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「ハズレ精霊の飼い主」と馬鹿にされた整備士の娘ですが、機体の悲鳴が聞こえるので、貴族の皆様より上手く操れますよ?  作者: 秋澄しえる


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第29話「師匠」

 数日後。


 ミラボー騎士団の格納庫前で、私は汗を拭いながら積み込み作業の最終確認をしていた。


「よし、固定完了!エミリア、そっちは!?」


「こっちも大丈夫!」


 小型エキュイエの格納庫には、私とエミリアのヴェリアルが鎮座している。大型と違って、この車両は最大二騎まで。その代わり、居住区が快適らしい。


「小娘!わしの寝床も積んだか!?」


 肩の上でセラフィが叫ぶ。


「積んだよ!専用クッションもちゃんとあるから!」


「フン、当然じゃ」


 このエキュイエ、ロルフのおっちゃんに頼んで、カタリナ様から特別に借りてもらった。大事に乗らなくちゃ!


「リーシャ、これで全部か?」


 おっちゃんが、私の荷物を心配そうに見ている。


「うん!ありがとう、おっちゃん!」


「気をつけて行くんだぞ」


「大丈夫だよ。母さんもいるし」


「ベアトリスが一緒なら安心だな。…それにしても、おまえたちの教え方には驚いたぞ」


「え?」


「特にエミリアの教え方は素晴らしかった。騎士団のみんなも『エミリア先生』って呼んでただろ?」


 ああ、あれね。思い出すだけで恥ずかしい。



(昨日までの回想)


「はい、では次は精霊力の伝達についてです。ヴェリアルはF値が高いので、思念の伝達速度がヴェルドルの約1.3倍になります。つまり、同じ動作をさせようとすると、ヴェルドルより弱い思念で済むんです」


 エミリアが、黒板に図を描きながら説明している。


 その前には、屈強な騎士たちがノートを取りながら真剣に頷いている。


 なにこの光景。学校の授業かな?


「エミリア先生、質問です!」


 先生って呼ばれてるし!エミリア、すごいなぁ。


「はい、どうぞ」


「ヴェルドルの時は、思念を強く送らないと反応が遅れたんですが、ヴェリアルだと逆に過剰反応してしまって…」


「あー、それが先ほどの話に繋がる『強度調整』のことです。ヴェリアルは感度が良すぎるので、最初は『ささやく』くらいの感覚で思念を送ってみてください」


「なるほど!」


 みんな、すごく納得してる。エミリアの説明、本当に分かりやすいんだよね。


 エミリアの肩に乗ったプルルも、得意げにぷるぷる震えている。


(プルルもお手伝いしたよー!エミリアちゃんが説明する時、わたしが感覚を伝えたの!)


(うむ、良い仕事じゃったな)


 セラフィがプルルを褒めている。珍しい。


 で、私の番になると…。


「えっとね、こう…ビューンって感じで思念を送ると、シュッと動くんだけど、ギュッと力を込めすぎるとガクンってなっちゃうから、フワッとした感じで…」


「…リーシャ殿、もう少し具体的に…」


「だから!フワッとした感じで!」


「フワッとした感じとは…?」


 うー、なんて説明すればいいの!?私にとっては当たり前のことなんだけど、言葉にするのって難しい!


 セラフィも助けてくれなかった。


「わしの感覚を言語化するのは難しいのう。まあ、小娘の言う通り、フワッとした感じじゃ」


「だからフワッとした感じって何ですか!?」


 ミディたちの悲鳴が格納庫に響いた。


「セラフィ!もうちょっとマシな説明して!」


「無茶を言うでない。わしとて困っておるわ!」


 結局、私とセラフィの理論的な説明は誰にも理解されなかったのだった。


(回想終わり)



