第2話:救済計画
佐藤ハルトは、アパートの狭い部屋でノートパソコンを前に興奮していた。昨日、StreamStarでの配信で初めて視聴者数が20人に達し、コメント欄が50件を超えた。登録者も5人増え、合計17人。まだまだ「史上最低ライバー」の称号は揺るがないが、初めて感じた「見られている」実感が彼の心を熱くしていた。
「よし、今日もやるぞ!」ハルトは、バイト仲間のミナミのアドバイスを思い出す。
ミナミ「視聴者参加型の企画やったら?『みんなで俺のダメ配信を救う企画』とか!」
その言葉にヒントを得て、ハルトは新たな配信企画を思いついた。タイトルは「史上最低ライバーを救え!視聴者リクエストで俺を改造計画」
視聴者にハルトの配信を「改善」するアイデアを募集し、実際に試すというものだ。ゲーム実況の課題、トークのテーマ、果てはハルトの見た目まで、視聴者が「ダメな部分」を指摘し、改善案を提案する。ハルトはそれを配信中に実行し、視聴者と一緒に成長を目指す企画だ。
配信開始前、ハルトはサムネイルを自作した。100円ショップで買ったマーカーで書いた「救ってくれ!」の文字と、わざと下手くそな自画像。
ダサさが逆に目を引くデザインだ。
配信タイトルは「史上最低を救え!視聴者と一緒に俺を変えるぜ!」と設定し、StreamStarの告知欄に「みんなのアイデアで俺の配信をパワーアップ!コメントでリクエスト待ってる!」と書き込んだ。
夜8時、配信がスタート。ハルトはいつものボサボサ髪に、ヨレヨレのTシャツ姿でカメラの前に座った。
「よお、みんな!史上最低ライバーの佐藤ハルトだ!今日はさ、みんなに俺のダメ配信を救ってもらう企画!ゲーム、トーク、見た目、なんでもいいから『ここ直せ!』ってコメントしてよ。俺、全部試すから!」
開始5分で視聴者数は15人。
コメント欄が動き始めた。
「背景がゴミ屋敷すぎw片付けろ!」「トーク噛みすぎ!滑舌練習しろ!」「そのTシャツ、ダサすぎるwww」
ハルトは笑いながら反応する。
ハルト「うわ、めっちゃ辛辣!でもさ、ゴミ屋敷は…確かにその通りだな!よし、まず部屋の片付けから行くか!」
ハルトはカメラを手に持ち、部屋の散乱したゴミを映した。
コンビニ弁当の容器、ペットボトル、脱ぎ散らかした服。視聴者からのコメントが加速する。
「マジで汚ねえw」「これ片付けたら視聴者100人いくぞ!」
ハルトは勢いに乗り、配信中にゴミ袋を手に片付けを始めた。
ハルト「よっしゃ、みんなのコメント見ながら片付けるぞ!ほら、この弁当の容器、3日前のだ!…やばいな、俺!」
視聴者数は20人、30人と増え、コメント欄は「リアルすぎw」「片付け配信、意外と面白い!」と賑わう。
1時間後、部屋は見違えるほどスッキリ。ハルトは汗だくでカメラに戻った。
「どうだ、みんな!ちょっとマシになっただろ?次、何やろうか?」
コメント欄に新たなリクエスト。
「ゲーム実況、もっとテンション上げて!」「ハルトの声、もっとハッキリ喋って!」
ハルトは頷き、定番ゲーム「バトルクロニクル」を起動。
ハルト「よし、テンションMAXでいくぞ!でも、俺の下手さは変わんねえから、覚悟しろよ!」
案の定、操作ミスで即死。だが、視聴者の「その死に方、芸術点高いw」「次、頑張れ!」というコメントに励まされ、ハルトは笑顔で続ける。
視聴者数は最大40人に達し、コメントは100件を超えた。配信終了時、登録者は25人増え、合計42人に。ハルトは信じられない気持ちで画面を見つめた。
配信後、ハルトはミナミに興奮気味にLINEを送った。
ハルト「ミナミ!今日、視聴者40人!登録者25人も増えた!企画、マジで当たったよ!」
ミナミからの返信は即座だった。
ミナミ「やば!ハルト、めっちゃいいじゃん!ほら、言ったでしょ、ダメさをネタにしたらウケるって!次は何やるの?」
