第四章 冬 — 再会
1704年の冬、ヴェネツィアは例年にも増して冷たい霧に包まれていた。運河は時折薄い氷で覆われ、サン・マルコ広場のカフェでは、新しく流行し始めた「チョコラータ・カルダ(ホットチョコレート)」を求める人々で賑わっていた。貴族たちは「タバロ・エ・バウタ」と呼ばれる黒いマントと白い仮面の装いで街を歩き、カーニバルに先立つ冬の社交シーズンを楽しんでいた。
サビーノが去ってから、ピエタは以前ほど輝いて見えなくなった。レオナルドは毎日演奏し、教えていたが、その音色には何か大切なものが欠けているように感じられた。彼の装いも少し質素になり、以前のような小さな装飾品も身につけなくなった。ただポケットには常にサビーノのヴィオラの弦を入れ、それを指先でなぞる仕草が新たな癖となっていた。
12月に入り、ピエタではクリスマスのための特別な音楽会の準備が進められていた。「Gloria in excelsis Deo(いと高きところには栄光、神にあれ)」と題されたこの演奏会は、毎年恒例の行事で、ピエタの少年たちが一年の成果を披露する機会だった。レオナルドはソロのヴァイオリン協奏曲を演奏することになっていた。それはヴィヴァルディが彼のために特別に作曲した「冬」の協奏曲だった。
冬至の日、聖ルチア教会でのヴェスペロ(晩課)の後、レオナルドは静かに礼拝堂に戻った。外は雪が降り始め、窓ガラスに柔らかな結晶が付着していた。レオナルドは教会のランプの下で、明日の演奏のための最後の調整をしていた。彼は「冬」と題された新しい協奏曲の難しいパッセージに取り組んでいた。
彼の服装は、冬の寒さを考慮して少し厚手の紺色のウール地のブリーチェスに白いシャツ、その上に黒のウールのベストという装いだった。髪は簡素に後ろで一つに結び、ポケットには聖マルコのメダルと、もう一つの大切な「宝物」—サビーノのヴィオラの弦を入れていた。
彼の弓が弦を走る音だけが静寂を破る時、どこかで聞き覚えのあるヴィオラの音色が聞こえてきた。最初、レオナルドはそれを自分の想像の産物だと思った。二ヶ月間、彼は毎晩サビーノの演奏を夢に見ていたのだから。しかし音色は続き、明らかに実在のものだった。
心臓が早鐘を打つのを感じながら、レオナルドは音の方向へ走った。彼の靴音がマーブル模様の床に響き、髪を結んだリボンが風のように彼の後ろになびいた。礼拝堂の扉を開けると、そこには二ヶ月ぶりのサビーノが立っていた。
彼はより大人びた表情になっていた。貴族の館での生活は彼に新たな洗練をもたらしていた。彼の服装は、当時の流行を取り入れたものだった。深緑色のベルベット地のブリーチェスに、細かな刺繍が施された白いシャツ、そして黒のブロケード地のベストという優雅な装いだった。髪は少し長めに伸び、当時の貴族の若者たちの間で流行していた「a la grecque(ギリシャ風)」のスタイル—緩やかな波を作り、後ろで細いリボンで結ぶ—に整えられていた。
彼のベストのポケットには、レオナルドのヴァイオリンの弦が大切に収められていた。その緑の瞳は以前と変わらず、レオナルドを見つめるとき友情と深い感情に満ちていた。そして何より、彼の手にはヴィオラがあった。
「戻ってきたんだね」
レオナルドは信じられない思いで言った。彼の声は震え、長い睫毛に涙が光った。
「約束したでしょう」
サビーノは微笑んだ。その笑顔には新たな自信が宿っていた。彼はゆっくりとレオナルドに近づき、まるで夢から覚めるのが怖いかのように優しく彼の肩に触れた。
「もう二度と離れません」
「でも、伯爵は?」
「伯爵はピエタとの契約を結んだんです」
サビーノは嬉しそうに説明した。
「私はここで教えながら、彼の館でも演奏することになります。最高の教育を受けて、それを次の世代に伝えるんです」
彼は小さなため息をついた。
「あなたなしでは、どんな音楽も虚しかった」
レオナルドは言葉ではなく行動で応えた。彼はサビーノを強く抱きしめ、その温もりを感じた。二ヶ月の別れは、彼らが思っていた以上に辛いものだった。再会の喜びはそれを埋め合わせるかのように、二人の胸に溢れていた。
