第三章 秋 — 試練
聖母被昇天祭の演奏は大成功を収めた。サン・マルコ大聖堂の荘厳な空間の中、レオナルドとサビーノの二重奏は、集まった聴衆の心を魅了した。教皇大使は特に感銘を受け、二人に聖ヨハネの銀の小さなメダルを授けたほどだった。
ピエタでの演奏会は通常、少年たちが聖歌隊席から演奏し、観客は彼らの姿をかすかにしか見ることができないようになっていた。これは宗教的な謙虚さを示すための慣習だったが、ある種の神秘性を生み出し、レオナルドたちの音楽にさらなる魅力を加えることになった。「天使の声を持つ少年たち」の音楽として、その名声はヴェネツィア中に広がった。
二人の少年の名は「Il Biondo(金髪)」と「Il Principe(王子)」という愛称で呼ばれるようになり、ピエタの訪問者たちは彼らの演奏を聴くために、少年たちの純粋な音楽に対して手厚い寄付をするようになった。
演奏会の後、ピエタでは秋の日常が戻ってきた。朝の祈り、勉強、練習、そして夜の祈りという規則正しい生活の中で、レオナルドとサビーノは互いの存在を支えにして日々を過ごしていた。彼らは秘密の場所でより多くの時間を過ごし、音楽を通じて心を通わせた。そこでは二人だけの世界があり、社会の規範や宗教的な制約から自由になることができた。
9月末、ヴェネツィアに秋の冷たい風が吹き始めた頃、二人の関係に最初の試練が訪れた。
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10月の初め、プロクラティエ(共和国高官)の一人が孤児院を訪れた。その貴族、アルヴィーゼ・モチェニーゴ伯爵は50代半ばで、典型的なヴェネツィア貴族の装いをしていた。上質なダマスク織りの長い上着に刺繍入りのベスト、膝下までの絹のブリーチェス(ズボン)、そして白い絹のストッキングという正装姿だった。首元には当時流行していた「スタインカーク」と呼ばれる結び方のクラバットを巻き、その高価な香水の香りが部屋中に漂っていた。銀の杖を持ち、上品な仕草で話す彼の存在感は、少年たちに強い印象を与えた。
彼が孤児院を訪れたのは、新たな才能を自分の邸宅に迎えるためだった。当時のヴェネツィアでは、音楽家やその他の芸術家のパトロンとなることは、貴族階級の間で高い地位の象徴とされていた。そして彼の目に留まったのは、ほかならぬサビーノだった。
モチェニーゴ伯爵はピエタの聖母被昇天祭のコンサートに出席し、サビーノのヴィオラの音色に魅了されていた。彼は友人のパトロンたちと競い合うように、一流の音楽家を自分の邸宅に集めていた。
「あの子のヴィオラの音色は素晴らしい」
伯爵はプリオーレ(孤児院の管理者)に言った。彼はステッキの先端で床を軽く叩きながら、ゆっくりと歩いていた。
「私の館の音楽家として迎えたい。もちろん、適切な教育と保護を約束する」
こうした申し出は大きな名誉であり、ピエタの少年たちの多くが望む機会だった。孤児院での教育を終えた後、少年たちには主に三つの道があった—工芸や商業の徒弟になること、修道士になること、そして特別な才能を持つ者は音楽家や教師としての道を歩むことができた。伯爵の申し出は、サビーノに最後の道を約束するものだった。
プリオーレはこの申し出を喜んで受け入れ、すぐにサビーノを呼び出した。サビーノは緊張した面持ちで部屋に入り、伯爵の前で深く頭を下げた。
「サビーノ・ヴァレッシですね」
伯爵は親しげな口調で言った。彼は少年の顎を指先で持ち上げ、その顔を注意深く観察した。
「美しい顔立ちだ。緑の瞳は珍しい。血筋に外国の血が混じっているのかな?」
「父はフェラーラの出身でした」
サビーノは恭しく答えた。
「母については……あまり覚えていません」
