表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子  作者: 冬野月子
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/43

09

 感謝祭が開かれている大聖堂は大勢の人々で賑わっていた。

 敷地内の、建物へ向かう通路の両側には食べ物やお土産品など様々な露店が並んでいる。

 集まった人々が店で買ったものを歩きながら食べたり、子供たちが楽しそうに走り回ったりしている光景は向こうの世界と変わらない。


(花火大会を思い出すなあ)

 リリヤが住んでいたのは田舎町だったが、近くの街で行われる花火大会の日は、バスに乗って施設の皆で行くのが恒例だった。

 屋台では一つだけ好きなものを買って良かったから、皆で悩みながら選ぶのも楽しかったのだ。


「人が多いからはぐれるなよ」

 そわそわと周囲を見回すリリヤの背後からラウリが言った。

「――そういえば、ここには花火はあるんですか?」

 向こうの世界を思い出してリリヤは尋ねた。


「花火なら来月、新年の祭りで上がるな」

「冬の花火! いいですね」

「リリヤは花火が好きなのか?」

 ラウリは聞き返した。


「はい! 花火大会の日は施設の皆でバス……馬車に乗って出かけるんです。良く見える秘密の場所があって、そこから露店で買ったものを食べながら見るのが楽しくて」

「そうか。王宮から花火が良く見える。行事が多いから露店には行かれないが、今日は好きなだけ買っていいぞ」

「……ありがとうございます」

 もうそんなに欲しいものはないのだけれど。

 そう思ったが、ラウリの気遣いにリリヤは笑顔でお礼を言った。


「殿下は、こういう所に来たことはあるんですか?」

「いや、初めてだ」

 ラウリは周囲を見渡した。

「祭りなど興味がなかったが。なかなか賑やかなものだな」

「はい。活気があっていいですね」

「活気か。――そうだな、国が豊かな証だ」

 賑やかな祭りの風景を見つめてラウリは呟いた。



「リリヤ様!」

 呼ばれた声の方を見ると、露店にいるクラスメイトたちの姿が見えた。

 近づくと、皆で作った刺繍作品が並べられている。


「わあ、どれも素敵ですね」

「リリヤ様の紐飾りも、とても好評なんです」

 確かに、リリヤが作ったミサンガは半分以上減っているようだった。

「それは良かったです」

「リリヤが作ったものが売れたのか」

 リリヤの肩越しにラウリがテーブルの上を覗き込んだ。


「……え、王太子殿下!?」

 ラウリの存在に気づくとクラスメイトたちは慌て出した。

「ご、ごきげんうるわしゅう……」

「気がつがず申し訳ございません!」


「気づかれない方が良い。私がここにいる事は他言しないように」

 そう言うと、ラウリはリリヤの手を取った。

「行くぞ」

「は、はい」

 手を引かれ、リリヤはクラスメイトたちに会釈をするとその場を離れた。


「認識阻害の魔術は効いているようだな」

「はい。凄いですね」

 ラウリの言葉にリリヤは頷いた。


 当初は感謝祭へ、ラウリは王太子として行くつもりだった。

 けれど平民も多く集まる場所で何かあってはならないと、お忍びで行くことにしたのだ。

 そのため、王宮の魔術師たちがラウリに認識阻害の魔術をかけた。

 これによってラウリの印象を薄くすることができるのだ。


 言葉を交わしたり間近で見たりすれば認識できてしまうが、すれ違う程度ならば気づかれない。

 同じように認識阻害の魔術をかけたヘンリクと平服を着た騎士たちが護衛しているが、この魔術のおかげでラウリも感謝祭に来ることができたのだ。


「それで、欲しいものはあるか」

「ええと……」

 リリヤは露店を見渡した。

「あとで、お腹が空いたら何か食べたいです」

「そうか。では先に井戸へ向かうか」

「――はい」

 緊張した顔になったリリヤの手をラウリはぎゅっと握った。



 井戸へ向かう通路には大勢の人々が列を作っていた。

 その先には白い壁と、開かれた大きな扉が見える。

「あの扉の向こうに井戸があるんですね」

「何か感じるか」


「――いいえ……。人が多すぎて、分からないです」

 精霊の魔力を感じようと集中するが、人間の魔力も感じてしまいわかりにくい。

(こんなに沢山いて……分かるかな)

 今日の目的は、井戸の中に精霊の石があるのか確認することだ。

 もしもあるのに分からなかったら目的が果たせない。


 行列の最後に並び、少しずつ歩いてようやく扉の中に入った。

「……あ」

 リリヤは小さく声を上げた。


「どうした」

「感じます。洗礼の時と同じ気配を」

 前方から精霊の気配を感じる。

 気配は井戸へ近づくにつれて少しずつ大きくなっていった。


 井戸は、石のレンガを円柱に積まれていた。

 その上には水を汲み上げるための滑車と、その滑車を支える屋根付きの柱がある。

 見物客が多いため、立ち止まることはできず井戸の周りをぐるっと歩いて、一行はそのまま扉の外へと出ると人気の少ない場所へ向かった。


「井戸の中から、泉の精霊の気配を感じました」

 リリヤは言った。

「やはり井戸に石が沈んでいるということですか……」

 ヘンリクはラウリに向いた。


「井戸の石を回収しましょう」

「どうやって」

「今日なら井戸の側まで近づけますし、魔術師もいます」

「こんなに人目がある中で盗むのか」

「盗むとは人聞きが悪い。取り返すだけです」

「あの……教会の人に正直に言って、石を返してもらうよう頼めないのですか」

 言い争うラウリとヘンリクに、リリヤは尋ねた。


「――それは難しいな」

 ラウリが答えた。

「君と私への呪いの全容もまだ分かっていない。味方か分からない相手に正直に言うのは危険だ」

「そうなんですね」

「ではやはりもう一度井戸へ行って……」

「ヘンリク」

 ラウリはヘンリクを睨みつけた。


「余計な騒ぎを起こすな。石があることが確認出来た、今日はそれで十分だ」

「ですが」

「せっかくの祭りだ、市民の邪魔をするな。我々ももう一度祭りを見てこよう」

 リリヤの手を取るとラウリは歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