「伯爵はそれを許してくれたの?」
レオナルドは不思議そうに尋ねた。
「はい」
サビーノは頷いた。
「最初は難色を示していましたが、私の演奏が情熱を失っていると感じたようです。そして、私の演奏に影響を与えている『何か』がピエタにあることを理解されたんです」
彼は少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「私は正直に話しました。心からの音楽を奏でるためには、あなたの存在が必要だと」
レオナルドは感動でサビーノの言葉に返す言葉が見つからなかった。
「それで、どんな取り決めになったの?」
彼はついに尋ねた。
「週に三日はピエタで過ごし、残りは伯爵の館で。特別な演奏会の際には、どちらかの予定を優先させることもあります」
サビーノは説明し、嬉しそうに付け加えた。
「そして最も良いことは、伯爵が私たちの二重奏に興味を持ってくれたこと。彼の館での演奏会に、あなたを招待したいそうです」
この知らせにレオナルドの顔が輝いた。それは単なる再会を超えた、彼らの音楽と関係の公式な認知だった。
「素晴らしい!」
彼は声を上げた。
二人は言葉以上のものを交わすために、それぞれの楽器を手に取った。この瞬間のために、何ヶ月もの間練習してきたかのように、二人の演奏は完璧に調和した。ヴァイオリンとヴィオラの音色が礼拝堂に響き渡るとき、それはまるで春の訪れを告げるようだった。冬の厳しさの中にも、新たな始まりの希望を感じさせる音色だった。
彼らの演奏に惹かれてか、ヴィヴァルディが静かに扉を開け、二人の姿を見つめていた。彼の表情には喜びと、何かを悟ったような微笑みが浮かんでいた。
「サビーノが戻ってきたようだね」
彼は穏やかに言った。
「おかげで、レオナルドの音楽に命が吹き込まれた」
彼は二人に近づき、その肩に手を置いた。
「明日のクリスマスコンサートで、二人で演奏してほしい」
彼の目は期待に輝いていた。
「私の新作を」
レオナルドとサビーノは喜びに満ちた顔で見つめ合った。再会の喜びに加え、共演の機会を得たことは、彼らにとって最高のクリスマスプレゼントだった。
「光栄です」
サビーノは深々と頭を下げた。
「準備はできています」
レオナルドも付け加えた。
「僕たちはずっとこの日のために練習してきたようなものですから」
ヴィヴァルディは満足げに頷き、二人に新しい譜面を渡した。それは「聖なる友情のための二重奏曲」と題された作品で、まだインクの乾かない新鮮な筆跡が踊っていた。
「今夜練習して、明日演奏してほしい」
彼は微笑んだ。
「君たちならできる」
ヴィヴァルディが去った後、二人は新しい曲を熱心に練習し始めた。それは技術的には難しい曲だったが、彼らの心はすぐに曲の精神を理解した。二つの魂が互いを見つめ、支え合い、高め合うという物語が、音符の一つひとつに込められていた。
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クリスマスイブの夜、聖ルチア教会はヴェネツィアの最高の音楽愛好家たちで満ちていた。雪の静けさの中、教会の内部はろうそくの光で温かく照らされ、入念に飾られた松の枝の香りが漂っていた。この特別な夜、参列者たちは孤児院からやってくる音楽家たちの姿をより良く見ることができるよう、聖歌隊席の配置が少し変更されていた。
ピエタの少年たちは特別な衣装に身を包んでいた。黒のブリーチェスに白いシャツ、そして金色の刺繍が施された軽い青いベストという装いだった。彼らの髪型は「a la cour(宮廷風)」と呼ばれる特別なスタイル—整然と後ろで結び、小さな黒いリボンで飾る—に整えられていた。
クリスマスのコンサートでは、レオナルドとサビーノは再び二重奏を演奏した。ヴィヴァルディが二人のために特別に作曲した「四季の友情」という曲だった。春の出会い、夏の調和、秋の別れ、そして冬の再会—二人の物語を音楽で表現した作品だった。演奏中、二人の指先は時折触れ合い、その瞬間に生まれる音色は特別な輝きを持っていた。
