メートル先にある水晶色をした石に神力を注ぐ。
期待して力を送ったのは数瞬。結果はすぐに出た。
石は光る事はなく、何事もなかったようにその場に留まり続けたのだ。
「ノイアも試したんだ」
隣でシェルが肩をすくめる。考える事はどうやら同じらしい。
「駄目だったがな」
ノイアは苦笑した。
「その石は魔力にしか反応しません」
前を進むザーランドがつぶやく。答えを示すかのように右手を掲げる。水晶色の石は内側から力を得たように輝き出す。それはノイアが先ほど思い描いた光景だった。やはりこの地は理を異にする地らしい。
「魔力か。聞いたら答えてくれるのか?」
「町についたら答えようと思いましたが……いいでしょう」
ノイアの問いに長髪の男は静かに口を開く。
三人は自らの瞳で魔力というものを見た。
ジュレイドは光剣と尋常ではない加速力を。ノイアは氷の刃と、同じく氷で出来た壁を見たのだ。あれだけなのか、それともまだあるのか。生きていくためには知っておく必要があるだろう。
「この大陸は魔力という力に満たされています。目には見えませんが、空気と同じように確かに存在します」
「それは神力と同じだね」
ザーランドの言葉に応じたのは黒髪の少女だった。この地にある魔力という未知なる力に興味があるのだろう。シェルは先ほどから自然と前屈みとなり聞く体勢を整えていた。
「共通点は多いようですね」
魔術師もどうやら神力という力に興味を持ったのか、顎に手を置いて考え込んでいるように見える。言葉通りに共通点は多いのかもしれない。神力も魔力同様に目には見えない、それでいて力を扱えない者には奇跡としか思えない現象を起こす事ができるのだから。
「あなた方はその身に力を宿しているのでしたよね?」
「そうだ。そのため人によって力の強さも、絶対量も異なる」
問いに答えたのはノイア。
「私達もこの身に魔力を宿しています。ですが……それだけではありません。この地を満たす魔力を体に取り込んで力を発動させる事も出来るのです。力を使い過ぎれば当然、その場の魔力は薄れます。結果はあなた方も見ましたね?」
ザーランドはこちらに問いを放つ。
「かなり万能な力に見えたが……どこか欠陥があるように思えた。一瞬だけ力が弱まる時があったな」
長髪の男に冷静な瞳を向けたのはジュレイドだった。
「そうです。それが魔力を扱う者の突くべき所です。光剣を使用する者はこの地にある魔力を大量に使用します。自身の魔力が尽きれば外から取り込みますが限界もあります。最悪は魔力が全く使用できない状態に陥る事もあります。氷刃にて攻撃をする者は優秀な者でも五秒に一回は力が弱まるでしょう。極端な事を言えば無尽蔵の魔力がその身にあれば何の問題もなく自由に扱えます。ですが、そんな人間はいません。最終的には、いかに魔力を多量に取り込むか、そして、その魔力をいかに効率よく使用できるかで魔術師の優劣は決まると言っても過言ではないでしょう」
ザーランドは一切の澱みなく言葉を続けていく。よくもここまでスラスラと口が動くものだと感心してノイアはとある疑問が頭に浮かぶ。
「魔力を取り込む事ができれば使えるのか?」
ノイアは試しに聞いてみた。あの光剣は工夫次第では便利に思える。特に武器を破壊するという点においてはかなりの利点がありそうだ。それしか戦う術がないノイアには是非にも習得したい事だった。
「いいえ。この大陸で生活する者でも使用できない者がいるくらいです。使えるとは思えません。ただ私が光剣を形成し、それを渡せば使用できます」
「爆発のタイミングは?」
「あなたで決められます。私の力を一部渡すようなものですね」
