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「ハズレ精霊の飼い主」と馬鹿にされた整備士の娘ですが、機体の悲鳴が聞こえるので、貴族の皆様より上手く操れますよ?  作者: 秋澄しえる


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第39話「迷子」

 エキュイエの運転席で、私は周囲を見回した。


 見渡す限り、森。


 どこを見ても、同じような景色。


「ねぇ、エミリア。ここどこだろ?」


「わかんない」


 エミリアも困った顔をしている。


 肩の上のセラフィが、呆れたように言った。


「…だから言ったであろう!近道などと言って適当に進むからこうなるのじゃ!」


「えー、だってさ、なるべく早く着いた方がいいと思って」


「それで目的地を見失っていれば世話はないわ!」


 セラフィが偉そうに言う。


 うぅ、確かに私が悪かった。


 でも、一刻も早くアルトリーベに着きたかったんだもん。


「とりあえず場所を確認しよ。プルル、行くよ。ヴェリアルで広範囲索敵してみる」


 エミリアが立ち上がる。


「さっすがエミリア!頭いい!」


「…それに比べて、わしのミディは…」


「セラフィ、なんか言った?」


「…なんも言っておらんわ!ほれ!わしらも行くぞ!」


 セラフィが私の肩を叩く。


「あれ?そうなの?」


「万が一、敵のど真ん中だったらどうする!?少しは危機感を持たんか!」


「はいはい、わかりましたよっと」


 私たちは、エキュイエの格納庫に移動した。



 ヴェリアルのコックピットに座り、システムを起動する。


 機体の感覚が繋がる。


 隣では、エミリアも同じように起動している。


 エミリアのヴェリアルの背部から、微小な水滴が出てきた。


 霧ほどの密度はない。極小なので、見ることすら難しい。


 この水滴を広範囲に広げて、水滴に触れたものをプルルが知覚する。


 ここへの移動途中に試してみたら、半径二十キロ程度の範囲なら索敵可能だった。


 これは、通常のシヴァルリィやエキュイエで索敵可能な範囲を遥かに超えている。


 プルルの能力、すごすぎる。


 索敵結果は、プルルの知覚を通して、モニターに光点となって表示される。


 その光点は地図に重なり、中心が私たちになる。


「…あ、あった!これがスタルマーだね。ここから北西に十キロといったところかな」


 エミリアが嬉しそうに言う。


「十キロか、それならまだ…な」


 セラフィが何か言いかけて止める。


「まだ?なに?」


「ぬう…おぬしの勘もそう外れてはおらんといこうことだ!」


「でしょでしょ!」


 ほら、私の勘も捨てたもんじゃない。


(東のは敵だねー)


 プルルの声が響いた。


「なんじゃと!?」


 セラフィが驚く。


「え?」


 エミリアが確認すると、確かに東北東の方角の端に、少しだけ光点が見える。


「プルル、なんで敵だとわかったの?」


(学院に来たのと同じ形ー)


「…そっか、あの時、霧の水滴が当たってるから形は知ってるのか」


(そー)


 なるほど。プルルは敵の機体の形を記憶しているんだ。


「とすれば、パンターブリッツ!エミリア!私のとこにも共有できる?」


「ちょっと待ってね」


 ほどなくして、エミリアのモニターに映っていた同じ光点が、私のモニターにも表示された。


 地図の縮尺を合わせる。


「二つ、三つ…まだ増えるね。でも、ブリッツにしては動きが遅いような…」


「ここ、湿地帯だね。だから足をとられてるんだと思う。もしくは慎重に行動してるのかも」


「どちらもありえる話じゃな。プルル、パンターブリッツ以外に動いているシヴァルリィはいるのか?」


(いないー)


