第21話 壊れる場所を選ぶ
ORIGOの新しい作業台には、完成品より壊れた部品の方が多かった。ガルドが、結人の作った腰支えを石槌で叩いたからだ。
「まだ試着前ですよ」
「試着前だから壊す」
もう一度。骨板に細い亀裂が入り、三度目で二つに割れた。ガルドは破片を拾い、断面を親指でなぞる。
「ここは駄目。裂けた先が内側へ向く。転べば腹へ刺さる」
結人は紙へ外向きの溝を描いた。「女王の腰支えと同じに、ここから先を外へ落とします」
「人からは離れる。離れた荷はどこへ落ちる?」
ガルドが床へ箱を置いた。結人の図では、使う人のつま先の真上だった。
結人は溝を描き直した。「外れれば終わり、じゃないんですね」
ガルドは自分の左腕を台へ置いた。皮膚の下へ、白いひびのような傷が走っている。力を入れると、その周りだけ腰の紋と同じ光が乱れた。
「昔、兵士へ同じ肌鎧を配った。胸と肩を固めれば、誰でも同じ衝撃に耐えられると思った」
結人は口を挟まなかった。
「鎧は壊れなかった。だから衝撃は全部、身体の内側へ入った。二十七人が倒れた」
「その傷も?」
「俺は試験に入っていた。二十七人目だ」
工房の戸口で、若い港湾労働者が立ち止まっていた。粉を運ぶトーマの紹介で来た、エナという女性だった。右肩へ古い装具傷があり、腕を頭より上へ上げられない。
ガルドは彼女を見ると、石槌を置いた。
「その型は」
「港の共同装具です」とエナ。「十年前の」
彼の顔から表情が消えた。同じ肌鎧だった。
エナは仕事用の帯を作ってほしいと言った。肩へ荷重を掛けず、腰と太腿へ分けるもの。結人が採寸しようとすると、ガルドが止める。
「俺は外れる」
「なぜ」
「この人の傷を作った型に、俺の印がある」
エナは初めてガルドの腕を見た。「あんたが作った?」
「設計した」
「謝る?」
ガルドの口が開き、閉じた。
「謝って腕が上がるなら」とエナが続ける。「先に上げて」
静かな怒りだった。
ガルドは逃げなかった。結人の隣へ立ち、荷重を測る。右肩を使わないため、帯は左腰と両太腿へ三方向に分ける。一定以上の重さで太腿の留め具が先に外れ、荷物だけが地面へ落ちるようにする。
最初は空箱を膝より低く持ち上げた。床には厚い藁を敷き、二人で落ちる先を空けている。ところがエナが一歩引くと、早く外れた留め具へ片側の帯が引っ掛かった。箱が横へ回り、支えに入った結人のつま先をこつんと叩く。
「痛っ!」
エナが吹き出した。「人より先に壊れた」
「そこは藁の方へお願いします」
ガルドは笑わなかったが、口元がわずかに動いた。
二度目は、エナ自身が胸元の木輪を引いた時だけ荷物を落とせるようにした。転倒した場合は、腰の薄板が割れて後ろへ外れる。どちらも、身体を締めつけない。
木箱を持つ。歩く。段差を越える。エナの右肩は上がらないままだが、身体全体が右へ傾かない。
港の長い坂も試した。下りでは太腿の帯が前へ食い込み、エナは三歩で止まる。ガルドが黙って膝をつき、留め具を指一本ぶん外へ移した。謝罪の言葉は出なかった。代わりに、エナがもう一度坂を下り切るまで、彼は箱の反対側をいつでも支えられる距離で歩いた。
「腕は治ってない」と彼女。
「治す服ではありません」と結人。
「じゃあ、何が変わった」
エナは自分で箱を下ろし、右手を腰へ当てた。
「仕事の終わりまで、左足が残る」
ガルドが完成した留め具へ、自分の印を入れようとした。手が止まる。
エナが言う。「入れろ。次に壊れた時、呼びに行く」
「殴るためか」
「直させるため」
ガルドは小さく印を刻んだ。
結人は、壊れた最初の骨板を壁へ吊るす。失敗の向きが腹側を向いている。隣には、太腿へ安全に外れる二度目の留め具。
結人は二つの部品の下へ、空箱が回った弧も描き足した。指先でその線を辿ったガルドが、エナの荷を置く側へ、もう一本短い矢印を入れた。
翌朝、エナは港で最初の箱を運び終え、壊れなかった留め具をわざと一度外した。自分の手で止められることを確かめてから、二箱目へ向かった。ガルドは遠くからそれを見て、石槌を握る手だけを緩めた。