答えを聞いた瞬間、どうやらこの話は無駄ではなかったとノイアは思う。上手く連携すれば新しい戦い方も可能だ。物体を爆発させる力など扱いを間違えれば自らの身すら危険に晒す力である。だが、シェルのためなら何でもすると決めているノイアには藁にもすがる思いである。
「ノイア。何だか危ない事を考えてない?」
シェルが覗き込んでくる。穢れを知らない青い瞳がノイアの瞳に重なる。全ての汚れを見透かすような瞳だった。深く心を覗き込み、全てを暴く瞳。
一度、心臓が跳ねた。刹那、船での会話が脳裏に浮かぶ。
「世話係を命じられた時は頭が真っ白になった。この心に燃え上がるような怒りが満たした」
自らの言葉が頭を駆け巡る。シェルに対して向けてしまった汚い心。恥ずべき心だった。この少女にだけは知られたくない汚れた気持ちである。
「なんでもないさ」
それだけしか言えなかった。だが、青い瞳はノイアを決して逃がしてはくれない。隠そうとする後ろめたい心すら看破しそうな瞳には全身が震えた。
(止めてくれ)
心の中でつぶやく。ただシェルを守るだけの騎士でいさせて欲しい。胸を張って誇れる騎士でいたいだけなのだ。
拒絶の言葉を叫びそうになる自らを必死で止める。そんなノイアを救ったのは陽気な声だった。
「前を向いて歩けよ。危ないから」
声の主によってシェルの小さな手が引かれる。
「わわ……」
有無を言わさぬ力に引かれ、慌ててバランスを取る少女。先ほどシェルがいた場所には水晶色の岩が飛び出ていた。余所見をしているままならば、今頃は岩に足を取られて転倒していただろう。
(しっかりしないと)
ノイアは頬を両手で叩く。意識が散漫で守れなかった、などという失態は許されないのだ。騎士はシスターを守る者。そして、自分はシェルを守る者なのだ。それ以上でも、それ以下でもないと心に言い聞かせる。冷静な自分が戸惑う心を静める。これならば問題ない。
「まとまりましたか?」
長髪の男がつぶやく。どうやら黙して二人のやり取りが終わるのを待っていたのだろう。そう言えば確認の最中だったという事を思い出す。
「すまない。途中だったな」
「いえ。他に特に話す事はありませんからね。後は実際に見た方が早いと思います」
ザーランドは苦笑する。
本質をこちらに全て話したくないのか、それとも魔力で出来る事が限られているのか。その答えは分からなかった。だが、この大陸にいれば自ずと分かることなのだろう。
「ならば実際にこの目で見るとしよう」
ノイアはつぶやいて降り続く雪を見つめる。時折、隣を歩くシェルの視線を感じたが振り向かなかった。このままでいいとは思わないが、今は視線を合わせたくなかった。
*
「ふう」
溜息をついて自室のベッドに倒れ込んだのは銀髪の少女。確かな弾力が体を支え、そのまま眠りに落ちてしまいそうな心地良さが少女を包む。
しばしの静寂。まるで力尽きたかのように動かない。実際には動けなかったのだ。
気を抜けばすぐにでも眠ってしまうほどに少女は疲労していた。元々真っ白な肌は体調不良によって病人のように青白くなっている。吐息もどこか荒い。
「重過ぎるのよ。私には」
少女はつぶやく。
王としての責務と重荷。それは齢十七歳の少女には重過ぎる。だが、甘えてはいられない。民は自分に期待しているのだから。この肩にどれだけでも重荷を載せてくる。体が、心が悲鳴を上げても載せ続けてくるのだ。
逃げたい。
そんな弱音が少女を襲う。だが、逃げられない。自分は王の血を引いた者であるのだから。そして、自らが逃げればあの男は戦の準備を進めるだろう。
グリア連合国がすぐに戦を出来るとは到底思えない。だが、我が国フィッツベルが表立って宣戦布告をしてしまえばもう止まらない。準備が整ってしまえば、二つの大陸の兵力がぶつかる最悪の戦争の出来上がりだ。
(だから逃げない。逃げてはいけないのよ、ノース・ロウ・フィッツベル!)
