小僧が嫌いな小僧さん
申し訳ありません。この作品は若い方にはお楽しみ頂けないかもしれません。
寺ではその日、通夜が行われていた。
焼香を済ませた参列者たちは寺の離れに移動し用意された料理を口にしながら故人を偲んでいた。
「あの、小僧さん」
廊下を歩いていた良安は呼び止められて振り返った。
喪服にエプロンをつけた女性かポットを手に立っていた。
横には彼女の子供とおぼしき五歳くらいの男の子を連れている。
「あの小僧さん、お茶をいれるお湯が無くなったので頂けませんか?」
「分かりました」良安は女性からポットを受け取った。
その時だった、男の子が訊いてきたのだ。
「鼻たれ小僧なの?」
「……」
耳を疑う様なひどい問いかけに良安が無言でいると慌てて男の子の母親が言った。
「五郎、違うのよ、鼻たれ小僧の小僧じゃないの。子供のお坊さんだから小僧さんと呼んでいるの」
「ふ〜ん」
男の子の誤解であった事が分かった良安は五郎という男の子に笑いかけた。
だが一時間後。
用を足した良安がトイレから出て来ると廊下に五郎が立っていた。
良安は嫌な予感がした。
五郎がニヤニヤ笑っていたからだ。
五郎が訊いてきた。
「しょんべん小僧なの?」
前とは違い、今回はわざと意地の悪い質問をしているのが見てとれた。
「違うよ」良安は無表情で答えた。
その時だった。
五郎の言い草を離れた所で聞いていた母親が叫んだ。
「何、言ってるの、五郎」
「やべ〜母ちゃんだ」
五郎は長い廊下を走って逃げた。
そして、その背中に向かって母親が叫ぶ。
「この、いたずら小僧〜」
良安が呆気にとられて彼女を見ていると彼女は深々と頭を下げて良安に言った。
「ごめんなさい、うちの子、わんぱく小僧で」
「いえ……」
良安は思っていた。
『小僧』という言葉をこんなに何回も聞く事になろうとは……
寺では今日の様に葬儀があるので参列者から『小僧さん』と呼ばれる事はあるが『小僧』と呼び捨てにされた事は一度もない。
そもそも『小僧』と『小僧さん』ではニュアンスがまるで違う。
だから良安は『小僧』という言葉が好きではないのだ。
そして嫌いなワードを立て続けに聞かされて彼はうんざりしていた。
「ごめんなさい」五郎の母は再び良安に詫びた。
その姿を見た彼は己れを恥じた。
私はなんて未熟者なのだ、些細なことを気にして……まだまだ修行がたりない
彼は深く反省しながらも、うすうす感じていた。
小僧のついた言葉は数多くある訳じゃない。これ以上、出くわす事も無いだろう
突如、廊下の奥から子供の泣き声が聞こえて来た。
「うわ〜ん」
五郎の声だ、二人は慌てて走り出した。
彼らが五郎の元に駆けつけると五郎は廊下に倒れ込んでいた。
どうやら走って逃げる途中、転んでしまったようだ。
母親は泣きじゃくる五郎を起こし優しく尋ねた。
「大丈夫? ケガしてない?」
すると五郎は言ったのだ……
「ひざ小僧をすりむいた」