「私の説明、全然ダメだったけどね…」


 思い出すだけで顔が熱くなる。


「フン、あれはわしのせいではないぞ。小娘の説明が下手なだけじゃ」


「セラフィのせいでもあるよ!」


「いやいや、リーシャの実技指導は素晴らしかった。特に『耳』で機体の状態を判断する方法は、みんな真似しようとしてたからな」


「え、そうなの?」


「ああ。『ここの音がこうなったら、ここの調整が必要』って、実演しながら教えてくれただろ?あれは分かりやすかった」


 あ、それなら私にもできた!やっぱり、私は実技の方が得意なんだ。


「まあ、何はともあれ、助かったよ。おかげで騎士団のみんな、だいぶヴェリアルに慣れてきた」


「良かった!」


「じゃあ、気をつけてな」


 おっちゃんが私の頭をガシガシと撫でる。大きくて温かい手。この感じ、好きだな。


「うん!行ってきます!」



 エキュイエの運転席に乗り込むと、既にエミリアが座っていた。母さんは後ろの居住区で荷物の整理をしているみたい。


 わあ、広い!大型エキュイエの運転席は詰め詰めだったけど、こっちは二人で座っても余裕だ。


「プルルちゃん、この広さ、すごいね!」


 エミリアの肩に乗ったプルルが、嬉しそうにぷるぷる震えている。


(ほんとー!ゆったりできるー!)


「フン、これくらいが当然じゃ。前回のは狭すぎたわ」


 セラフィが偉そうに言う。


「じゃあ、出発しよっか」


 私が思念を送ると、エキュイエがゆっくりと動き出した。


 前回は三日間の強行軍だったけど、今回は六日かけてゆっくり王都を目指す。


 状況から考えればゆっくりするのは良くないのかもしれない。でも、この時間を大切にしたい気持ちの方が強い。母さんと、エミリアと、三人で過ごせる時間。


 窓の外を流れる景色を眺めながら、私は少しだけワクワクしていた。


「リーシャ、次の交代は私ね」


「うん!よろしくね」


 私とエミリアが交代で運転する。母さんは運転できないから、二人で頑張らないと。



 初日の夜。


 私たちはエキュイエの居住区で夕食の準備をしていた。


 小さいながらもキッチンがあって、簡単な料理ができる。野宿する必要もないし、宿に泊まる必要もない。快適すぎる!


「エミリア、お皿並べてくれる?」


「はーい」


 母さんが作った温かいスープの香りが、狭い空間に広がる。いい匂い!お腹空いた!


「小娘!わしの分は!?」


「はいはい、ちゃんとあるよ」


 私はセラフィ用の小皿に、スープを少し取り分けた。


(プルルの分もー!)


「プルルちゃんの分もあるよー」


 エミリアがプルル用の器を用意する。


 全員でテーブルを囲んで、食事を始めた。


「美味しい!ベアトリスさんのスープ、本当に美味しいです!」


「うむ!このスープ、野菜の旨味が凝縮されておる!」


 セラフィが満足そうに頷く。


(お肉も柔らかくて美味しいー!)


 プルルも喜んでいる。


「ありがとう、みんな。たくさん食べてね」


 母さんが優しく微笑む。


 ああ、この時間、幸せだな。戦争のことも、難しいことも、今は忘れて、ただこの温かいスープを味わいたい。


 食事が一段落したところで、母さんが口を開いた。


「エミリアちゃん、リーシャから聞いてたんだけど、あなたは本当に良い子ね」


「え、そんな…」


「リーシャの親友なら、私からも話しておきたいことがあるの」


 母さんの表情が、少し真剣なものに変わった。


 あ、これ、例のやつだ。


「実は、私、昔はミディだったのよ」


「え!?」


 エミリアが目を丸くする。予想通りの反応だ。


(え!ベアトリスさんもミディだったの!?)


 プルルも驚いている。


「でも、今はもう契約を失ってミディではなくなってしまったのね。だから、シヴァルリィもエキュイエも動かすことはできないのよ」


「そう、だったんですか…」


 エミリアが、少し寂しそうな顔をする。


 でも、母さんは続けた。


「でも、剣術や槍術、それにシヴァルリィの操縦技術は、まだ覚えているわ。もし良かったら、教えてあげようかと思って」


「本当ですか!?」


 エミリアが身を乗り出した。


 え、待って待って!私も!


「私も!私も教えて!」


 私も慌てて手を挙げる。


「フン、小娘よ。おぬしの母上から学べることは多いぞ。しっかり学ぶのじゃ」


「セラフィもそう思う?」


「うむ。ヴィルトと契約していた者ならば、その技は本物じゃ」


「ふふ、いいわよ。明日から、少しずつ教えてあげる」


 やった!母さんの指導、超楽しみ!



