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異世界育ちの侯爵令嬢と呪いをかけられた完璧王子  作者: 冬野月子
第2章

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07

「リリヤ様! 見ましたわ、夜会で王太子殿下ととても仲良くしていらっしゃいましたわね」

「ほぼ婚約が決まりだと、父が言っていましたけれど本当ですの?」

 夏休みが終わり、教室に入るなりリリヤは女生徒たちに囲まれた。


「え? あ……ええと、どうなんでしょう」

 リリヤは首を傾げた。

 入学してすぐの頃、リリヤを王太子の婚約者にと国王から要請があったと父親から聞かされた。

 ラウリも含め、周囲はそう考えているようだが、まだ正式には何も決まっていないのだ。


「でも夜会では二回踊っていましたわよね」

「その後もご一緒だったでしょう」

「国王陛下からも直接お言葉をもらっていましたわ」

「あのアクセサリーも王太子殿下から贈られたとの噂は本当ですの?」

「え、ええと、まあ……」

 それらは事実だけれど、どう答えたらいいのか分からなくてリリヤは曖昧に笑みを浮かべた。


「しかも精霊と一緒に王太子殿下の目を治したと聞きましたわ」

 一人の女生徒がずいとリリヤの前に迫った。

「本当に良かったと、兄も喜んでおりましたの」


「兄?」

「王宮勤めの魔術師ですの。王太子殿下の呪いを解く手掛かりが見つかったと、皆リリヤ様に感謝しているそうですわ」

「……そうなんですか……」

 目を輝かせて自分を見つめる女生徒に、リリヤは顔を引き攣らせた。


(え……どこまであの時のことが知れ渡っているの!?)

 ラウリの視力が回復したことは、夜会で披露したいからそれまでは黙っているようにとは言われた。

 けれどそれ以外は特に何も口止めされていなかったように思う。

(……せめて殿下に口移しで水を飲ませたことだけは知られていませんように)

 リリヤは心からそう願った。



 今日は午前の授業だけで終わる。

「リリヤ嬢」

 帰る準備をしていると、ヘンリクの声が聞こえた。

「はい」

「殿下がお呼びです」

「……はい」

 周囲からの熱い視線を感じながらリリヤは立ち上がった。


「姉上。僕は先に帰って大丈夫?」

 教室から出てヘンリクと共に行こうとすると、マティアスが声を掛けてきた。

「リリヤ嬢はこちらで責任を持ってお送りしますので」

 ヘンリクが答えた。

「よろしくお願いします」

 軽く頭を下げると、マティアスは帰っていった。


「本日は、ルスコ教授が先日の件でお話を聞きたいとのことです」

 マティアスを見送り、歩き出すとヘンリクは言った。

「ああ、私の魔術が特別とかいう……」

(神子、だっけ)

 リリヤは離宮で言われたことを思い出した。

 人間の魔力とは異なる、自然や精霊が持つ魔力。

 その両方の魔力をリリヤが持っているのではないかと。


(魔力って……そもそも何なんだろ)

 疑問におもいながら、リリヤは貴賓室へ向かった。



「殿下。リリヤ嬢をお連れしました」

「ああ」

 貴賓室にはラウリ一人が待っていた。


「教授に会う前に、先に昼食にしよう」

「……はい」

 リリヤがソファへ腰を下ろすと、ヘンリクは既に用意してあった料理を並べていった。


「久しぶりの学園はどうだ」

 食べ始めるとラウリが尋ねた。

「……夜会の時のことを色々と聞かれました」

「色々?」

「殿下との関係とか……」

「それで、何と答えた」

「……特に何も……」


「何も?」

 ラウリは眉をひそめた。

「関係といわれても、よく分からなくて……」

「――そうか」

 ラウリは息を吐いた。


(怒ってる?)

 不満げなラウリの声と表情に困惑するが、分からないものは分からない。

(言わなくても婚約者候補なのは皆知ってるだろうし……それ以外にはないもの)

 それきりラウリは無言になったので、リリヤも黙って食事を取った。


  *****


 食後のお茶を飲んでいると、ルスコ教授と先日の離宮で一緒だった魔術師の一人がやってきた。


「石に音を保存するとは、面白いことを思いついたな」

 教授は手のひらに隠れるほどの大きさの、細長い水晶をテーブルの上に置いた。

「これに魔力を注いでみてくれ」


「……はい」

 リリヤは水晶を手に取った。

 そっと魔力を注ぎ込むと、水晶からバイオリンの音が聞こえてきた。

「え……音楽!? どうやって?」

 魔力を込めることのできる人間の声しか保存できないと聞いていたのに。


「魔力の使い方を工夫することで、声以外にも保存できるようになったのだ。これは魔力を込めながら演奏している」

 教授が言った。

「魔術の技術向上にも役立つから、授業でも取り入れてみようと考えている」

「そうなんですか」


「いい訓練になる。この石に音を保存するというのは、君がいた世界の技術だそうだな」

 教授はリリヤに尋ねた。

「はい」

「他にもこちらで使えそうな技術があれば教えてほしい」

「使えそうな……」

 そう言われても、リリヤは魔術のことをまだよく分かっていないし、向こうの科学技術といったものも正直よく分からない。


「思いついたらでいい」

 眉間に皺を寄せて悩むリリヤに苦笑すると、教授は懐から何かを取り出した。

「では、次にこの石を握ってくれ。魔力は注がなくていい」

「……はい」

 差し出されたのは、手のひらに乗るくらいの大きさで、いくつもの淡い色が混ざった丸い石だった。


(綺麗……オパールみたい)

 そっと石を握りしめると、指の隙間から光が漏れ出した。

「光ってる?」

「何か感じるかね」

「……温かいです。あと魔力も感じます」

 石ならばひんやりしているものなのに、じんわりとした温かさと魔力が伝わってくるのを感じる。

「ほう、そうか」

 教授は満足そうに頷いた。


「ルスコ教授。その石は何だ」

 ラウリが尋ねた。

「これはこの学園に長く保管されている石で、いわれは誰も知りません」

 教授はラウリに向いた。

「ですが、離宮での件で調査をする内に、これは精霊の力を宿す石ではないかと思い至りまして」

「精霊の力を? ……泉の精が奪われたという石か」

「はい。同様の石は王宮や教会にも幾つか保存されておりまして。固くて加工が出来ず、装飾品にはならないのですが、貴重な宝石なのだろうと思われておりましたが……」

 教授はリリヤの手元へ視線を送った。


「……この光ったり温かいのも精霊の石だからですか」

「いや、それは君が『神子』だからだろう」

 リリヤの問いに、教授は首を振った。

「これまで誰も、その石を光らせたり温度を感じたりした者はいなかった」

「え……」


「君、試しに持ってみてくれ」

 教授はヘンリクを見た。

「はい」

 リリヤが石を手渡すと、ヘンリクはそれを握りしめた。

「……何も感じません。普通の石と同じですね」

 そうヘンリクが言うと、ふいに石がヘンリクの手から飛び出した。


「あっ」

 石から光が放たれる。

 光はまるで蝶のように二枚の羽の形となり、リリヤの肩へふわりと舞い降りた。


「え……」

『うふふ。久しぶりに心地の良い魔力を感じたわ』

 耳元で子供のような声が聞こえた。



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