心の中で自らの名を叫ぶ。全身に力が沸く。湧き上がる力を溜めてベッドから起き上がる。
起き上がった瞬間に王族に与えられた豪奢な部屋を一度見渡す。
天井に浮かぶ水晶色をしたシャンデリア、目の前にある煌びやかな飾りを施された鏡台、そして、背には人が三人以上は眠れそうな巨大なベッド。
だが、こんな物に興味はないのだ。
「ただ民の笑顔のために……」
言葉をつぶやく。その言葉が自らの耳に入り全身に溶けていく。一人の少女から、一人の王へと戻った彼女は自らの部屋を後にした。
*
岩とブーツがぶつかり硬質な音を響かせる。
先ほどまで雪原を歩き通しであったためか、固い地面と硬質な音にどこか安心感を覚える。この雪という物にそれだけ慣れていないという事をノイアは改めて感じる。
ふと同じく異なる大陸から来た二人に視線を向けた。
「お嬢様はお疲れ?」
陽気に笑いぐったりとした少女を撫でるジュレイド。撫でられている少女はもう動きたくないのかドボトボと力なく歩いている。ノイアも今日はさすがに休みたい。慣れない土地での活動がここまで体力を奪うとは予想外だったからだ。
「宿は取れるか?」
ノイアは先頭を進む男に問う。
町に入ってすぐに宿舎らしき建物が数軒建っているのが目に映る。どうやら港町から国の中心にあるという城へと向かう休憩地点として栄えた町なのだろう。そうでもなければ町に入ってすぐに宿が並ぶなど不自然極まりない。
「ええ。ここは見た通り宿を中心として栄えた町ですからね。値段も旅の商人に合わせてバラバラですね」
振り向いて微笑むザーランド。
そんな彼に対して二人の人物が同時に口を開いた。
「手頃な所を頼む」
「一番安い所で」
ノイアと傭兵の声が重ねる。二人の表情は真顔だった。余分なお金は一切ありません、と表情から楽に読み取れる事ができるだろう。言葉にした瞬間に虚しさが心を満たす。だが、贅沢が出来るほどのお金がないのは事実なのだ。
「私が払おうか?」
シェルが懐から一つの袋を取り出す。複数の金貨が擦れる音が寒空に響く。
その瞬間にノイアは目を見開く。さすがはハールメイツ神国一の花形の職業である。その給金は予想を遥かに超えていた。雲泥の差と言ってもいいだろう。
「それくらいはこちらで払いますよ」
ザーランドは苦笑いを浮かべる。どこかその笑みには哀れみが含まれているような気がする。
「ありがとう」
余裕があるシェルがニッコリと笑う。ノイアは懐にある自らの資金を思い浮かべて、悲しさが込み上げてきたのだった。
*
「参りましょう」
馬を預けたザーランドが事務的な口調でつぶやく。
無言で機械的に単調な速度で歩く彼に案内された宿は、町の入り口から数十分離れた場所にあった。メインの大通りから左に外れた先。路地裏のような細い道をひたすら歩いた先に、その宿はあった。
まず驚いたのは宿の小ささだった。外側から見ているために、正確な所は分からないがおそらく部屋は三つあればいい所だろう。
結構古そうだな、と失礼ながらにノイアは思う。宿を支える木はどこか時代を感じさせる。そう思うのはどうやらノイアだけらしい。
ジュレイドはどこでもいいのだろう。いつもの陽気な表情のまま宿を見つめている。そして、シェルは楽しそうにキョロキョロと視線を移していた。
「ここは知人が経営している宿です。古い宿ですが……ゆっくりするには適していますよ」
ザーランドは宿へと入る木製のドアを開ける。
何かが軋む不快な音を響かせてドアが開く。
「お客様ですか? あら、ザーランドじゃない」
出迎えたのは笑顔が似合う女性だった。ノイアよりも年上だろうが、浮かべる笑顔は眩しく若さを感じる。予想では二十代前半だろうが、とてもそうは見えなかった。
「四人です。空いていますか?」
ザーランドは彼女に微笑む。久しぶりに会った知人に向ける裏のない笑顔だった。
その笑顔を冷静にノイアは見つめる。この人物を疑う感情は徐々に薄れている。とても真っ直ぐで心優しい人物である、というのが現在抱いている印象だ。
「ここなら安心だね」
シェルは出迎えた女性に笑顔を向ける。このシスターに到っては疑うという言葉を知らないのではないかと思うくらいである。長年、共に歩んで来た者に向けるような信頼の眼差しでザーランドを見つめている。
「……」
対して先ほどから冷たい視線を向けているのはジュレイドだ。彼はまだ疑っているらしい。だが、この反応もある意味では正常なので文句は言わない。そして、彼が警戒してくれているからこそ信じる事が出来ると言っても過言ではない。
