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異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子  作者: 冬野月子
第3章

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11

 一人になると、リリヤはパタンとソファに倒れ込んだ。

 回復魔術で不快感はだいぶなくなったが、魔力不足による疲労感はまだ消えていなかった。


(何が……起きたんだっけ)

 目を閉じると、記憶を辿りながら早口で喋る司祭の言葉を思い出す。


(ええと……魔力を引き出す石を私に使おうとしたけど、魔力が多すぎて割れたんだ)

 若い司祭は石に魔力を溜めたりそれを引き出したりする研究をしているようだ。


 それが精霊の石だと知っているかは分からないけれど、精霊の石を使ったペンダントをユーリア・コイヴィスト公爵令嬢に売った。

 ユーリアはそのペンダントで魔力を増大させようとしたが失敗してしまう。

 石も王家に没収され、困っているようだ。


(それで……どうして私はここにいるの?)

 ラウリたちと宝物館の屋上にいたら、突風に突き上げられて。

 気がついたらここにいた。


(あれは、風魔術? それで私を連れてきたって……まさか)

「誘拐!?」

 そこまで思い至りリリヤは飛び起きた。


「え……そんなことしていいの!?」

 いいはずはない。

 いくら神子と会わせてくれないからと、無理やり連れてくるなんて。


「どうしよう……」

 さっき鍵がかかる音が聞こえたから、この部屋に閉じ込められたのだろう。

 立ち上がり、窓へと歩み寄る。


 石造りの壁に開けられた窓は幅が狭く、身体は通らない。

 ここから外へ出るのは難しいだろう。

 それにかなり高さがあり、飛び降りるのは危険だ。

(移動する魔術もあるらしいけど……そんなの習っていないし)

 杖もないからコントロールも難しい。

「帰してもらえるの……?」

 強い不安に襲われる。


 若い司祭は、リリヤの魔力を吸い取ろうとしていた。

 もしかしたら、自分はこのままここで魔力を取られ続けるのかもしれない。


「どうしよう……」

 ぞっと背筋が寒くなる。

 リリヤは自分の腕で自分の体を抱きしめた。


「……怖い……」

 脳裏にラウリの顔が浮かんだ。


 きっと彼も心配しているだろう。

「助けて……殿下……」

 じわりと目に涙がにじむ。

(――泣いても、意味ないのに)

 乱暴に目をこする。

 けれど不安な気持ちは更に広がっていく。

 大粒の涙が目からこぼれた。

「助けて……」

『リリヤ!』

 ふいに頭の中に声が響いた。


「……え」

 顔を上げると、窓から光の玉が飛び込んできた。

『まあ、どうしたの? 泣いているの?』

 くるりとリリヤの周りを回った光が目尻に触れる。

 ほんのり温かさを感じた。

「……もしかして……土の精?」

 以前会った、博物館となった後宮の、塔の中で眠っていた?


『ええ、街に帰ってきたの』

 光の玉から声が聞こえる。

『随分と人が集まって、ああお祭ね、懐かしいわと思っていたらあなたの声が聞こえたの。どうしたの?』


「――それが……」

 リリヤは土の精に、これまでの事を説明した。



『まあ、酷い人たちね。昔から教会の人間は腹黒い人が多いのよ』

 リリヤの話を聞くと、土の精は激しく回った。

『本当に酷いわ。こんな嫌な塔にあなたを閉じ込めるなんて』

「嫌な塔?」

『ここは強い結界がかかっているの。多分外から探知ができないようにするためね。私には効かないけど、嫌な空気だわ』


「ここから出たいんだけど……」

『そうね、でもどうしましょう。私だけじゃあなたを連れ出せないし』

 思案するように、リリヤの肩に止まった光の玉は再び宙に浮き上がった。

『そうだわ、仲間を呼んでくるわ』

「仲間?」

『皆で集まればこの塔を壊せるわ』


「あ、あの!」

 さすがに塔を壊すのはまずいと思い、リリヤは口を開いた。

「殿下たちを呼んでくることは……できる?」

『殿下? ああ、あの一緒にいた王子様ね。でも人間には私の声が聞こえないわ』

「そうよね……」

『何かあなたのものを貸してくれれば出来るかもしれないけど』


「私のもの……」

 リリヤは自分の身体に視線をおとした。

「――じゃあ、このミサンガは?」

 腕に巻いていたミサンガを外す。

 赤とピンクの糸で編んだそのミサンガは、少し歪んでしまったのでバザーには出さなかったが、柄が気に入っていたので自分でつけていたのだ。

 ラウリにも見せたので、これがリリヤのものだと彼なら分かるだろう。


『いいわね、これなら持てるわ』

 光の玉はミサンガの輪の中に潜り込んだ。


『それじゃリリヤ。いい子で待っていてね』

 軽くリリヤの頬に触れると、ミサンガを巻いた光の玉は窓から出て行った。


「――はあ」

 リリヤはソファへ戻ると座り込んだ。

 ラウリがあのミサンガに気づいてくれれば、土の精がここまで連れてきてくれるだろう。


「上手くいくかな……」

 希望と不安で胸が痛くなるのを感じていると、扉の鍵が開く音がした。


「神子様。お部屋の準備が整いましたのでご案内いたします」

 司祭モンテールが部屋に入ってきた。


 促されるまま部屋の外へ出る。

「狭い階段なのでお気をつけ下さい」

 この階に部屋は一つしかないようだ。

 出てすぐ脇の螺旋階段を上がっていく司祭の後についていこうとしたリリヤのすぐ後ろに、さっきとは別の若い神官が立った。

 前後を挟まれ、階段を上がっていく。

 登った先にあるドアを司祭が開いた。


「申し訳ございませんが、数日はこちらでお過ごし下さい。急ぎ神子様に相応しい部屋をご用意いたします」

 さっきまでいた休憩室と同じ広さの部屋には、ベッドとテーブル、それにキャビネットが置かれていた。


(数日で別の部屋を用意するってことは……やっぱり帰す気はないんだ)

「何か不便があればこちらの神官にお申し付け下さい。いずれ侍女もおつけいたしますので、しばらくは彼でご辛抱をお願いいたします」

 神官を示してモンテールは言った。


「……あの。私はここでどうすれば……」

「神子様には、この教会の権威を高める象徴となっていただきたいのです」

 リリヤの問いに、モンテールはそう答えた。


「象徴……」

「私はずっと、神子の存在を信じていました。けれど他の者達にはそんなものは神話上の存在だと否定され……ですがこうして、神子様が実在することが証明されたのです!」

 モンテールは両手を広げて天を仰いだ。


「井戸の奇跡から二十年経ち、今度は神子様が降臨されました! このまま教会が信仰を深めれば、いずれ神がその身姿を現す時も近いでしょう!」


「井戸の奇跡?」

 気になる言葉に、リリヤは聞き返した。


「実は、儀式で使う聖水の井戸が一度枯れたことがあったのです。けれど当時の大司祭たちの懸命な祈りによって井戸は復活いたしました。その聖水がこの度神子様の存在を示してくれた、まさに神のご掲示です!」


(……そう考えちゃうんだ)

 リリヤが神子と呼ばれる存在なのは、事実かもしれないけれど。

 井戸の水が復活したのは精霊のお陰なのは――教会の人間は知らないのだろう。


「……そうなんですね」

 精霊の存在は知られない方がいいと思い、リリヤはただ頷いた。


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