彼は言葉を濁した。実際、彼の記憶の中の母親は、黒い髪に緑の瞳を持つ美しい女性の姿で、常に哀しげな表情を浮かべていた。しかし彼女の素性についての具体的な記憶はなかった。
「興味深い」
伯爵は微笑んだ。
「君のヴィオラの音色は格別だ。私の屋敷で演奏してほしい。最高の教師をつけ、君の才能を磨く手助けをしよう」
サビーノは一瞬言葉に詰まった。これは彼にとって素晴らしい機会だったが、同時にレオナルドと離れることを意味していた。
「とても光栄です」
彼は正式な言葉で応じたが、その声には迷いが滲んでいた。
「検討させていただけますか?」
伯爵は少し眉をひそめたが、すぐに穏やかな表情に戻った。
「もちろん。しかし長くは待てないよ。来週には返事をもらいたい」
彼は金貨の入った小さな袋をプリオーレに手渡し、サビーノに向かって優雅に頭を下げて去っていった。
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レオナルドはその知らせを聞いたとき、胸が引き裂かれる思いだった。彼は自分の小さな部屋—「チェッラ」と呼ばれる修道院風の質素な個室—に逃げ込み、涙を流した。彼の部屋には、木製のベッドと聖マルコの小さな絵、そして大切なヴァイオリンしかなかった。窓辺には彼が密かに育てていた鉢植えのバジルがあり、その香りが部屋に広がっていた。
窓の外では、ヴェネツィアの空が灰色の雲に覆われ始めていた。秋の雨が街を洗い、運河の水は茶色く濁っていた。レオナルドは窓辺に立ち、雨に煙るサン・マルコ広場の方向を見つめていた。
ノックの音が彼の思考を中断させた。
「入って」
彼は声をかけた。すでに訪問者が誰かわかっていた。
サビーノが静かに部屋に入ってきた。彼は少し青ざめた顔をしていたが、緑の瞳には決意の光が宿っていた。彼はレオナルドの近くまで来て、その肩に手を置いた。
「聞いたよ」
レオナルドは窓から振り返らずに言った。彼の声は疲れたように聞こえた。
「伯爵の申し出を。素晴らしい機会だね」
「行くつもりはない」
サビーノははっきりと言った。その声には珍しい強さがあった。
「あなたと離れるくらいなら、どんな機会も捨てる」
レオナルドはついに振り返り、サビーノの顔をじっと見つめた。彼の青い瞳には、悲しみと愛情が入り混じっていた。
「でも、それは君の未来だよ。ピエタを出て、一流の音楽家になる道だ」
「あなたなしの未来など意味がない」
サビーノは熱っぽく言った。彼はレオナルドに近づき、その手を取った。
「私たちは約束したでしょう。いつも一緒に」
レオナルドはサビーノの手を強く握り返したが、その目には深い悲しみがあった。
「僕も君といつも一緒にいたい。でも……」
彼は言葉を探すように一瞬言葉を詰まらせた。
「でも、これは僕たちの問題だけじゃない。君の才能は僕だけのものじゃないんだ。世界に届けるべきものなんだよ」
サビーノは黙って頭を振った。彼の黒い髪が雨の湿気でカールし、頬に触れていた。
「理解してほしい、レオナルド」
彼は真剣な面持ちで言った。
「私の音楽はあなたがあってこそ意味がある。二人で演奏する時、私は最高の自分になれる。それを失いたくない」
レオナルドはサビーノの頬に手を当て、その美しい顔を優しく見つめた。
「僕もそう思う。でも、時にはそれぞれの道を歩むことも必要なんだ。成長するために」
彼は苦しそうに微笑んだ。
「伯爵の申し出を受けるべきだよ。そして、いつかまた一緒に演奏しよう。もっと成長した二人で」
サビーノの目に涙が溢れた。彼はそれを拭おうともせず、ただレオナルドを見つめていた。
「あなたは私を追い出したいの?」
その言葉は、弓で引かれた弦のように鋭くレオナルドの心を突いた。