「絶対に安心な場などはありませんが……身の保障は致します」
「まあ、これだけいればな」
ザーランドの言葉を聞いて空を見上げる傭兵。
その横顔を見つめた瞬間にノイアは意識を集中させる。塀を隔てた先にある民家、またはここら一体に群を成して集まる宿の天井に気配がする。数は五人だろうか。ジュレイドの言葉を聞いてからでしか反応できなかった自分に怒りを覚えると共に、敵ではなかった事に安堵する。
「味方いるの?」
シェルは左右に視線を走らせる。
「上にな」
ノイアがつぶやくと同時に少女の黒髪を撫でる。だが、シェルは分かってはいないようだ。この辺りはただのシスターに分かれというのは酷な話なのだろう。
「戦いはそいつらと……俺がするから安心してろ」
ジュレイドが陽気な声でつぶやく。
「そろそろ入りましょう。体が冷えていけません」
ザーランドが皆を促す。頷いたノイアを先頭に彼らは宿へと入った。
*
「理解できませんね」
落ち着いた声でつぶやいたのは白髪の男性。彼の個性である顎鬚に触れながら思案する。
「ハールメイツの軍神でも無理ですか」
肩を落としたのは副団長のマイセルである。
「ええ。グリア連合国も我が国も戦争が出来る状態ではないのです。少しずつ安定してきたというのが正直な所でしょう。この状態で戦争など共倒れもいい所です」
軍神が唸る。
これくらいの事は副団長になったばかりのマイセルでも分かる事だ。一年で国を建て直して戦争しようなど自暴自棄もいい所である。何か秘策があるのであれば話は別だろう。だが、その秘策というのが異大陸からの援軍である。
「グリア連合国が勝ったとしてもその後は」
「はい。数日でこの大陸は奪われます。それも昨日、共に戦った者にです。それは分かっていると思うのですが」
軍神は敵の王を思い浮かべているのか遠い目をした。
賢王とまで呼ばれるグリア連合国の王。騎士としての無類の強さだけではなく、政治までこなせるこの大陸一の人材である。彼がこんな愚かな事に手を出すとは到底思えない。
二人の男の唸り声が副団長の執務室で虚しく響く。
「では、確かめたらどうですか?」
声を掛けたのはシスターの第二位であるハーミル。滑らかな銀髪を腰まで伸ばした落ち着いた雰囲気がする女性である。
「なるほど」
軍神は何か閃いたような顔をしている。彼の閃きはハールメイツ神国には欠かせない。特に国力が低下している現在は、彼がいなければ崩れていたと言っても過言ではない。
「まさか話し合おうというのですか!」
「ええ。まだ戦争状態ではありません。秘密裏にアガレスと対話します」
マイセルの言葉に微笑んで答える軍神。
「賢王と軍神の対話。よい結果を期待しております」
全てを見透かしているかのようなハーミルの声が響く。
「それでは」
軍神が片手を上げて早足で去っていく。その足取りはどこか急いているようにも見えた。
その姿に不安を感じたのだろうか。副団長は自然と隣に立ったシスターに視線を向けていた。
「よろしいのですか?」
マイセルは眉根を寄せて問う。
「ええ。おそらくこの対話……この大陸の運命を左右する程の意味があると思います」
ハーミルは遠い目をしてつぶやく。
幾度も奇策を用いてこの国を勝利に導いた軍神。今回も彼が帰還した際は、皆が目を見開くような策を持ち帰ってくるのだろう。そんな彼に与えられた敬意と畏怖を込めた称号が今も生きている事を示すかのように。
「そうですか。副団長というのは案外……仕事がないのですね」
マイセルは自らを強引に昇格させた人物に澄んだ青い瞳を向ける。
「戦いになれば嫌でも活躍していただきます。それで……一年前の事は許します」
ハーミルはうつむく。
おそらく一年前を思い出しているのだろう。ハーミルの細い肩は震えていた。彼女が経験したのは敗戦だった。その戦場で彼女も皆と共に命を落とすつもりだった。だが、マイセルは、彼女を守る騎士はそれを良しとはしなかった。
だから、マイセルは彼女を戦場から連れ出した。そんな彼にぶつけられたのは深い怒りと憎しみだった。それはシスターが抱くべきではない汚れた心だった。
彼女の汚れた心を癒すためならば、マイセルは如何なる事でもやるだろう。本日も彼の口から漏れたのは償いの言葉だった。
「それで許されるのであれば努めましょう。出世にも地位にも興味はありませんが、ただ私が出来る事をこの国と……あなたのために」
マイセルは恭しく礼をする。
