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異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子  作者: 冬野月子
第3章

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15

 新年を迎える王宮のパーティは、今年は特に華やいでいた。

 王太子ラウリの呪いが解け、魔力も完全に戻ったというのだ。


 呪いを解いたのは視力を回復させたのと同じ精霊だという。

 そしてもう一人、王太子の婚約者候補であるリリヤ・アウッティもまた、精霊の加護を受けていると噂されていた。


「娘が同じクラスで学んでいるのだけど、アウッティ侯爵令嬢は特例で個人の杖の所有を許されているのですって」

「精霊の加護を受けた杖だと聞いたわ。虹色に輝いているって」

「精霊って実在しましたのね。見てみたいわ」

「普通の人間には見えないらしいぞ」


「アウッティ侯爵御一家、入場です!」

 皆がリリヤの噂をする中、侯爵家の到着が告げられた。

 会場内の視線が入口に集まる。

 侯爵夫妻と弟マティアスにエスコートされたリリヤが現れた。


 今日のリリヤは白いドレスだ。

 スカートの裾部分は黄色いグラデーションになっていて、金糸の刺繍飾りがついている。

 胸元には大きなエメラルドのついたペンダントをつけていた。

 これは前に宝石品評会での騒動のお詫びにと、コイヴィスト公爵から会場で最も希少な石を贈られたのだ。


「今日は王太子殿下の色ではありませんのね」

「婚約発表があるとの噂だが」

 リリヤの装いを見て人々がささやいた。


(やっぱりこういう場は慣れないなあ)

 視線と声を感じながらリリヤは思った。

 煌びやかだけれど露骨な視線と言葉が絶えない社交の世界より、自然や精霊たちに囲まれた離宮の方がよほど気持ちが良い。

(――でも、ここにも慣れないといけないんだ)

 自分に言い聞かせるように、リリヤはぎゅっと手を握りしめた。


 明るくて華やかな音楽と共に国王夫妻が入場した。

 続いて入場したラウリは白いジャケットを着てきた。

 その襟は金糸で装飾され、黄色のタイを締めている。


「王太子殿下の装い……」

「まあ。お揃いですわね」

 視線が再びリリヤに集まる。

 相手の目や髪色のアクセサリーは、婚約までしていなくともその夜会でのパートナーから贈られれば身につけることもある。

 けれど婚約前の男女が揃いの衣装を着ることはかなり異例だ。


 このドレスはラウリの強い意向で用意された。

 彼はこの夜会でリリヤとの婚約を成立させたかったが、慣例に従い婚約はリリヤが二年生になってからでなければならないと国王に反対されたのだ。


 婚約すればお妃教育が始まる。

 リリヤはこの世界に戻ってまだ一年も経っていない。

 貴族の生活に慣れてきたとはいえ、お妃教育を始めるにはまだ早いだろうという配慮もある。


(一年前は……施設の皆で餅つきして、お正月の準備して。一年後にこんな所にいるなんて思いもしなかったな)

 精霊がいて魔術のある、そんなファンタジーのような世界で、貴族の娘となり。

 色々なことがあって。

(いつかは……)

 リリヤが見つめる先には、国王の隣で微笑む王妃の姿があった。


「喜びと共にこの日を迎えることができて喜ばしく思う」

 集まった貴族たちを見渡して国王は言った。

「昨年は王太子ラウリの件で皆に多大な不安を与えてしまい申し訳なかった。だが皆も既に知っているだろうが、呪いは完全に解け魔力も戻った」

 わあっと大きな歓声があがる。


「未来は明るい。これからも皆と共にこの国をより良い国にしていこうぞ」

 拍手と歓声が長く響いた。



 国王の挨拶が終わるとラウリがリリヤの元へとやってきた。

「そのドレスも似合っているな」

「……ありがとうございます。ラウリ様も素敵です」

 リリヤに目を細めると、ラウリはアウッティ侯爵を見た。

「侯爵。リリヤを借りていく」

「かしこまりました」

 ラウリが差し出した腕にリリヤが手を添えると、二人はダンスフロアへと歩き出した。


「相変わらず弟には良く思われていないようだな」

 歩きながらラウリは言った。

「え?」

「私を見る目に書いてある。婚約者をきどるにはまだ早いと」

「それは……すみません」

「いい弟だ」

 リリヤに向かってラウリは笑みを向けた。

「そうやって心配してくれる兄弟がいるのはありがたいな」

「……はい」

 リリヤも微笑み返した。


 国王夫妻のファーストダンスが終わればあとは自由時間だ。

 踊る者、談笑する者、飲食を楽しむ者。

 日付の変わる時間まで各自思い思いに過ごす。

 リリヤたちも人々の中に混ざりダンスに興じた。


「だいぶ上手くなったな」

 リードしながらラウリが言った。

「本当ですか」

「ああ、練習の賜物だ。君は本当に努力家だな」

「……ラウリ様や、皆のおかげです」

 面と向かって褒められ、リリヤは一瞬目を丸くしたがすぐに笑顔になった。


 魔術や貴族の生活に慣れない自分をたくさんの人たちが見守り支えてくれた。

 家族や友人、教師、そしてラウリ。

「皆がいなければ、私はきっと挫けていたでしょうから」


「そうか。――そうだな、私も皆の支えで回復することができた」

 リリヤを見つめてラウリは言った。

「以前の私なら他人に感謝しようなど思わなかったが。今は皆のおかげだと思える」

「……はい」

「そう思えるようになり、君にも出会えたのだから、呪われたのも悪くなかったな」

 リリヤを見つめながらそう言ってラウリは笑った。


  *****


「皆様、まもなく新年を告げる花火が上がります。どうぞ外へ」

「我々は屋上へ行こう」

 ぞろぞろと人々がテラスや庭へ向かうのを見てリリヤも行こうとすると、ラウリが手を取った。

「屋上?」

「一番よく見える特等席だ」


 二人は手を繋いで賑やかな大広間から離れると、王族の居住区域へと向かった。

 足音を響かせながら螺旋階段を登っていく。

 階段を登り切った先の扉を開くと屋上へ出た。


「その格好だと寒いだろう」

 ラウリは腰に下げていた杖を手に取った。

 赤く光った杖から温かな風が生まれリリヤの周囲を覆う。


「暖かい……」

「始まるぞ」

 ラウリの声と共に、ドン、と大きな音が鳴り響いた。

 昼のように空が明るくなり、大輪の花火が幾つも咲き乱れる。


「わあ……」

 それはリリヤが知る打ち上げ花火と形はよく似ていたが、さまざまな色に変化していく不思議なものだった。


「もしかして……魔術ですか?」

「ああ。魔術を平和に使う、その象徴として花火を上げるようになった」

「そうなんですね」


 空にはいくつもの花火が上がる。

 下から、そして王宮の塀の外からも歓声が聞こえる。

「――向こうの世界の花火も好きですけど、ここの花火も綺麗ですね」

 空を見上げたままリリヤは言った。


「向こうでは夏に花火を上げるんです。いつも施設の皆と一緒に行くんですけれど……いつか好きな人が出来たら、二人で見たいなと思っていて」

 首を捻るとラウリと視線が合う。

「その夢が叶いました」


「――そうか」

「はい」

「来年もその次も、何十年先もずっと一緒に見よう」

「はい」

 自分を見上げて微笑んだ唇に、ラウリはそっと口付けを落とした。



おわり

最後までお読みいただきありがとうございました。

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