「違う!」
レオナルドは思わず声を上げた。彼はサビーノを両腕で抱きしめ、その髪に顔を埋めた。
「違うんだ。僕は……僕は君を愛しているから、君に最高の未来を望んでいるんだ」
その言葉を聞いて、サビーノの体が小さく震えた。彼はレオナルドの胸に顔を埋め、その鼓動を感じた。
「私もあなたを愛している」
彼は小さな声で応えた。
「だからこそ、離れたくない」
二人はしばらくの間、ただ抱き合っていた。窓から差し込む灰色の光が、彼らの姿を影絵のように浮かび上がらせていた。外では雨が激しさを増し、ピエタの石壁を打つ音が聞こえた。
その日の夜、二人はピエタの裏庭にある小さな中庭で落ち合った。通常、夜間の外出は厳しく禁じられていたが、音楽練習の特権を持つ二人は、時々こうした規則を破る自由を持っていた。中庭はオレンジの木々と石造りの噴水に囲まれ、ヴェネツィアの喧騒から切り離された静寂の場所だった。
秋の冷たい風が二人の間を吹き抜け、サビーノの髪を揺らした。彼は今や「マエストロ・ディ・ヴィオラ(ヴィオラ教師)」の地位を与えられ、若い生徒たちを教える役割も担っていた。その地位に相応しく、彼は濃紺の上質なウール地のブリーチェスに白いシャツ、そして黒のベストという装いで、首元には父から受け継いだという小さな銀の懐中時計のチェーンが光っていた。これは特別な日のみ着用を許された装飾品だった。
「行くのか?」
レオナルドは震える声で尋ねた。彼の顔は涙で濡れ、通常は完璧に整えられた髪も乱れていた。彼の指先は無意識に自分のシャツの袖口を摘み、小刻みに揉んでいた。
サビーノは長い間黙っていた。彼は噴水の縁に座り、水面に映る月を見つめていた。その表情からは何も読み取れなかったが、彼の緑の瞳に浮かぶ影は、内心の葛藤を物語っていた。
「わからない……」
彼はついに答えた。彼の声は囁くように小さく、長い睫毛の影が頬に落ちていた。
「あの貴族の申し出は素晴らしいものだけど……」
「でも?」
レオナルドは息を詰まらせながら尋ねた。彼は自分の胸の内をすべて言葉にすることができず、ただサビーノの決断を待つしかなかった。
「でも、あなたと離れたくない」
サビーノの瞳に涙が光った。彼はゆっくりと立ち上がり、レオナルドに近づいた。月明かりの下、彼の肌は大理石のように白く輝いていた。
「レオナルド、あなたは私の音楽、私の友情の一部になったんです。あなたがいなければ、どんな音も空虚に響くだけです」
レオナルドは抑えきれずに彼を抱きしめた。二人の心臓の鼓動が一つのリズムを刻むのを感じながら、彼はサビーノの肩に顔を埋めた。それは兄弟のような、しかし同時に何か特別なものを含んだ抱擁だった。
レオナルドは彼の耳元で囁いた。
「僕たちは永遠に友達だよ、どこにいても。だから、行くべきだよ。君の才能は僕だけのものではない。世界中の人々に届けられるべきもの」
彼の声は決意に満ちていたが、その言葉を発するたびに心が引き裂かれるのを感じた。
サビーノはレオナルドの顔を両手で包み、その青い瞳をじっと見つめた。彼の白い指先が、レオナルドの涙を優しく拭った。
「待っていて」
彼は決意を込めて言った。その声には、これまで聞いたことのない強さがあった。
「この機会を活かして学び、成長します。でも必ず戻ってきます。そして二人で演奏するんです、永遠に」
二人は約束を交わし、その証として、それぞれの楽器から一本の弦を取り、互いのポケットに入れた。レオナルドのヴァイオリンのE線はサビーノのポケットに、サビーノのヴィオラのC線はレオナルドのポケットに—それは当時のヴェネツィアでは「フラテッリ・ディ・ムジカ(音楽の兄弟)」と呼ばれる親密な友情の証だった。その弦は、離れていても二人を結びつける絆の象徴となった。