「お任せします。副団長殿」
シスターの第二位も恭しく礼をする。そんな彼女はすでに普段通りの彼女のようだった。
*
見上げた先は真っ白な天井。慣れぬ土地を歩き回ったせいなのか体が重い。だが、眠る訳にはいかずにノイアは半身を起こす。
招待された部屋は予想通りの狭さだった。部屋に置かれているのは部屋の右奥にベッドが一つ、そして、後は左に机が鎮座している。テーブルなどを置くスペースは皆無だった。他に目につくのはドアを開けて真正面に見える窓くらいだろうか。窓の隙間から漏れる風は肩が震えるくらいに冷たい。ベッドに載せられた毛布と分厚い布団がここまでありがたいと思った事は、おそらく今までにないだろう。
何気なく部屋の観察をしていると、じっとこちらを見つめる視線が気になって仕方ない。本日この部屋で共に過ごすシェルの視線である。
どうも船でのやり取りのせいで嫌な距離感が続いている。シェルはいつも通りである。原因はノイアだ。これ以上は汚い所を見せまい、とシェルの瞳から逃げ続けている。それが納得いかないのか少女はじっとこちらを見つめているという事だ。合わせるまで視線を外す事はないのだろう。突き刺さる視線は言外にそう告げていた。
(そろそろ降参か)
ノイアは内心でつぶやく。そんな心の声すら伝わっていそうで戸惑ってしまう。だが、伝わっているのであれば隠すという事は無意味なような気がした。
ゆっくりと視線を右へ。すぐに澄んだ青い瞳と重なる。
「ようやく視線を合わせてくれた」
花が咲いたように笑うシェル。心底嬉しそうに見える。実際に嬉しいのだろう。
「ごめん。どうしても船での一件が気になってな」
つぶやいた瞬間に自分がどんな表情をしているのか気になった。もしかしたら泣きそうな顔をしているのかもしれない。
「どうして気になるの?」
少女は問う。ノイアという人物を理解するために。
「シェルに汚い感情を見せたくないんだ。私はお前に誇れる騎士になりたい」
右手を握ってつぶやく。手の震えを誤魔化すためだが、シェルは見逃してくれなかった。ゆっくりと立ち上がってノイアの右手を包む。
「ノイアは誇らしい騎士様だよ」
「シェル……」
少女の温かさがノイアの心を解していく。今なら何でも出来る気がしてしまうから不思議だ。
「凛々しいノイアも大好きだけど。私はもっと知りたい。良い所も、悪い所も」
シェルの言葉が全身を駆け巡る。頭が理解した時には自らの小ささに嫌気が差した。
「どうして?」
「私はノイアの一番の理解者になりたい。どんなノイアだって好きでいたい」
ノイアの質問にあっさりと答える少女。迷いが晴れたノイアは一つの言葉に全ての気持ちを込める。シェルになら伝わると思うから。
「ごめん」
「ううん。これからは全部話してね」
うつむいたノイアに優しい声が降り注ぐ。
「ああ」
ノイアは少女の手から逃れて、代わりに抱きしめる。お互いに寄りかかる訳でもなく、お互いを理解して支え合える。これが隣に立つという事なのだろう。ノイアは今日この時に彼女の世話係を卒業できた気がした。それはノイアにとっては心から祝福できる事であり、それと共に一種の寂しさを感じさせる瞬間だった。
*
楽しげな声を耳にしたジュレイドは寄りかかっていた壁から背を放す。
「盗み聞きとは……あまりいい趣味ではありませんね」
低い声がジュレイドを威嚇する。
「少し心配だったんだ。必要ならフォローがいると思ってな」
鋭い視線をさらりと受け流して陽気な声を返す。
「そうでしたか。少しあなたを誤解していたようですね」
こちらの反応に驚いたのは一瞬。すぐに微笑を浮かべてザーランドはつぶやいた。
「構わんさ。まあ、そこまで心配でなければ……ここまで付いてこないだろ」
微笑を向ける相手に肩をすくめるジュレイドだった。
「どちらが心配なのですか?」
長髪の男はこちらに興味を持ったのか問いを投げ掛ける。
逡巡する事数秒。
ジュレイドは溜息をついてから口を開いた。
「両方かな」
「……両方ですか」
納得がいかないのか長髪の男は顎に手を置いて真顔で悩み出した。この辺りはギルベルトに似ているかもしれないと思う。すぐに考え出す所などは特にだ。
「ああ。ノイアは無理ばかりしていてガチガチ。お姫様は純粋すぎるんだ。疑う事を知らない。こんな二人の側にいたら心配にもなるさ。俺がここに派遣されたのは何かの悪意を感じるな」
何度目かの溜息をつく。
「自ら引き受けたのではないのですか?」