 翌日から、私たちの特訓が始まった。


 エキュイエを停めて、広い場所を見つけては、母さんが私たちに剣術と槍術を教えてくれる。


「シヴァルリィで戦うといっても、ミディ自身がその武器の使い方を熟知していないと、機体も上手く動かないの」


 母さんが木の枝を拾って、剣に見立てて構える。


 その姿がかっこいい。なんだろう、物語にでてくる騎士の絵姿のよう。


「まず、剣の基本。重心はここ。振る時は、手首ではなく、腰を使って」


 母さんの動きは、無駄がなくて、美しい。


 私とエミリアも木の枝を拾って、母さんの真似をする。


「小娘!腰が高い!もっと下げろ!」


 セラフィが肩の上から指摘してくる。


「わかってるよ!」


「リーシャ、もっと腰を落として。エミリア、そう、その調子」


 母さんの指導は、厳しいけど的確だった。


 うー、難しい!でも、楽しい!…あれ?…あ!そっか!


 学院でやった剣術の授業を思い出した。あの時はよくわからなかったことが、今はすっと入ってくる。そういうことだったのか。


「次は槍。槍は剣と違って、リーチが長い分、扱いが難しいの」


 エミリアが真剣な顔で頷く。彼女、槍使いだもんね。真剣だ。


「突く時は、全身のバネを使って。引く時は、素早く」


 母さんの槍さばきは、まるで舞のようだ。


 私、見とれちゃった。


(すごいー!ベアトリスさん、かっこいいー!)


 プルルも目を輝かせている。



 そして、シヴァルリィの操縦技術も教えてくれた。


 エキュイエを停めて、私たちがヴェリアルのコックピットに座る。母さんは外から見ながら指導してくれる。


「思念の伝達方法だけど、『強さ』じゃなくて『明瞭さ』が大事なの。その『明瞭さ』をどうやって正確に思念に乗せるのか、そこが重要なの」


 母さんが、外から私たちの動きを見ながら説明してくれる。


 明瞭さ…なるほど!だから私の「フワッと」は伝わらなかったんだ!


「自分の体を動かす時、例えば「走る」時はどこを意識してる?」


「足!」


「そう、それは間違いないわね。でもね、単純に足と言っても関節もあれば筋肉の動きもある。そういう一つ一つの動きを分割して考えてから、動かしたい流れに沿って統合する。このように一つの動きでも、明確にイメージすることで『明瞭』な思念を形作ることができるの」


「ほう、明瞭さか。確かに、わしも小娘の思念が曖昧だと感じることがあったわ」


 セラフィが頷く。


「曖昧な思念を送ると、エメルもシヴァルリィも迷うわ。だから、『こう動け』という『明瞭さ』が重要となります」


「明瞭さ…」


「そう。それと、キーボタンの効率的な使い方も覚えて」


 母さんが、キーボタンを指差しながら教えてくれる。教科書には載っていない実践的なものばかり。


 すごい…こんな使い方があったなんて…。


「ほほう、このボタンの使い方は知らなんだ。小娘、覚えておけ」


「うん!」


「実際に動かしてみて。私が外から見て、動きの良い点、悪い点を指摘するから」


「はい!」


 私とエミリアが交代でヴェリアルを動かす。母さんは外から、私たちの動きを細かくチェックしてくれる。


「小娘、今の動き、思念が曖昧じゃったぞ」


「わかった、もう一回!」


「リーシャ、そう、その調子。でも、もう少し力を抜いて」


「はい!」


(エミリアちゃん、いい感じだよー!)


「ありがとう、プルルちゃん!」


 母さんとセラフィとプルルの三者指導で、私たちの技術はめきめき上達していく。


「ベアトリスさん、本当にすごいです!」


 エミリアが感動している。


 私も同じ気持ちだった。母さん、やっぱりすごい。


 こうして、六日間の旅は充実したものになった。


 私とエミリアが交代で運転しながら、母さんの教えを受ける日々。


 母さんの教えは、私たちの技術を格段に向上させてくれた。


 初日から考えると、はるかに洗練された動きになっていると確信できた。


「小娘、おぬしの剣術、だいぶマシになってきたぞ」


「マシって言い方、ひどくない?」


「事実じゃろうが」


「むー」


「あ!あれ、ヴェラムじゃないかな」


 楽しくも短い旅は終わりを告げた。


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