ハルト「次か…視聴者のリクエストで、トーク練習と見た目改善かな。ミナミ、週末の買い物、ほんと頼むな!」
ミナミ「任せな!ハルト、絶対イケメンに変身させるから!」
翌日、バイト先のコンビニでミナミと話しながら、ハルトは次の配信のアイデアを膨らませた。
ハルト「視聴者リクエスト、めっちゃ楽しかったんだよね。次はさ、もっとインタラクティブにしたい。例えば、視聴者が俺にリアルタイムで指示出すゲーム配信とかどう?」
ミナミ「いいね!それなら、視聴者がハルトのキャラ動かすみたいな感じ?失敗しても『視聴者のせい』ってネタにできるし!」
ハルト「天才かよ、ミナミ!」
その時、店内に客が入ってきた。黒いキャップにサングラス、派手なジャケットの男。ハルトは彼を一瞥したが、どこかで見た気がした。男は飲み物を手にレジに来て、ハルトに話しかけた。
???「お前、佐藤ハルトだろ?StreamStarの『史上最低ライバー』」
ハルトはドキッとした。
ハルト「え、なんで知って…?」
男はニヤリと笑い、名刺を渡した。
KAI「俺、StreamStarで配信してる『KAI』。登録者1万人。昨日のお前の配信、ちょっとバズってたぞ。まぁ、所詮『最低』のバズだけどな」
ハルトは名刺を見つめる。
KAIは中堅ライバーで、スタイリッシュなトークと高難度ゲームの攻略配信で人気だ。ハルトの「史上最低」とは真逆の存在。KAIは続ける。
KAI「お前の企画、悪くねえけど、所詮一発屋だろ。この世界、才能と努力がなきゃすぐ消えるぜ。ま、頑張れよ、雑魚」
KAIは飲み物を払い、去っていった。ハルトは悔しさと闘志が混じる感情に震えた。
ハルト「雑魚、か…見てろよ、絶対追い越してやる」
その夜、ハルトはKAIの言葉を胸に、新たな配信を始めた。タイトルは「視聴者と一緒にKAIを倒す!リアルタイム指示でバトルクロニクル攻略!」
企画はシンプルだ。視聴者がコメントでハルトのキャラの動きを指示し、協力してゲームのボスを倒す。
ハルトは「KAIに雑魚って言われたから、みんなで俺を強くしてくれ!」と煽り、視聴者を巻き込んだ。
配信開始。視聴者数はすぐに50人を超え、コメント欄は「KAIってあのKAI?w」「ハルト、絶対勝て!」「右!右に避けろ!」
ハルトは視聴者の指示に従い、キャラを動かす。
ミスも多かったが、視聴者の「次、左!」「回復使え!」という指示で、徐々にボスにダメージを与えていく。
ハルト「よっしゃ、みんな、めっちゃいいぞ!ほら、ボスのHP減ってきた!」
2時間後、奇跡的にボスを撃破。画面に「VICTORY」が表示され、コメント欄は「やった!」「ハルト、すげえ!」「KAI、見たか!?」と大盛り上がり。視聴者数は最大70人、登録者はさらに30人増え、72人に。ハルトは汗と笑顔で叫んだ。
ハルト「みんな、ありがとう!これ、俺一人じゃ絶対無理だった!次はKAIの本物の配信に挑むぞ!」
配信後、ハルトはノートに新たな目標を書き込んだ。「KAIを越える。登録者1万人を目指す」
だが、KAIの言葉が頭をよぎる。
「才能と努力がなきゃ消える」
ハルトは自分の限界を知っていた。トークは拙い、ゲームは下手、見た目も冴えない。それでも、視聴者のコメントが、彼を前に押し出していた。
週末、ミナミと約束の買い物へ。
ミナミはハルトを服屋に連れ込み、シンプルだが清潔感のあるシャツとジーンズを選んだ。
ミナミ「ほら、ハルト、これ着て配信したら、絶対印象変わるよ!」
試着室から出てきたハルトは、鏡を見て驚いた。
ハルト「うわ、なんか…普通にマシじゃん」
ミナミ「マシってw もっと自信持てよ!次はトーク練習な!私、付き合ってやるから!」
ハルトはミナミに感謝しながら、胸に決意を刻んだ。
KAIを越え、世界一のライバーになる。その道は遠いが、視聴者とミナミがいる限り、諦める理由はなかった。