ザーランドの質問は中々に痛い所を抉ってきた。本人に悪気はないのか先ほどとは表情は変わらない。常に真顔で話している。関わっていると疲れる部類の人間だと思えてならない。
「そうだ。ほっとけないんだよ、あの二人」
髪型が乱れる事も気にせずに乱暴に頭を掻く。それでも自らの甘さを心から追い出す事はできなかった。本当に彼女達に関わってから自分は変わってしまったと思えてならない。
「なるほど」
ザーランドはこちらにようやく微笑を向けた。どこか好意的で、親しみを感じる笑みだった。だが、この程度で解されるジュレイドではない。いい機会であるので聞きたい事を全て聞いて、その上で判断するのもいいだろう。
「聞いていいか?」
「この国の現状についてですか?」
こちらの聞きたい事を正確に予測して問いを発するザーランド。先ほどまでの笑みは消え鋭い視線が向けられる。
「聞きたいのは二つ。一つ、どうしてこの地には緑がなくなったのか。二つ、なぜ戦争する必要があるのか」
人差し指と中指を立てて問う。ザーランドは一つ頷いてから口を開く。
「まずこの地に緑がないのは魔力を使用する事の副作用です。そして、戦争をする理由はこの地に緑が……作物が育ちにくい地となったからです」
「おいおい。魔力の副作用って……。自分達で好き勝手に力を使って自然を消しただけでは飽き足らずに他国まで侵略するのか。あまりにも勝手過ぎるだろう!」
思わず叫んでいた。ザーランドの言葉はあまりにも勝手過ぎる。常に陽気なジュレイドでさえ怒りが込み上げてくる。一般の者ならばさらに激しい怒りが生じるに違いない。
「お怒りはごもっともです。ですが……明日には食べる物が何もないかもしれない。そんな極限の状態に置かれればどんな手段でも取ります。それが人間です」
開き直ったような物言いだった。言いたい事は理解できる。だが、納得はできなかった。
「ハールメイツ神国としては許す事はできないな」
つぶやいて腰のホルスターに手を伸ばす。こんなにも早く交渉が決裂するとは思わなかった。もう少し話せると期待していた自分は確かに存在した。それが残念でならない。
「待って下さい! 私はその愚かな戦争を止めたいのです。それは女王も同じです」
「それを信じろと?」
必死な言葉に冷たい視線を向ける。殺気を放ち続ける瞳を受けても引かないザーランド。何が彼をここまでさせるのだろうか。そして、嘘をついているようには見えない。その姿がジュレイドを迷わせる。信じてみたいと思わせる。
だが、油断して命を落とす訳にはいかないのだ。疑い警戒するのがジュレイドの務めである。
「信じて下さい。せめて……女王には会っていただきたい」
ザーランドは頭を垂れる。今にも銃を引き抜こうとするジュレイドを目の前にしてもなお。
「分かったよ。続きはそれからだ」
ジュレイドは低くつぶやいて隣を通り過ぎる。信じたいが判断する材料がない。態度を保留にする。それがジュレイドが取れる唯一の手段だった。
「ありがとうございます」
心からの感謝の言葉がジュレイドの心を再度揺さぶった。
*
微かな寝息を立てているのはシェル。ベッドが一つしかない事を良い事に身を寄せてくる少女。まるで一年前の甘えん坊の彼女に戻ったような気がする。甘えてきたり、成長した姿を見せたりと忙しい子だと思う。ノイアは苦笑して柔らかい黒髪を撫でる。
ザーランドの配下が見張っているとしても何が起こるかは分からない現在。ノイアは横にはなっているが眠るつもりはない。だが、何を警戒していいのか分からない。警戒する基準がないのである。魔力という力がどこまで万能なのか予測が出来ないからである。
襲ってくるなら窓だろうか。それとも正面からなのか。ノイアは瞳を閉じて意識を集中させていく。微かな音すら見逃さず、寄り添う少女を守り抜く。それが今のノイアに与えられた役割だった。
何事もなければそれでいい。
ノイアが短い思考を走らせた瞬間。微かな音を捉えた。それは天井で人が倒れる音だった。場所が正確に分からない所が悔やまれるが何かが起きようとしている。
「シェル」
眠る少女の肩を揺する。
「敵なの!」
シェルは慌てて半身を起こす。ただの聞き間違えであればそれでいい。だが、確かに自分は音を捉えた。
「端で障壁を」
ノイアは指示を出すと共に立ち上がる。
一つ深呼吸をしてすかさず剣を抜き放つ。月夜を浴びて光輝く騎士剣。情報が筒抜けならば敵はこちらを狙うだろう。ドアを背にしたノイアは剣を強く握り締める。