「そいつらだけ色を変えれるか?」


「できるよ」


 東北東の光点が赤くなった。


 とすると、スタルマー周辺で動いているのはヴェルドルかヴェリアルってとこかな。


 湿地帯は広大な範囲で、ナーンデルの森を南北に分断するように広がっていた。


「どうしよ」


「私たちはまだアルトリーベ騎士団に編入されていないから通信は無理だし、スタルマー周辺以外に味方はいなさそうだし…」


 こうしている間にも、赤い光点は増えていった。


 十二、十三。


「ブリッツが何機いるかわからないけど、この分だとスタルマーまで状況を伝えに行っている間に敵の準備完了するよね?」


「間違いなくそうじゃな。おそらくこれは奇襲作戦なのではないか?もしくは、他の戦線が陽動で、ここがド本命とかじゃな」


「マズいじゃん…」


 赤い光点は十八を数えたところで増加が止まった。


 ゆっくりと、それぞれの間隔を空けて、スタルマー方面の湿地ではない場所を目掛けて進んでいる。


「小娘、どうする?ここからなら彼奴らが湿地を出る前に頭を抑えることはできるぞ?」


「それって…速すぎない?」


「途中で話したではないか!プルルから教えてもらった外部への精霊力放出を応用して、滑るように移動することができるはずじゃと!」


「…一度も試してないよ?」


「試しながらやるしかあるまい?」


 セラフィが腕まで組んで、すごいドヤ顔。


 やってみたくて仕方ないのかな。


「例えばこういうのはどう?霧で周辺を覆えば動きが鈍くなるだろうし、こっちは索敵で動きがわかってるし、リーシャの『耳』もあるから、湿地帯から出てこようとした敵を先手とって一騎ずつ倒す、みたいな」


 エミリアが提案する。


「…それ、セラフィの言う高速移動をすることが前提だよね?」


「うん、そうだね」


 なんか最近、エミリアとプルルのセラフィ化が進んでるような気がする。


 ちょっとイヤ。


「…わかった!わかりましたよ!」


 深呼吸して気合いを入れた。


「じゃあ、行くよ!エキュイエはここに放置!後で取りに来よう!プルル!湿地帯を含めた周辺の可能な範囲に、できるだけ濃密な霧を展開!エミリア!索敵は任せたよ!」


(はいー)


「はい!」


「セラフィ!」


「おう!任せておけ!」


 セラフィが言うなり、ヴェリアルが浮いた!


 たぶん十~二十センチくらい。


「…全然安定してないけどこれでいけるの?」


「大丈夫じゃ!たぶん!」


「うー、いいよもう!行けー!」


 気づくとあたりはすべて真っ白!


 なにも見えない。


 完全にエミリアのつけてくれたマーカー頼り。


「速い!速すぎ!」


 ヴェリアルが猛スピードで駆け抜ける。


 いや、駆けてるわけじゃない。滑ってる。


 進行方向にある木を避ける細かい機動修正は都度行っているけど、それだってプルルからセラフィへの思念伝達任せ。


 コンマ数秒、セラフィから私への伝達が遅れればドッカーン!


 浮いてるおかげで振動もほぼないし、この忙しささえなければ快適なのかもしれないけど…怖い!