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翌日の朝、サビーノはプリオーレに伯爵の申し出を受け入れると伝えた。条件は一つだけ—ピエタとの繋がりを保ち、定期的に戻って若い音楽家たちを教える機会を持つこと。プリオーレはこの条件に喜んで同意し、伯爵にもその旨を伝えた。伯爵は最初は少し躊躇ったが、ピエタとの良好な関係は彼の社会的地位にも好影響をもたらすと考え、同意した。
サビーノの出発の日は、10月の中旬の曇り空の朝に決まった。前日の夜、彼とレオナルドは秘密の場所で最後の二重奏を演奏した。それは言葉にならない別れの挨拶だった。
彼らは「四季」から「秋」の第二楽章を選んだ。哀愁を帯びた旋律が古い納屋の中に響き渡り、二人の心の痛みを表現するかのようだった。演奏が終わると、二人は言葉を交わさず、ただ抱き合った。その沈黙の中には、言葉では表現できない多くの感情が込められていた。
レオナルドはポケットからサビーノのヴィオラの弦を取り出し、それを手首に巻いた。
「いつも君と一緒にいる証拠だ」
彼は微笑んだ。サビーノも同じように、レオナルドのヴァイオリンの弦を手首に巻いた。
「これが私たちの絆」
彼は静かに言った。
二人は最後にもう一度抱き合い、互いの温もりと匂いを記憶に刻み込んだ。
「必ず戻ってくる」
サビーノは約束した。
「待っている」
レオナルドは答えた。
翌朝の霧に包まれたカナル・グランデを渡る小舟の上で、サビーノは振り返りピエタに別れを告げた。彼の指先は、ポケットに入れた細い弦を握りしめていた。レオナルドは小さな窓から彼を見送り、涙を抑えるのに必死だった。彼の胸には、サビーノがいなくなった後の空虚感が広がっていた。
サビーノを載せた小舟がカナル・グランデの曲がり角で見えなくなるまで、レオナルドは動かなかった。そして彼が去った後も、長い間窓辺に立ち、運河の水面を見つめていた。秋の冷たい風が窓から入り込み、彼の頬に触れた。それはまるでサビーノの指先のような感触だった。
「必ず戻ってくる」
彼はサビーノの言葉を心の中で繰り返した。それは約束であり、祈りだった。
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サビーノが去った後のピエタは、レオナルドにとって色彩を失った世界のように感じられた。彼は日々の義務を黙々とこなし、練習と教育に専念した。しかし彼の演奏には以前のような輝きが欠けていた。ヴィヴァルディさえも、そのことに気づいていた。
「君の音楽はサビーノを待っているようだ」
ある日の練習後、ヴィヴァルディはレオナルドに言った。彼の言葉には非難ではなく、理解が込められていた。
「彼は戻ってきます」
レオナルドは力強く言った。彼の目には疑いの影はなかった。
「信じているよ」
ヴィヴァルディは微笑んだ。
「二人の絆は音楽を超えたものだ。それは神の摂理だ」
11月に入り、ヴェネツィアは冬の訪れを告げる霧に覆われるようになった。サン・マルコ広場では、貴族たちが厚手のベルベットのマントを羽織り、カフェで熱いチョコレートを飲んでいた。運河では、ゴンドラが霧の中を静かに滑り、その姿は幽霊船のように見えた。
レオナルドはサビーノからの手紙を毎週受け取っていた。モチェニーゴ伯爵の屋敷での生活、新しい音楽の先生、そして様々な貴族の夜会での演奏について。サビーノの手紙は常に熱心で詳細だったが、その行間には何か言葉にされていない感情が隠れているように思えた。
レオナルドもまた、頻繁に返事を書いた。ピエタでの日々、新しい曲の練習、そして二人が再会した時に演奏したい曲について。彼の手紙には常に、「早く戻ってきて」という言葉が添えられていた。