いざとなればシェルのために人を殺める覚悟はすでにしている。だが、出来ればこの手を血で染めたくはない。騎士でもあり、シスターでもあった自分が持つ最後の葛藤だった。
「やはりこちらか」
ノイアは一つの影を見つめてつぶやく。
次の瞬間。
ガラスが割れる音と共に姿を現したのは黒いローブを纏った男。手には魔力を元に形成した光剣が握られている。
敵の光剣は触れた物を爆破させる力がある。無力化させたいが、迂闊に鞘で止める事はすらできない。ノイアにとってはもっとも忌むべき力なのかもしれない。
「ならば!」
叫ぶと同時に迷わず床を蹴る。相手が反応するよりも速く、一息で距離を詰めるノイア。相手が避けられるギリギリの速度で剣を振るう。
高速で降られた銀閃が漆黒のローブを切り裂く。慌ててバランスを取る相手を緑色の瞳が正確に射抜く。
刹那、短く息を吐くノイア。吐き出させる息と共に左手に握る鞘が追撃の一撃を放つ。
「ちっ……」
ローブの男が舌打ちを漏らして半歩下がる。その姿に余裕の笑みを向けるノイア。剣も鞘も当てるつもりはない。ただギリギリで避ける事が出来る一閃を放ち続けるだけだ。
絶え間ない銀閃に男は剣を振るう事すらできない。迫る高速の剣にまさに手も足も出ないのだろう。
永遠に続くかと思われる剣舞。付き合いたくはないだろうがノイアは逃がさない。だが、その舞は唐突に終わりを迎える。
「私の勝ちだな」
つぶやくと共に半歩下がるノイア。それと同時にドアが開く音が耳に入る
「耳を塞いでろ」
余裕を感じさせる声が響いたと同時に轟音が部屋を満たす。大口径の銃から放たれた弾丸が敵の頭部に吸い込まれるように飛んでいく。
勝負がついたと思ったその瞬間。
甲高い音が部屋を満たす。それと同時に全身を針で突かれたような痛みが走る。弾丸は防いだのは一つの氷壁だった。
「外か!」
ノイアは叫ぶと同時に窓の外に素早く視線を走らせる。だが、敵の姿は見えない。
(天井にいるのか?)
ノイアが思考を走らせた瞬間、この場に魔力を持つ者がいる事を思い出した。疑いたくはないが、その可能性は捨てきれない。
「危ない!」
少女の叫び声がノイアを現実に引き戻す。不測の事態に動きが鈍ったノイアに光剣が迫る。剣でも鞘でも受け止められない一閃。避けるにしても間に合わないだろう。
「ノイアさん! 私の力を受け取って下さい」
数瞬前に疑ってしまった者の声。ノイアは疑うよりも信じる道を選ぶ。どちらかしか選べないのならば例え愚かだと言われようと信じたい。
渇いた音が部屋に響く。
次の瞬間、二つの光剣が激突する。互いの剣に秘められた力が衝突しているのか、閃光が室内を満たす。
一度、二度、お互いの剣が触れ合う度に閃光が瞬く。そして、三度目の閃光が瞬いた瞬間にノイアは勝負に出る。
「吹き飛べ!」
叫ぶと共に光剣が秘めた力を発動させる。舞ったのは光輝く刃だった。
「ジュレイド!」
役目を終えたノイアは叫ぶと同時に後方に跳躍。着地と共に銃声が轟く。ノイアの左腕すれすれを通過した弾丸が男の頭部を正確に貫く。
倒れる男を見る事もなくノイアは視線を窓の外へと向ける。残りは一人か、二人かは分からないがこちらを狙う者はまだいる。
「油断しないで下さい」
ザーランドの緊迫した声が部屋を満たす。刹那、寒気が背を駆け抜けた。
「来るぞ!」
ノイアは叫ぶと共に光剣を横薙ぎに振るう。視界を埋めたのは爆砕される氷刃。触れた物を爆砕させる魔力を帯びた剣。だが、次第に溢れんばかりに輝いていた光剣は光を失いつつある。力の消費が激しいというのはどうやら本当らしい。
ノイアは左手に握る鞘を強く握り締める。最悪は鞘一本で叩き落さねばならない。だが、その不安を一つの光が拭い去る。それは神力を発動させる馴染み深い言葉だった。
「神聖なる神よ。我に守りの力を」
少女の声と共にノイアを包んだのは光の壁だった。寒空を切り裂く氷刃を圧倒的な神力の壁が弾き返す。この障壁が形を保っていられれば負ける事はない。だが、相手の姿が見えなければ勝機がないのもまた事実である。
「ジュレイド、届く?」
ノイアは後ろを見ずに傭兵に問う。
「さすがに見えない相手には届かないな」
「では、ここは私が」
有効な手段を持ち得ない傭兵に代わって前に出たのはザーランドだった。シェルの障壁を楯にしてゆっくりと手をかざす。
「第二師団長、ザーランド。同じ氷の刃にてお相手します」