二人の服装は共に黒と白を基調としていたが、サビーノのベストは緑、レオナルドのベストは青という色の違いがあった。彼らのポケットには、互いの楽器の弦が大切に収められ、その証は多くの観客の目には止まらなかったが、知る者にとっては二人の特別な絆の象徴だった。
演奏が終わると、会場は静寂に包まれた後、惜しみない拍手が沸き起こった。中には涙を流す聴衆もいた。二人の音楽は、純粋な友情と愛の力を証明するものだった。その晩、レオナルドとサビーノは数多くの賞賛の言葉を受け、彼らの名声はさらに高まった。
モチェニーゴ伯爵も演奏会に出席しており、彼の顔には満足の表情が浮かんでいた。彼はヴィヴァルディと談笑し、サビーノの才能を共に育てる計画を話し合っていた。
夜遅く、皆が眠りについた頃、二人は秘密裏にピエタの屋上に忍び出た。満天の星空の下、ヴェネツィアの冬の町並みが静かに広がっていた。遠くにはサン・マルコのカンパニレ(鐘楼)が月明かりに浮かび上がり、運河は凍てつく寒さの中で銀色に輝いていた。二人は肩を寄せ合って寒さを防ぎながら、未来について語り合った。
「これからどうなるんだろう?」
レオナルドは囁くように尋ねた。彼の頬は冷たい空気で紅潮し、吐く息が白い霧となって消えていった。
サビーノは温かな微笑みを浮かべ、レオナルドの凍えた指を自分の手で包んだ。
「わかりません。でも一つだけ確かなことがあります」
「何?」
「私たちはいつも共にいること。音楽の中で、そして心の中で」
彼はレオナルドのポケットのヴィオラの弦に優しく触れた。
「この絆は、どんな冬も乗り越えられる」
彼は真剣な眼差しでレオナルドを見つめた。その緑の瞳には、決意と愛が輝いていた。
「離れていた間、多くのことを考えました。私たちの感情が『何』なのか、それが『許されるもの』なのか……」
彼は慎重に言葉を選んでいた。
「そして気づいたんです。神が私たちに与えてくださったこの絆は、罪ではなく祝福なのだと。私たちの音楽が美しいように、私たちの心の結びつきも美しいのです」
レオナルドは深く感動し、サビーノの手をさらに強く握った。
「僕もそう感じている」
彼は静かに言った。
「僕たちの音楽が一つになるように、僕たちの魂も一つ。それは神の摂理なんだ」
サビーノは微笑み、レオナルドに寄りかかった。二人は長い間、星空の下で静かに座っていた。言葉は必要なかった。彼らの心は既に完全に理解し合っていた。
「あなたがいなかった間、毎晩祈っていました」
サビーノは小声で言った。
「そしていつも同じ夢を見ました。私たちが年を取っても、ずっと一緒に音楽を奏でている夢を」
「その夢は実現する」
レオナルドは確信を持って言った。
「僕たちはこれからも共に音楽を作り、共に成長していく。何があっても」
彼はサビーノの頬に軽くキスをした。それは愛の誓いであり、未来への約束だった。
「何があっても」
サビーノは囁き返した。
二人は肩を抱き合い、ヴェネツィアの星空の下で友情と愛の誓いを新たにした。それは純粋で美しく、二人の魂が奏でる音楽のように、永遠に続くものだった。冬の厳しい寒さの中で、彼らの心は春の暖かさで満たされていた。
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冬のヴェネツィアは、その美しさと厳しさを同時に見せる季節だった。1月に入ると、街は本格的なカーニバルの準備に入った。サン・マルコ広場には色とりどりのテントが立ち並び、仮面職人や衣装屋が店を開いた。運河には装飾された船が浮かび、夜には松明の光が水面に映り込んだ。
レオナルドとサビーノにとって、この冬は特別なものとなった。サビーノはピエタとモチェニーゴ邸を行き来する生活に慣れ、両方の場所で尊敬を集めるようになった。レオナルドは引き続きピエタで教え、時にはモチェニーゴ邸でサビーノと一緒に演奏する機会も得た。
1月末、二人はヴェネツィアで最も重要な音楽イベントの一つ、「ラ・フェニーチェ劇場」での特別コンサートに招待された。このコンサートは、カーニバル期間中の貴族たちの祝祭の一環として開催され、ヨーロッパ中から集まった音楽愛好家たちで溢れていた。
