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異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子  作者: 冬野月子
第3章

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10

 リリヤたちは井戸から離れると、露店の並ぶエリアへ向かった。


「あちこちからいい匂いがしますね」

「何か食べるか。どれがいい」

「ええと……あ、あれは?」

 リリヤは露店の一つに目を止めた。


 テーブルの上には様々な果物が並んでいる。

 店主が串に果物を刺すと、それを鍋の中に入れかき回す。

(もしかして……りんご飴みたいなやつ!?)

 以前屋台で一度食べて、その美味しさに感動したことがある。


 近づくと、甘い香りが鼻をくすぐった。

「いらっしゃい!」

「これは、飴ですか?」

 リリヤは店主に尋ねた。

「ああ、うちの飴ははちみつが入っているからね、他の店とは違うよ」

「へえ、そうなんですね。美味しそう」

「どれにする」

 背後に立ったラウリが尋ねた。


「ええと……それじゃあ、この小さいりんごを」

「二本頼む」

「あいよ」

 店主から飴を二本渡されると、ラウリは一本をリリヤに手渡した。


「……殿下も食べるんですか?」

「せっかくだからな」

「その前に毒味を――」

「そんなことをして身バレしたらどうする」

 止めようとしたヘンリクに構わず、ラウリはりんご飴にかぶりついた。


(ふふ、豪快だ)

 リリヤも飴を一口かじる。

 薄くパリパリとした飴の食感と、その後から甘酸っぱいりんごの果汁がじゅわっと口の中に広がる。


「美味しい……!」

 店主の言った通り、ほんのり焦げた飴はこくがあってとても美味しい。

「これはなかなか美味いな」

 ラウリも満足そうに食べている。


(王子様と買い食いするなんて……思わなかったな)

 貴族令嬢が道端で立ったまま食事をするのはマナー的に悪いとされている。

 王子ならば尚更だろう。

(お祭りって、やっぱり楽しいな)

 りんご飴を食べながらリリヤは改めて思った。


 食べ終わり、再び並んだ露店を眺めながら歩いていると、先方に行列が出来ているのが見えた。

「あれは?」

「宝物館ですね。井戸と同様に、感謝祭で特別に公開されています」

 ヘンリクが答えた。

「宝物館……」

「歴代の大司祭が使っていた宝具など貴重なものが収められています」

「精霊の石もあるかもしれないな」

「行ってみますか」

 一行は宝物館へ向かった。



 宝物館はレンガ造りの二階建ての建物だった。

 入口では神官が「中は狭いので数人ずつ入っていただきます」と案内している。

 それで列ができていたのだろう、井戸の時よりも流れの悪い列にしばらく並び、ようやく中へ入る。


 薄暗い室内には、ガラスケースの中にずらりと司祭のローブや彫刻など、貴重品らしきものが並んでいる。

(特に精霊の気配は感じないな)

 リリヤは少し安心した。


 二階には装飾品など細かなものが展示されていた。

 ここにも精霊の石はない。

「屋上もあるのだな」

 一通り見終えた出口に、「創世のレリーフ公開中」の看板を見てラウリが言った。


「創世のレリーフ?」

「この世界が出来た神話を描いたものだ。見て行くか?」

「はい」


 屋上には誰もいなかった。

 下から祭りの喧騒が聞こえてくる。

「これが創世のレリーフですか」

 屋上は庭園になっていて、花に囲まれた中に大きな石を彫った絵があった。

 そこには長い髭を生やし、星々に囲まれた一人の男性が立っている。


「この人物が神だ。神は星を作り、星に力が宿りその光が地上に降り注ぎ、様々な生き物が生まれたとされている」

「あ……そういえば本で読んだことがあります」

 この世界に戻ってきたばかりの頃、知識を得るためにまずは絵本から読むよう進められた。

 読んだ本の中に創世の物語があったのをリリヤは思い出した。


(神様って、いるのかな)

 魔術や精霊といったものが存在する世界だ、いてもおかしくはないのだろうけれど。

(精霊みたいに見えないだけなのかも)

 レリーフを見つめながらリリヤは思った。


「戻るか」

「はい」

「この後は――」

 ふいにラウリの声が遠くなる。


 足元から突き上げられるような衝撃と共に身体が宙に浮き上がる。

(え?)

