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異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子  作者: 冬野月子
第3章

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05

 数日後。

 ラウリに昼食を誘われたリリヤは感謝祭のことを伝えた。


「バザーへ出品?」

 ラウリは眉をひそめた。

「はい、クラスメイトに頼まれまして……」

「それはどこの家の者だ。教会派か?」

「アマンダが言うには教会派だそうです」


「では断っておけ」

「……でも、バザーへの出品は参加した方がいいと母も言っていて……。それも貴族の役目だからと」

 リリヤはポケットからミサンガを取り出した。

「これを作ろうかと思いまして」


「何だ? この紐は」

「ミサンガといいます。刺繍はまだ上手く刺せないので、代わりに刺繍糸で編みました。向こうの世界でよく作ったんです」

 リリヤはミサンガをラウリに手渡した。

 四色の糸でV字模様になるよう編んだものだ。


「糸の組み合わせや編み方で、色々な模様を作れるんです」

「これはどう使うんだ?」

「手首や足首に巻きます。重ね付けしてもいいですよ」

「足首?」

「夏とか、サンダルと合わせると可愛いです」

 無造作にリリヤはスカートの裾をたくし上げた。

 すかさずラウリがリリヤの腕を掴む。


「何をしている」

「え? ……あ」

 この世界、特に貴族は足を見せるのがはしたないとされていることをリリヤは思い出した。


「膝上のスカートに合わせると可愛いって見せようかなと……」

「膝上?」

 ラウリの顔が険しくなった。

「君はそんなものを着ていたのか?」

「ええと、向こうではそれが普通で……」

「普通だと!?」


「殿下」

 控えていたヘンリクが口を開いた。

「全く異なる価値観を持つ他国でのことですから」

 そう言うと、ヘンリクはリリヤに向いた。

「リリヤ嬢は気にされないかもしれませんが、ここでは貴族が足を出すのは良くないことを忘れないようお願いいたします」


「……すみません」

 リリヤはそっとスカートを整えた。

(やってしまった……)

 足を出すのは平民など身分が低い者がすることだと、母親や侍女から何度か注意されている。


 最近は貴族令嬢らしい所作にも慣れたと思っていたのに。

 ミサンガを作っていた時に、向こうでのことを思い出していたからだろうか。


「ヘンリク。――見ていないだろうな」

 ラウリはじろとヘンリクを見た。

「ここからは見えておりません」

 そう答えて、ヘンリクはテーブルに置かれたミサンガを見た。


「バザーへの出品はした方がよろしいと思います。未来の王妃が参加することは国民からの印象も良いでしょうし」

「――そうだな」

「それから、感謝祭へも行かれるのが良いかと」

 ヘンリクは再びリリヤを見た。


「感謝祭は、大聖堂の奥にある井戸が特別に公開されます」

「井戸?」

「洗礼式に使用する聖水を採るための井戸です」


「聖水……」

「調査をしたところ、その井戸は二十年ほど前に一度枯れたという情報が入りました」

「二十年前……?」

「井戸の水はしばらくして復活しましたが、泉の石がなくなった時期と重なります」


「え、それって……」

「洗礼式でのリリヤ嬢の件と合わせると、井戸を復活させるために泉の石を使った可能性があります」

 リリヤを見つめてヘンリクは言った。


「じゃあ、感謝祭の時に井戸に石があるか確認すればいいんですね」

「はい。お願いいたします」

「ヘンリク。勝手に話を進めるな」

 不機嫌な声でラウリが言った。

「リリヤを危険に遭わせるようなことはしない」


「危険って……井戸を確認するだけですよ?」

「君は神子だと教会の連中に思われている。井戸になど近づいて、洗礼式の時のようにまた光ったらどうする」

 首を傾げたリリヤにラウリはそう言った。

「君を教会によこせと言い出すかもしれない」


「でも、井戸に精霊の石がある可能性があるなら確認しないと」

「それで本当に石があったとして、どうやって井戸から取り出す」

「魔術を使えば難しくありません」

 ヘンリクが答えた。


「教会にバレる。井戸だってまた枯れるだろう」

「殿下の命の方が大切です」

(ヘンリクさんって……殿下の事になると強気よね)

 普段は腰が低いが、ラウリの命に関わることにはたとえ本人相手でも強い態度で出る。

 それが忠臣というものなのだろうか。

(でも確かに、命がかかっていることだもの)


「ヘンリクさんの言う通り、殿下の命が一番大事です」

 ラウリの目を見つめてリリヤは言った。

「感謝祭の時に大聖堂の井戸を調べてきます」

「しかし」

「私にしか出来ないことですから」

 トン、とリリヤは自分の胸を叩いた。

「大丈夫です、頑張ります」


 精霊の魔力を感じられるのも、会話が出来るのもリリヤだけだ。

 そして精霊の石を見つけられるのもリリヤだけなのだから、自分が行かないとならない。

 それはラウリだって分かっているだろう。


「――私も同行する」

 しばらく考えて、ため息と共にラウリは言った。

「決して側を離れるな」

「はい」

 リリヤは頷いた。


  *****


「ありがとうございます」

 貴賓室を出て、馬車の待つ玄関へとリリヤを送りながらヘンリクは口を開いた。


「殿下にはご自身の身体を最優先していただきたいのですか。どうしてもリリヤ嬢を危険に晒したくないという気持ちが強くて……あ、いえ、リリヤ嬢を蔑ろにしていいということではなく」

「大丈夫です」

 リリヤはヘンリクを見上げると笑みを浮かべた。


「殿下は将来国王になる人ですから、最優先するのは当然です」

 リリヤの代わりに妃となる者なら他にもいる。

 けれど国王夫妻の唯一の子供であるラウリの代わりはいないのだ。


「そう言っていただけると助かります」

 ヘンリクは頭を下げた。

「もちろんリリヤ嬢もお守りいたします。精霊と接する事ができる唯一の方ですし、殿下が望む方ですから」


(殿下が望む……)

「……ありがとうございます」

  こそばゆさを感じながら、リリヤは笑みを返した。

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