レオナルドとサビーノは、ヴィヴァルディの「四季」から冬の協奏曲を演奏することになった。この曲はまだ完全には発表されていなかったが、その一部はピエタの少年たちによって既に演奏されていた。二人のための特別なアレンジメントは、ヴァイオリンとヴィオラの掛け合いを強調したもので、冬の厳しさと美しさを表現していた。
演奏会の日、ラ・フェニーチェ劇場は華やかな衣装と仮面を身につけた貴族たちで埋め尽くされていた。豪華な装飾と赤いビロードの座席、そして金箔が施された天井の下で、観客たちは最高の音楽を楽しむために集まっていた。
レオナルドとサビーノは、この重要な機会のために特別な衣装を与えられた。レオナルドは深い青のベルベット地の上着に銀の刺繍、サビーノは深緑色の上着に金の刺繍という装いだった。二人は舞台袖で、出番を待ちながら互いに励まし合った。
「緊張している?」
レオナルドは小声で尋ねた。彼自身、心臓が早鐘を打っているのを感じていた。
「少し」
サビーノは正直に答えた。彼の手は少し震えていた。
「でも、あなたと一緒なら大丈夫」
レオナルドは微笑み、サビーノの手を一瞬だけ握った。
「僕たちの音楽を、ただ感じるままに演奏しよう。他のことは何も考えずに」
サビーノは頷き、深呼吸をした。彼の緑の瞳は決意に満ちていた。
二人が舞台に出ると、劇場内が静まり返った。数百の目が二人の若い音楽家に注がれた。レオナルドとサビーノは優雅に一礼し、楽器を構えた。
レオナルドが最初の音を奏でた瞬間、会場全体が別の次元に引き込まれたかのようだった。それは冬の厳しい風を表現する激しい音色で、サビーノのヴィオラが対話するように応えた。二人の演奏は完璧に調和し、まるで一つの魂から生まれる音楽のようだった。
緩やかな第二楽章では、サビーノのヴィオラが主旋律を担当し、その温かな音色が冬の炉端の安らぎを表現した。レオナルドのヴァイオリンは繊細な装飾音で彼を支え、二つの楽器が織りなす音楽は、厳しい冬の中に見出す温かさと希望を伝えていた。
最終楽章は再び激しさを増し、冬の嵐と春への期待を表現するような力強い音楽となった。レオナルドとサビーノの息はぴったりと合い、時に目を合わせるだけで次の表現を理解し合うほどだった。
演奏が終わると、会場は一瞬の沈黙の後、熱狂的な拍手と喝采で溢れた。「ブラーヴォ!」「ブラヴィッシモ!」という声が四方から聞こえ、貴族たちは立ち上がって二人の若き音楽家に敬意を表した。中には感動のあまり涙を流す者もいた。
ヴィヴァルディは舞台袖から二人を誇らしげに見つめ、モチェニーゴ伯爵は特に満足そうな表情でボックス席から拍手を送っていた。レオナルドとサビーノは何度も一礼し、この素晴らしい瞬間を心に刻み込んだ。
その夜の成功は、二人の評判をさらに高め、「ピエタの天才少年たち」としての地位を確立した。彼らはヨーロッパ中の音楽愛好家から注目され、多くのパトロンからの招待を受けるようになった。しかし、彼らにとって最も価値のあるものは、共に音楽を奏でること、そして互いの心と魂の絆だった。
コンサートの後、二人は劇場の裏手にある小さな中庭で静かな時間を共有した。まだ興奮と喜びで胸がいっぱいだった彼らは、言葉よりも優しい触れ合いでその感情を表現していた。
「私たちは本当にやり遂げたんだね」
サビーノはつぶやいた。彼の緑の瞳は星のように輝いていた。
「いつか大きな舞台で演奏するという夢が」
「これは始まりに過ぎない」
レオナルドは自信を持って言った。
「僕たちの音楽は、もっと多くの人々の心に届くよ。これからも」
彼はサビーノの手を取り、その指に唇を触れた。
「そして僕たちの絆も、音楽と共に強くなっていく」
サビーノは微笑み、レオナルドの腕の中に身を寄せた。冬の夜は冷たかったが、二人の心は愛と希望の暖かさで満たされていた。
星空の下、彼らは静かに未来を夢見た。それは音楽と愛に満ちた未来、二人の魂が永遠に共鳴する未来だった。冬の終わりが近づき、やがて春がやってくる。四季は巡り、彼らの絆はその流れと共に深まっていくだろう。