 視界が真っ白になる。


「リリヤ!」

 遠くでラウリの叫び声が聞こえた。


  *****


 ゆっくりと、視界を覆っていた白い光が消えていく。

(え……なに……?)

 リリヤは恐る恐る目を開けた。


 そこは部屋の中だった。

 大きなソファとテーブル、それに小さな祭壇の置かれた棚がある。

「……ここは……」

「休憩室でございます」

 ふいに背後から声が聞こえた。


 びくりとして振り返ると、二人の司祭が立っていた。

「え、あの……」

「手荒な真似をして申し訳ございません、神子様」

 年配の司祭が一歩前へ進み出た。


「司祭のモンテールと申します。神子様をお招きしたいと何度が申し出ていたのですが、アウッティ侯爵家も王家も断るばかりでございまして」

(この人……洗礼式の時にいた?)

 井戸の水を飲んで光ったリリヤを「神子様」と呼んだ司祭に似ている気がする。


「これは、一体……」

「まずは確認したいことがあるので、失礼します」

 もう一人、若そうな司祭がリリヤに歩み寄ると、何かを首に巻きつけた。


 ズン、と身体が重くなる。

 目の前が暗くなり視界が歪む。

「――」

 声にならない呻きを漏らすとリリヤは崩れるように床に座り込んだ。


(なに……まりょく、が)

 大量の魔力が急激に身体から抜けていく。


「馬鹿者! 早くペンダントを外せ!」

 怒鳴り声と同時に、パンッと何かが割れる音が響いた。


「……は? 割れた?」

 リリヤの目の前に、二つに割れて落ちた黒い石を見て若い司祭は目を見開いた。


「ばかな……石が魔力量に耐えきれなかったのか!?」

「神子様!」

 うずくまったままのリリヤにモンテールは駆け寄った。

(いし……?)

「神子様、申し訳ございません」

 まだ動けないリリヤを立ち上がらせ、ソファへと座らせながらモンテールは言った。


「ああ、顔色が悪い。本当に申し訳ございません、今回復魔術を」

 身体に温かなものが流れ込んでくる。

 以前足をひねった時に魔術をかけてもらったのと同じ感覚だ。


「……いま、のは……」

 リリヤは何とか声を出した。


「石に魔力を貯めるペンダントです」

 若い司祭が言った。


「前から研究していたんですけど、上手くいかなくて。入れるのは出来るんですけど保存が難しいんですよね」

 はあ、と若い司祭はため息をついた。

「でも最近王宮で石に音を貯めることに成功したと耳にして。何とかその石を手に入れてそれを参考に、石に魔術を貯めて保存できるようになったんです!」

 興奮しているのか、早口で喋っていた若い司祭は再びため息をついた。


「難しいんですよね、使える石の種類も限られてますし、値段も張るしで。で、大量に貯蔵できる石を発見したのでさっき神子様に試してみたんですけど……規格外すぎましたね。改良しないとだめだなあ」

 ぶつぶつと呟いていた若い司祭は、ふいに目を輝かせるとリリヤを見た。


「ちなみに、これは貯めなくても最初から魔力がある石です。人に魔力を与える魔術をかけて実践したんですが失敗してしまって。あ、たしか神子様もその場にいましたよね」

 若い司祭が突き出した手に下げられていたのは、金の装飾に覆われた精霊の石だった。


「そのいし……ユーリアさまの……」

「そうです。実験台兼資金源を探していた時にあの公爵令嬢を紹介されまして。でも暴走してしまったみたいで。原因を調べたかったのですが、石を回収されてしまって……この石、すごく貴重なんですよ。あとこの一つしかなくて」


「それ以上は止めておけ。お前は喋りすぎだ」

 モンテールが遮った。

「神子様はお疲れだ、魔力が回復するまでお休みいただかないと」

「じゃあ俺、研究に戻りますね」

 若い司祭は部屋から出て行った。


「神子様。お部屋のご用意をいたしますのでしばらくこちらでお休みください」

 そう言い残してモンテールも出ていく。

 扉が閉まると、ガチャリと鍵をかける重い音が響いた。


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