涼しげな声が部屋を満たす。ノイアは溢れる冷気に肩が震えた。全身を針で突かれたような鋭利な寒気。放たれる殺気は戦い慣れた者ですら震えてしまうほどに強烈だった。
ザーランドが出現させた氷の刃は、先ほどから障壁を叩いている物とは比べ物にならなかった。ノイアが使う騎士剣とほぼ同じサイズはあるだろうか。
「せめて……楽に逝けますように」
声に反応して氷刃に力が伝わる。寒空を、力無き氷刃を、進む道に阻む物全てを切り裂く鋭利な刃だった。
時間にして数秒。一つ息を吐いて黒髪の魔術師は手を下ろす。
「終わったのか?」
ノイアは目の前の魔術師に問う。氷刃が飛んでこない所を見れば終わったのだろう。だが、実感が全くないのが現状である。
「ええ。確実に仕留めました。彼は良い人材でした。残念でなりません」
ザーランドはうつむいて拳を握る。
「まさか……彼は」
ノイアは銃弾で撃ち抜かれた男を見つめる。
「ここでも内輪揉めか。どこまで腐ってるのかねぇ」
ジュレイドが苦々しくつぶやく。
「反論できませんね。まさか私が信頼を置く者の中に彼の手の者がいるとは思いませんでした。その可能性も考えなければいけないのですが……私は彼らを信じすぎていました。迂闊だったとしか言えませんね」
ザーランドの声はどこか寂しそうだった。信頼する部下すら疑わなくてはいけない。それは並大抵の精神力では勤まらないだろう。
「他の三人は……」
「こいつらに殺されただろうな。奇襲にて俺達を殺せるならそれで良し。失敗しても不審な目がザーランドへと向く。なかなか策士だな、敵は」
ノイアの言葉に答えたのは傭兵だった。一瞬でも疑ってしまったノイアは口を開く事はできなかった。この口で何を言っても無駄だ。事態をより悪くしてしまうような気がしてならない。
張り詰めた空気が部屋中を満たす。この空気にさせるのが相手の目的だとしても、一度不審に思えば止まらないのが人間というものだ。
そんな不快な空気を破壊したのは柔らかい声だった。
「ザーランドは助けてくれたよ」
二人に無垢な笑顔を浮かべて語り掛けるシェル。少女の青い瞳は今でも澄んでいた。疑いをもった汚れた瞳ではない。
「この状況で……まだ信じていただけるのですか?」
ザーランドは心底驚いたのだろう、その声は震えていた。
元気よく頷いて応えるシェル。そんな彼女を見て二人は微笑む。ノイアの心にはもう迷いはなかった。
「私も信じよう。助けられた事だしな」
ノイアは地に落ちた騎士剣を拾う。ザーランドの声を聞いて、咄嗟に騎士の魂とも言える剣を手放したのは信じたかったからだろう。その信頼に応えてくれたのは他でもないこの男だ。
「ノイアさん」
こちらへと視線を向けるザーランド。ノイアはゆっくりと視線を合わせる。
「もう一度言う。私はお前を信じる。そして、可能ならその力を貸して欲しい」
つぶやいてゆっくりと右腕を掲げる。
「何を……」
「いいから」
戸惑う魔術師に微笑むノイア。しぶしぶザーランドが同じように腕を掲げる。二人の腕が重なる。大陸マクシリアにいる友とよく行った、絆を友情を確かめる儀式のようなものだ。自然とブレイズと黒髪の魔術師が重なる。
「よろしく頼む。異国の友よ」
ノイアは漆黒の瞳をしっかりと捉えてつぶやく。
「光栄です」
ザーランドは微笑を称えて一つ頷いた。
*
雪原に立ち不適な笑顔を浮かべているのは黒髪の少女。その小さな身を包んでいるのは漆黒のドレスだった。白銀の雪が舞う寒空の中で、漆黒のドレスは自然と目に付くだろう。
だが、ドレスが霞むくらいに目立つ物を彼女は握っていた。
それは雪と同じ白銀色の柄を持つ一振りの大鎌である。そして、鋭利な刃物は色鮮やかな鮮血で濡れていた。
「これが魔力? つまらないわね」
飛来する氷刃を大鎌で切り裂いてぽつりとつぶやく。もっと強大な力だと思っていた。だが、実際に目にした瞬間に興味が失せてしまった。あまりにも脆くて、あまりにも弱い。
少女はこの戦いにすでに飽きていた。自らの腕を動か事すら億劫だった。一つ溜息をつくと同時にまるで何かの手品のように大鎌が姿を消す。異様な存在感を放っていた禍々しい武器が消え、残ったのは可憐な少女。
それを好機だと勘違いした魔術師二人が氷刃を形成する。少女はゆっくりと右手を掲げる。
「さようなら」
少女は綺麗に笑う。まるで家族を見送るように。
次の瞬間。
この世の終わりでも見たかのような絶叫が寒空に響いた。
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