11月の終わり、サビーノの最初の公式な演奏会がモチェニーゴ伯爵の邸宅で開かれることになった。これは冬の社交シーズンの開始を告げる重要なイベントで、ヴェネツィアの主要な貴族が招待されていた。
レオナルドはこの知らせを聞き、密かに演奏会に出席する計画を立てた。ピエタを離れるには特別な許可が必要だったが、ヴィヴァルディの助けを借りて、音楽研究のためという名目で外出許可を得ることができた。
演奏会の夜、レオナルドは最も良い服装—深い青のブリーチェスに白いシャツ、そして黒のベスト—を身につけ、髪を丁寧に結んだ。彼はピエタの少年たちに許された最大限の装いで、貴族の世界に足を踏み入れる準備をした。
モチェニーゴ邸は大運河に面した壮麗な建物だった。ファサードは白い大理石と赤い石で装飾され、数多くの窓とバルコニーが水面に映っていた。夜の闇の中で、邸宅の窓からは温かな光が漏れ、音楽と笑い声が聞こえてきた。
レオナルドはヴィヴァルディの弟子という身分で入場を許され、広間の隅に控えめに立った。そこにはヴェネツィアの貴族社会の華やかな面々が集まっていた。男性たちは豪華な刺繍入りの上着とブリーチェス、女性たちは絹のドレスに宝石を身につけ、多くの者は優雅な仮面を付けていた。シャンデリアの明かりが宝石や金の装飾に反射し、部屋全体が幻想的な光景に包まれていた。
やがて、伯爵自身が客人たちに向かって挨拶し、夜の目玉であるサビーノの演奏を紹介した。
「皆様、今夜は特別な才能を持つ若き音楽家をご紹介します。ピエタ孤児院から迎えた私の被保護者、サビーノ・ヴァレッシです」
広間の奥から、サビーノが現れた。彼は洗練された装いで、深緑色のベルベット地の上着に銀の刺繍が施され、白いシャツの襟元にはレースのあしらいがあった。彼の黒髪は少し長めに伸び、エレガントに後ろで結ばれていた。
レオナルドは息を呑んだ。わずか数週間の間に、サビーノは外見的にも成長し、より大人びた雰囲気を醸し出していた。しかし、その緑の瞳には変わらぬ純粋さがあった。
サビーノは客人たちに深々と一礼し、ヴィオラを構えた。彼が弾き始めたのは、ヴィヴァルディの新作、「冬」の協奏曲の一部だった。その曲はまだ公式には発表されていなかったが、ピエタの少年たちの間では既に知られていた特別な曲だった。
最初の音が広間に響いた瞬間、レオナルドの心は鼓動を早めた。それは明らかにサビーノの奏でる音色だったが、以前よりもさらに深みを増していた。技術的にも成熟し、感情表現も豊かになっていた。
曲の中間部、サビーノは広間を見回し、ついにレオナルドの姿を見つけた。彼の目が大きく開き、演奏が一瞬揺らいだが、すぐに平静を取り戻した。しかし、それ以降の演奏は明らかに変化した。それはまるでレオナルドに向けて演奏しているかのように、より情熱的で、より個人的なものとなった。
演奏が終わると、部屋中から拍手が沸き起こった。サビーノは優雅に頭を下げ、貴族たちの称賛を受け入れた。モチェニーゴ伯爵は満足げに微笑み、サビーノの肩を誇らしげに叩いた。
レセプションの間、サビーノは貴族たちに囲まれ、彼らの質問や賞賛に応じなければならなかった。彼はレオナルドに向かって一瞬だけ視線を送り、小さく頷いた。それは「後で会おう」という無言のメッセージだった。
数時間後、客人たちが徐々に帰り始めた頃、サビーノはついに自由になった。彼は慎重にレオナルドの近くに来て、小声で言った。
「裏庭で待っていて。すぐに行くから」
レオナルドは頷き、モチェニーゴ邸の裏側に回った。そこは小さな庭園になっており、装飾的な植栽と石の小道が月明かりに照らされていた。