「セラフィ!力残しておいてよ!?」


「大丈夫じゃ!大して力は使っておらん!」


 エミリアのヴェリアルの光点がどんどん後ろにいってしまった。


 速度差がどれくらいあるのか検討もつかない。


「ねぇ、これってさ、この状態だと湿地でも足がつけずに動けるんじゃない?」


「おお!そうじゃな!いけるぞ!細かい動きは無理じゃがな!」


「練習すれば細かい動きもできるかな?」


「お!なんじゃ!やる気になったのか!?」


「うん、ちょっとこれ楽しくなってきた」


 そんなこんなしている内に、目的地としていた湿地帯のスタルマー近くの端っこについた。


 徐々に速度を落とし、静かに到着。


 外部の音を聞こえるようにしたら、確かにパンターブリッツの音が聞こえた。


 マーカーで見てもすぐ近くだ。


「ギリギリ間に合ったね」


「じゃな」


「行動不能にするだけで充分かな。足の関節部を破壊すれば動けなくなるだろうし」


「ふむ…小娘は甘いのう」


「…だって、敵とはいえ…人を殺したいわけじゃないし…」


「ま、それも一つの方法じゃな!わしは嫌いじゃないぞ?さて、くるぞ!」


「うん!」



 目の前のパンターブリッツが、霧の奥から姿を表す。


 いや、表す前に。


 私は体をかがめた。


 機体の音で位置を把握し、小剣を抜く。


 相手の左膝の裏、装甲の薄い部分に、小剣を深々と突き刺し斬り裂いた。


 金属が悲鳴を上げる。


 関節部の駆動系が断たれ、パンターブリッツはその場で崩れ落ちた。


 もがいている。


 でも、立てない。


「ごめんね」


 私は小さく謝って、次の敵へと向かった。



 二機目。


 霧の中から、こちらに向かってくる足音。


 ゆっくりと、慎重に。


 相手は警戒している。


 でも、私には聞こえる。


 機体の軋み、関節の音、装甲の振動。


 すべてが、私に位置を教えてくれる。


 私は右に回り込み、敵の背後に立った。


 相手は気づいていない。


 霧が濃すぎて、視界がゼロなんだ。


 私は小剣を右膝の裏に突き立てた。


 敵機が倒れる。


 悲鳴のような金属音が響く。


「二機」



 三機目。


 今度は二機が並んで進んでくる。


 連携している。


 賢い。


 でも、音は二倍。


 私には、二機の位置が手に取るようにわかる。


 私は左側の機体に接近した。


 小剣を膝の裏に突き刺す。


 敵機が崩れ落ちる。


 もう一機が、倒れた仲間の方を向く。


 その隙に、私はもう一機の背後に回った。


 同じように、膝の裏を斬る。


 二機とも、もう立てない。


「三機、四機」



 四機まで倒したところで、敵の光点が次々動きを止めた。


「ようやく気付いたか」


 セラフィが満足そうに言う。


「気づいてくれなきゃどうしようと思ってたよ」


 その時、私の耳が風切り音を捉えた。


「矢!」


 咄嗟に右に動く。


 数本の矢が飛んできて、その内の一本が左肩の装甲を滑るようにかすっていった。


「危ないなぁ!味方が前方にいるのに矢を使うの!?」


「それだけ混乱しておるのじゃろ。お、二騎、右に行ったぞ。単独での行動は止めたらしい」


 モニターを見ると、確かに二つの光点が一緒に動いている。


「やるしかないね」


 私は二機に向かって移動した。



 二機が並んで、ゆっくりと進んでくる。


 背中合わせかな。


 死角を作らないように。


 でも、視界がなければはあまり意味はないし、こっちとすれば好都合。


 私は、二機の間を通り抜けるように接近した。


 左の機体の膝を斬り、右の機体の膝を斬る。


 一瞬の出来事。


 二機とも、同時に崩れ落ちた。


 その時、私の機体が、はっきりと見られた。


 倒れた機体のミディが、コックピット越しに私を見ているのがわかった。


「見られちゃったね」


「全体の動きが止まったようじゃな。ん?左に一騎動いたか」


「やる」



 一機が、こちらに向かって突っ込んでくる。


 速い。


 でも、音は大きい。


 私は正面から迎え撃った。


 相手が剣を振り上げる。


 私は剣を受けず、体を沈めて懐に潜り込んだ。


 そして、膝の裏を斬る。


 敵機が前のめりに倒れた。


 その時、敵のハッチが開いた。


 ミディとエメルが出てきて、走って森の方に逃げていく。


「あ、よかった。生身で向かってこられたらどうしようって考えてた」


「殺さない選択をしたなら、どうするか考えておくべきじゃな」


「そうだね、今度考えておく」


 今度こそ、敵の動きは止まった。


 残り十一騎。


 霧がない状態でなら、かなうはずもない数。


「おとなしく帰ってほしいけどなぁ…」


 私は、倒れたパンターブリッツを見下ろしていた。


 この機体、どうしよう。


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