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第18話:断罪の円舞曲

「……アンジェリカ様、いよいよですね」


 ソフィアの手が、アンジェリカの髪を整えながら微かに震えていた。

 今宵は、レオナルドの立太子を記念した公式晩餐会。国内外の賓客が集い、新王太子の威光を披露する晴れ舞台だ。そして何より、公式の場から完全に排除されたはずのアルベルトとプリシラに、最後の「沙汰」が下る夜でもあった。


 アンジェリカは、鏡の中の自分を冷徹に見つめた。

 今夜のドレスは、燃えるような紅。それは王家の慈悲ではなく、反逆者への断罪を象徴する色。


「レオナルド殿下は?」

「……『番の間』に。カレン様を、公式の場へ出すための『説得』に向かわれました」


 ソフィアの言葉に、アンジェリカは薄く唇を歪めた。

「説得」という名の、精神的な監禁。レオナルドは、カレンという「番」を国民への見せしめとして、一時の飾りとして利用することに同意した。それがアンジェリカと共に生きるための、彼に課された代償だった。


 ---


 晩餐会の会場は、かつてないほどの緊張感に包まれていた。

 玉座の隣には、レオナルド。そしてその傍らには、虚ろな瞳をした少女、カレンが座っている。彼女は豪華なドレスを着せられているが、その表情には生気がなく、まるで動く人形のようだった。


 そして、広間の中央。

 引き立てられてきたのは、ボロを纏い、鎖に繋がれたアルベルトとプリシラの姿だった。


「……見苦しいな、兄上」


 レオナルドの声が、冷たく会場に響き渡った。

 アルベルトは床に這いつくばりながら、上座に座る弟を呪わしげに睨みつけた。


「……キ、サマ……。そんな……そんな人形のようにした番を置いて、王座を盗んだ気分はどうだ……! お前も……お前も、どうせ番の呪いに狂っているのではないか!」

「狂っているのは貴方の方よ、アルベルト・ベインツ」


 アンジェリカが、ゆっくりと壇上から降りた。

 紅いドレスの裾が、石床を滑る音が死神の足音のように聞こえる。


「貴方は番という運命に甘え、国を、民を、そして私という婚約者の尊厳を泥に塗った。……この国の王となる資格を、自らの手で捨てたのです」

「黙れ! 公爵令嬢の分際で! お前だって……レオナルドに愛されていると信じ込んでいるだけだ! お前は、番を監禁する悪女として、歴史に刻まれるぞ!」


 アルベルトの叫びに、会場の貴族たちがざわめく。

 だが、アンジェリカは揺るがなかった。彼女はアルベルトの前に膝をつき、その汚れきった顔を扇の端で持ち上げた。


「……歴史は勝者が作るものですわ。貴方はこれから、プリシラと共に辺境の『塔』へ送られます。そこは、生涯、互いの顔しか見ることができない、番だけの楽園」

「……あ、ああ……嫌ぁ……、助けてくださいぃ……!」


 プリシラが泣き叫ぶが、アンジェリカの瞳に慈悲はない。


「一生、愛し合いなさい。貴方たちが望んだ、理性を排した本能のままに。……それが、私から貴方たちへの最後の手向けですわ」


 アンジェリカの合図で、騎士たちが二人を乱暴に引きずり出していく。

 広間に残されたのは、圧倒的な静寂と、冷徹なまでの正義を執行した王太子妃候補への畏怖だった。


 ---


 宴が終わった深夜。

 レオナルドは、カレンを侍女たちに預けると、逃げるようにアンジェリカの執務室へと飛び込んだ。


「……アンジェ。……終わったよ。すべて、君の言った通りに」


 レオナルドは、彼女の首筋に顔を埋め、子供のように震えていた。

 彼の体からは、無理に抱き寄せていたカレンの、微かな花の香りが漂う。


「……ええ。お疲れ様、レオ」


 アンジェリカは、彼の髪を優しく梳き、その震えを鎮めるように抱きしめた。

 レオナルドは、自分を汚し、自分を殺しながら、アンジェリカの手のひらで王としての役割を演じている。


「……僕は、一生、あの娘に呪われるんだろうね。……でも、いいんだ。君が僕を支配してくれるなら、僕は神にだって、呪いにだって背いてみせる」

「呪いなんて、私が焼き尽くしてあげるわ。……あなたは、私の光。そうでしょ?」


 アンジェリカは、レオナルドの唇を深く塞いだ。

 アルベルトたちを地獄へ追いやり、レオナルドを歪な玉座へと縛り付けた。

 今、この国を実質的に支配しているのは、誰に愛される必要もなく、ただ「義務」と「執着」を完璧に使いこなすアンジェリカ・アルバスタ、その人だった。


「……愛しているよ、アンジェ。……恐ろしいほどに」

「ええ。私も、愛しているわ。レオ」


 二人の影は、月の光の下で不気味に溶け合う。

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