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異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子  作者: 冬野月子
第3章

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03

 洗礼式は、神から与えられたという「聖水」と呼ばれる水を飲むことで、神の信徒となる儀式だ。


(信仰心とかないんだけど、信徒になっていいのかな)

 そう疑問に思い、リリヤは弟やラウリに尋ねてみたが、二人には「形だけだから気にしなくていい」と同じようなことを返された。


 実際に神を信仰しているかよりも、信徒となり教会の教義を守ることを表明することが大事なのだと。

「そう言う神官どもが身綺麗かというとかなり怪しいがな」とラウリは笑いながら言っていた。


 白いローブに着替え終えると洗礼の間へ向かう。

 中には大司祭と五人の神官、そして家族やラウリたちが待っていた。


(あ……)

 一歩室内に入ると、空気が他と異なることにリリヤは気づいた。

(これって……精霊?)

 何度か精霊に触れた時と同じような気配がする。


(もしかして、いるの?)

 心の中で精霊へ呼びかけたが反応はなかった。


「リリヤ・アウッティ嬢。祭壇の前へ」

 大司祭に呼ばれて祭壇の前に立つ。

 祭壇には水が入った銀の水差しと、空の杯が置かれている。


 リリヤは祭壇を見上げた。

 壁には大きな星型の紋章が描かれた旗が架けられている。

 五つの角は世界を構成する水・火・風・土の四大要素、そして一番上の角は神の住む天を表しているという。


「リリヤ・アウッティ。汝は神のみ前において、その意思に従い、真心を持って神と人々に尽くすと誓うか」

 大司祭の声が聞こえた。


「――はい、誓います」

「神よ、この新たな信徒を受け入れ、聖なる水を持って貴方の加護を与えることを祈ります」

 大司祭は水差しを手に取った。

 反対側の祭壇に立っていた司祭が杯を取るとリリヤに手渡した。


 リリヤが両手で受け取った杯の中に水が注がれる。

 より魔力の気配が強くなった。

(あれ、この水ってもしかして……)

 リリヤは杯をあおると中身を一気に飲み干した。


 次の瞬間、リリヤの身体が強い光に包まれた。


「何だ!?」

「これは一体……!」

 司祭たちが動揺する。

「リリヤ!」

 ラウリが祭壇へ駆け寄った。

「大丈夫か!」

「……は……い。目が眩んで……」


「大司祭。今の光は何だ」

 ふらつくリリヤの体を抱き止めると、ラウリは大司祭を睨みつけた。

「は……私も初めて見ることで……。聖水を飲んで光るなど聞いたこともなく……」

 戸惑いながら大司祭は答えた。


「……まさか……神子様では」

 司祭の一人が呟いた。

「神子!?」

「神に特別な力を与えられたという……?」

「ご令嬢は規格外の魔力を持っていると……」


「――面倒なことになったな」

 ざわつく司祭たちにラウリは小さく舌打ちした。


  *****


 洗礼式が終わると、引き留めようとする大司祭たちに「これから王宮で用がある」と告げて、ラウリは帰路についた。


「気分は悪くないか」

 馬車が教会の外へ出ると、ラウリはリリヤに尋ねた。

「はい」

「あの光はなんだったのだ」


「分かりませんけれど……」

 首を振ると、リリヤはラウリを見た。

「あの聖水は、おそらく離宮にいる、泉の精霊の水だと思います」


「何だと」

「洗礼の間に入った時に精霊の気配を感じました。その気配は杯に水が注がれた時に強くなって……。飲んだ時に、前に泉の水を口に含んだ時と同じ感覚を覚えました」


「私が泉の水を飲んだ時は何も感じなかったが。リリヤだけが感じるのなら、それは精霊の水なのだろう」

 思案しながらラウリは言った。

「あの泉と同じものなのか、他の精霊の水なのかまでは分からないか」

「はい……他の水を口にしたことがないので」

「聖水については調べさせよう」

 そう言って、ラウリはため息をついた。


「しかし、あの場でリリヤが聖水に反応してしまったのはまずかったな」

「まずい?」

「君が『神子』だと気づかれてしまった」

 司祭たちが騒いでいたことをリリヤは思い出した。


「教会にとって『神子』は神に選ばれた特別な存在だ。連中は君を担ぎ上げ利用しようとするだろう。今後教会や教会派の貴族からの招待や接触があったら必ず教えてくれ」

「はい」


「――慣例など無視して、すぐにでも婚約しようか」

 ラウリは腰を上げると、向かいに座るリリヤの隣へと移動した。

(ひゃあ、近い……!)

 肩と肩が触れ合う。

 大きな手がリリヤの手を握りしめた。


「婚約すれば君の警備も強化できるし、教会も手は出せまい」

「そ……うですか」

「何より婚約すれば、こういうことをしても咎められないからな」

 ラウリは握ったリリヤの手を自分へと引き寄せた。

 口元へと持っていくと、甲に口付ける。

 ぶわっとリリヤの顔が赤く染まった。


「ヘンリクが君の弟に怒られたそうだ」

「……え?」

「婚約者でもないのに、君を連れ回しすぎると」


「……マティアスがそんなことを……」

 初めて聞く話にリリヤは目を見開いた。

「え、と。すみません失礼なことを……」

「まあ、事実だ。君の弟は姉思いだな」

「……はい」

 リリヤは頷いた。

 あの優しい弟が、直接ではないとはいえ、王太子に怒るなんて。

(ううん、優しいから怒るんだ)


「君は、迷惑か?」

 マティアスの優しさにじんとしていると、ラウリの声が聞こえた。

「え? いいえ……そんなことは、ありません」

「本当か?」


(あ……またこの目だ)

 二回目にラウリと会った時に「こんな男の妃になるなど嫌だろう」と言われた時に見せた、揺らいだ眼差し。


「はい。迷惑だなんて全く思いません」

 ラウリを見つめ返してリリヤは答えた。

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