#20 モブから見た田中
僕は三島茂雄。なんてことはない。ただの一般男子高校生だ。突然だが、僕は水泳部に所属していてある先輩のことが気になっている。その先輩というのは、常にストイックで綺麗で大会でも結果を残している田中真澄という名の先輩だ。田中先輩は、水泳部のエースだ。いや、エースという言葉だけでは足りない。プールサイドに立つ彼女は、常に背筋が伸びていて、無駄な動き一つない。まるで、鍛え上げられた彫刻のようだ。
放課後になると、僕たち水泳部の面々はまず、プールに入る前の準備運動をする。体の軸を鍛える運動や、筋肉をほぐすストレッチ。みんな、きつい顔をしながらも必死に声を出す。でも、田中先輩は違う。彼女はどんな動きでも、息一つ乱さず、まるで絵画のように完璧な姿勢でこなす。特に、体を支える運動の時の彼女は、一本の鉄の棒が入っているんじゃないかってくらい微動だにしない。その集中力は、まるで周りの声など全く聞こえていないようだった。
陸上での準備運動で汗を流した後、ようやくプールに入る。冷たい水が火照った体に心地いい。軽く体を慣らした後、いよいよ練習が本格的に始まる。
今日のメインは、速く泳ぐための練習だ。みんなは苦しそうな顔で、最後の力を振り絞ってコースを往復する。けれど、田中先輩は違う。まるで疲れなど感じていないかのように泳いでいる。
「はっ…はっ…」
規則正しい呼吸音だけが、プールの水音に混じって聞こえてくる。腕の動かし方、足の蹴り方、体の向き。どれを取っても完璧だ。特に、彼女の足の動きは、まるでイルカが水中を滑るようにしなやかで、一切の抵抗を感じさせない。水と一体になっているかのようにさえ思える。
「いつも思いますけど、田中先輩ってすごいっすね」
隣で練習していた同級生の遠藤が、感嘆したように呟いた。
「ああ。大会でもいつも結果出してるもんな。すごい先輩だよ」
僕も思わず同意する。県大会はもちろん、もっと大きな大会でも上位に入賞していると聞く。練習を見ているだけでも、それが当然だと思えるほどだ。
僕たちは、たまに先輩の泳ぎに見惚れてしまうことがある。その度に、自分たちの未熟さを痛感するけれど、それと同時に「あんな風になりたい」という憧れの気持ちが湧いてくる。
練習が終わって体を休める時間も、田中先輩は黙々と体を伸ばしている。体の隅々まで伸ばしきっているのがわかる、しなやかな動作。誰かと喋るわけでもなく、ただ自分の体と向き合っている。彼女の指先までピンと伸びた姿勢や、常に背筋が伸びた立ち姿は、プールサイドでも目を引く。そのストイックな姿は、僕たち後輩にとっては、まさに「理想の先輩」だ。
「おい、三島、遠藤、早く上がるぞ」
顧問の先生の声が響き、僕たちはプールから上がった。ロッカールームで着替えていると、田中先輩が僕らの前を通り過ぎた。
「お疲れ様でした!」
僕と遠藤が声を揃えて言うと、田中先輩は
「お疲れ様。二人ともしっかり泳げててよかったよ!」
と返事をして、ロッカールームの奥へと消えていった。そんな言葉をかけてくれる先輩のその背中は、今日もやっぱり、僕にとっては眩しく、そして少しだけ遠い存在だった。
完璧で、ストイックで、いつもシャキッとしている田中先輩。
けれど、いつも疑問に思うことがある。田中先輩の友達だという鈴木先輩が見学に来ると、毎回少しだけタイムが落ちる。もしかして、鈴木先輩は田中先輩にとって何かプレッシャーでも与える存在なのだろうか?
そんなことを思っていると、問題の鈴木先輩が外で待っていたようで、田中先輩は鈴木先輩を見るなりそそくさとそっちに行ってしまった。
「お疲れ。いつも通り綺麗だったな。俺には泳ぎとかよくわかんないけど」
鈴木先輩がそう話す。田中先輩はそれに対して、
「そうですか。そう言ってもらえて何よりです。それよりも、なんで見ていたならそう言わなかったんですか?」
と学級委員長らしい態度で返している。たまに鈴木先輩に対して委員長っぽく返しているのだが、すぐに話し方が変わっているので何かおかしく感じる。
「え、言わなくてもよくない?別に見てるだけだし」
「いえ、言ってほしいんですけど。できれば前日ぐらいから。そうしたらもっと...いえ、なんでもありません。それよりも、早く帰りましょう?」
田中先輩は笑っているが、かなり威圧感を感じる。若干イライラしているようにも聞こえる声だ。ただ、鈴木先輩に対してはいつもこうなので、鈴木先輩は田中先輩に嫌われている、もしくは下に見られているのかもしれない。そこらへんはすごく面白そうだけれど、首を突っ込むのも野暮というものだろう。そう思い、僕はこれ以上は聞かないですぐに帰ることにした。
背を向けた時に少しだけ、
「お前はいつもそんな感じだな~。まあいいけど。モテなそうだよな、そういうところ」
と鈴木先輩が冗談めかして言った瞬間、彼の悲鳴が聞こえた。
水泳部の描写はほぼGeminiに書いてもらいました。あと、一回だけ登場させる予定のモブなので、彼の物語ではなく田中の物語としました。