8.ヒスイの家
玲奈はヒスイと仲良くなってみたいな、と思った。だからもっと話がしたい。
「あのね、お願いがあるんだけど。ホウキに乗ってた理由を教えてくれる? 私、ずっと気になってたんだ」
言ってみると、ヒスイは少し考えてうなずいた。
「まあ、見えてるんだからしょうがないか、お前には理由を教えてやる。だけど他の人には秘密にしろよ?」
「もちろん!」
「あら、こんにちは。見かけない子ね」
話しかけてきたのは通りすがりのおばあさんだ。
ニコニコ笑顔で優しそうだけど、おばあさんが見ているのは玲奈のほうだけ。
「ええと。この前、引っ越してきたんです」
「そうなのね。ここは小さな町だから、人が増えてにぎやかになるのは嬉しいわ。奥にあるお家にも、あなたと同じくらいの学年の男の子がいるのよ。仲良くできるといいわね」
すぐ近くにはその男の子、ヒスイがいるのに。
お買い物に行く、というおばあさんの背を見送って、玲奈はヒスイに言う。
「あのおばあさん、ヒスイくんにもキューイにも気が付いてなかったよ!」
「普通ならそうなるハズなんだよ。オレたちが見えてるお前がおかしいの。とにかくここにいたら暑いし、来いよ」
「どこへ行くの?」
「オレん家」
ヒスイは道のつき当たりにあるあのステキな場所の方へ歩いて行く。来いと言ってもらったんで、玲奈も後を追った。
白いオシャレな鉄の柵のあいだには木の門があって、『Open』という小さな看板がかかっている。
ヒスイがそこを開けると、中は石の道があった。幅は、玲奈とヒスイが並んで歩けるくらい。道の左右にはたくさんの花や植物が植えられいるから、とってもいい香り。
そして道の奥にはレンガでできた洋館があった。後ろには森まで見えている。
まるで外国に来たみたいなこの景色は、前になにかで見た『イングリッシュガーデン』によく似てる。
「すごい……」
教室で一花が「ヒスイくんの家には大きい庭がある」と言っていたけれど、この庭は玲奈が考えていたよりずっとずっと大きい。
「とってもキレイ! こんなところに住めるなんていいなあ! ねえ、さっき看板があったけど、お店もやってるの? 何屋さん?」
「雑貨屋」
「カフェもやってみたら? ぜったい人気がでるよ!」
「別に、たくさんの人に来てもらいたいわけじゃないからいいよ」
「そうなの? なんで?」
「……メンドウだから」
あおいが言っていた「一匹狼」ってこういうことなのかな、って玲奈はちょっと思った。
洋館に着いたヒスイが立派なドアを開けると、ひんやりとした風といっしょにハーブの香りがふわっと流れて来る。
どうやら、ここがお店みたい。
広い空間には大きな窓がいくつかあって、夏の日差しがたっぷり入ってくる。そして棚があちこちにあって、とってもステキなものがたくさんおかれていた。