しばらくして、サビーノが静かに現れた。二人は言葉を交わす前に、強く抱き合った。三週間の別れは、彼らには永遠のように感じられていた。
「来てくれたんだね」
サビーノは喜びと驚きを込めて言った。彼の緑の瞳は月明かりの下で輝いていた。
「君の演奏を聴かずにいられなかった」
レオナルドは微笑んだ。
「素晴らしかったよ。ここでの生活は君に合っているみたいだね」
サビーノは複雑な表情を浮かべた。彼は庭の石のベンチに座り、レオナルドを隣に招いた。
「表面的には、かもしれない」
彼は静かに言った。二人の間には月光の中の影が落ちていた。
「ここでの生活は……難しい。貴族たちは私を『物』のように扱う。彼らの間で流行の『ピエタの少年ヴィオラ奏者』として」
彼は苦笑した。
「伯爵自身は親切だけど、彼の友人たちの中には……言葉にできないような要求をする者たちもいる」
レオナルドの顔に心配の色が浮かんだ。
「君を傷つけているのか?」
「いいえ、そういうわけではない」
サビーノは急いで付け加えた。
「伯爵は私を守ってくれている。でも、この世界は私たちが知っていたものとは全く違う。ここでは音楽は愛されるものではなく、所有されるものなんだ」
彼は空を見上げた。雲間から見える星々は、ピエタの屋上テラスから眺めた時と同じように輝いていた。
「あなたがいなくて寂しい」
彼は正直に告白した。その声には、隠しきれない孤独感が滲んでいた。
「僕も君がいなくて寂しい」
レオナルドは応えた。彼はサビーノの手を取り、その指をそっと握った。
「でも、君は成長している。それは間違いない。今日の演奏は、以前とは違った深みがあった」
「それは……」
サビーノは躊躇いがちに言った。
「あなたへの思いが、私の音楽に反映されているからかもしれない」
レオナルドは微笑み、サビーノの頬に触れた。月明かりが彼の金褐色の髪に銀色の反射を作り出し、その青い瞳は深い愛情で満ちていた。
「我慢できるのはあとどれくらい?」
彼は優しく尋ねた。
サビーノは深いため息をついた。
「伯爵との契約は半年。冬が終わる頃には何らかの決断をしなければならない」
彼はレオナルドの手を両手で包み込んだ。
「毎日あなたのことを考えている。一緒に演奏していた時間、秘密の場所での会話……全てが夢のようだ」
「夢じゃない」
レオナルドは力強く言った。
「僕たちはいつか必ず再び一緒に演奏する。それまでの間、君はここで学べることをすべて学ぶんだ」
彼は懐からサビーノのヴィオラの弦が巻かれた小さな銀の飾りを取り出した。それは彼が密かに作らせたもので、弦が美しい結び目で装飾されていた。
「これを持っていて」
彼はサビーノに渡した。
「僕たちの絆の証として」
サビーノは感動で言葉を失い、その飾りを大切に胸ポケットにしまった。彼もまた、レオナルドのヴァイオリンの弦を編み込んだ小さな編み物を取り出した。
「私も同じことを考えていた」
彼は微笑んだ。
二人は月明かりの下で長い間話し続けた。ピエタでの近況、サビーノの新しい先生のこと、そして二人で演奏してみたい曲のことなど。言葉にならない思いは、指先のかすかな触れ合いや、視線の中に込められていた。
夜が深まり、レオナルドが帰らなければならない時間が近づいてきた。二人は最後にもう一度抱き合い、次に会う日を約束した。
「クリスマスにはピエタに戻れるよう、伯爵にお願いするつもりだ」
サビーノは言った。
「待っている」
レオナルドは応えた。
彼らは別れの挨拶として、最後に軽く唇を触れ合わせた。それは秘密の誓いのようなものだった。そして二人は別々の道を行き、レオナルドはピエタへ、サビーノはモチェニーゴ邸へと戻っていった。
空には冬の星座が輝き始めており、季節はついに冬へと移り変わろうとしていた。