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第2話:番の認定

「……えへへ。アルベルト様ぁ、そんなに強く抱きしめられたら、恥ずかしいですぅ」


 しんと静まり返った広間に、場にそぐわない甘ったるい声が響いた。

 メルフィール子爵家の令嬢、プリシラ。彼女はアルベルトの胸に顔を埋め、上目遣いで彼を見つめている。

 淑女の教育を受けた者であれば眉をひそめるようなはしたない仕草だが、アルベルトはそれを満足げに受け入れていた。


「構わん。お前は私の『番』だ。この国の誰よりも尊い存在なのだからな」


 アルベルトはそう言い放ち、冷ややかな視線をアンジェリカへ向けた。


「聞いたか、アンジェリカ。これで私が、父上や母上のような『真実の愛』を手にする権利を得たということだ。お前のように冷たい人形を愛する必要はなくなったのだよ」


 周囲の貴族たちがざわめきに包まれる。王族にとって「番」は絶対の存在。だが、アンジェリカがこれまで積み上げてきた努力を、一瞬にして「人形」と切り捨てた王太子の傲慢さに、会場には不穏な空気が漂った。


「……承知いたしました、殿下。ご認定、心よりお慶び申し上げます」


 アンジェリカは、一点の曇りもない完璧なカーテシーを披露した。背筋を真っ直ぐに伸ばし、アメジストの瞳を穏やかに細める。その気高くも美しい姿は、隣でだらしなく笑うプリシラとはあまりに対照的だった。


「フン、相変わらず可愛げのない女だ」


 アルベルトはつまらなそうに鼻を鳴らすと、プリシラを連れて玉座の方へと歩いていった。

 残されたアンジェリカの元へ、一人の女性が歩み寄る。


「……アンジェ、大丈夫?」


 王妃クリスティーヌだった。彼女はアンジェリカの肩にそっと手を置き、沈痛な面持ちで息子の背中を見つめている。


「王妃様。お気遣いありがとうございます。私は、大丈夫でございますわ」

「……あの子は、何も分かっていないのね。番が見つかることと、王妃としての務めは別物だというのに」


 クリスティーヌの視線は鋭く、そしてどこか悲しげだった。彼女自身、国王ジェイスの番ではない。王妃としての重責を担いながら、心の拠り所を別に持つ。それがこの国の「王家の形」だと、アルベルトは理解していない。


「アンジェリカ嬢」


 今度は、レオナルドが隣に並んだ。その端正な顔立ちは、今にも怒りで爆発しそうなほど強張っている。


「兄上は、貴女にあんな屈辱を……。僕が、陛下に進言してくる」

「いいえ、レオナルド殿下。止めてくださいませ」


 アンジェリカは、レオナルドの袖をそっと引いた。


「殿下は番を見つけられた。それは王家にとって喜ばしいことです。……私にできるのは、変わらず王太子妃としての職務を全うすることだけですわ」


 アンジェリカは微笑む。けれど、その瞳の奥には、レオナルドにさえ見せない「静かな光」が宿っていた。


(……これで、いいの。これでやっと、「役目」だけをこなせば良くなったのだから)


 彼女はレオナルドを見上げた。プラチナグレーの髪、優しげなエメラルドの瞳。幼い頃からずっと、心の中だけで想っていた、愛しい義弟。


「レオナルド様殿下。私は、大丈夫です。……本当に」


 その言葉の真意を、まだ誰も知らない。アルベルトが、自分の放った言葉がどれほど自分の首を絞めることになるのかを悟るのも、まだ先のことだった。

誤字を見つける度に修正をしております。

不慣れなため、何度も更新をしており、すみません。

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