表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/42

7.魔法使いだけど怖くない

 黒いクッションがギャアアアア、と叫んだ。


『ふざけるな! ワシは、ワシは、この世界の支配者(しはいしゃ)になるのだぞ!』

「なれない。お前はただの犯罪者(はんざいしゃ)だ。これからは元の世界の番人のもとで、界移動(カイイドウ)(つみ)をつぐなうんだな」

『むぐー! むぐぐぐー!』


 光が口もおおっているからクッションはもうしゃべれないみたい。へんな声だけを出すけど、それが「ごめんなさい、反省(はんせい)してます」じゃないだろうなっていうのは表情を見ただけで玲奈(れな)も分かった。


 赤いドラゴンがパタパタ飛んでヒスイの頭の上に乗るけど、光に(つつ)まれたクッションは()いたまま。


「ショニイ トカモ タ エレバ!」


 ヒスイの呪文(じゅもん)が終わると、クッションは光に包まれたまま森の方へ飛んで行った。

 まるで映画のワンシーンみたいなことが目の前で起きて、玲奈はとっても興奮(こうふん)する。


「すごいすごい!」


 思わず手を叩くとヒスイはびくっと肩をふるわせた。でも、何も言わず歩きだしたので、玲奈は声をかける。


「ねえ、今の何だったの? ホウキくん……あっと、ヒスイくん?」


 そこでようやくヒスイが玲奈を見た。信じられない、って顔をしてる。


「……オレが見えてるのか?」

「見えてるに決まってるじゃん。ねえ、頭の上にいるのって本物のドラゴン? ヒスイくんのペットなの?」

「ドドドド、ドラゴンなんているわけないだろ?」

「キュー……」

「あーあ。いないなんて言うから、ドラゴンが悲しそう」

「わ、ごめん、これは、その、ちがうんだ!」


 あわてて頭の上のドラゴンをなでたあと、ヒスイはおそるおそる玲奈を見つめる。


「……なあ、お前。本当にオレが見えてるんだな。キューイも」

「見えてるよー。そっか、キューイっていうんだね。私は玲奈(れな)だよ。よろしくね!」

「キュ!」


 手を出すと、キューイは前足で玲奈の人さし指をにぎって上下にふった。


握手(あくしゅ)かな? ありがとう!」

「キュキュー!」

「……お前、キューイやオレが(こわ)くないのか?」

「なんで怖いの?」

「だって、ドラゴンや魔法使いなんて普通はいないものだろ? それが本当にいるってなったら……怖くないか?」


 玲奈は思い出した。「昔のヨーロッパでは魔女狩(まじょが)りがあった」ってテレビで見たことがある。ヒスイが気にしているのはきっとその話だ。


「私はぜんぜん怖くないよ。だってヒスイくんたちが夜に空を飛んでるのをみつけたとき、ワクワクしたもん」


 マジかよ、とヒスイはボソっと言った。


「やっぱりあれも見えてたのか。このホウキを持ってたら普通(ふつう)の人からは見えなくなるはずなのに、どういうことだ?」

「分かんない。でも、最初は見えてたのにすぐ見えなくなったよ」

(ねん)のために『見えなくなる魔法』をもう一回かけたんだよ。……まあ、意味なんてなかったみたいだけどな」

「え、意味はあったよ。だって私、ヒスイくんたちがずっと見えてたら、(あと)を追いかけて走ってったと思うもん。そんで迷子になって、帰れなくなって、お父さんとお母さんに『夜中に勝手にどこかへ行ったらダメ!』って(しか)られてたんじゃないかな。だから魔法をかけてくれて、よかったよー」


 ヒスイは目をパチパチさせたかと思うと、次の瞬間(しゅんかん)にはプッと吹き出した。


「お前って(へん)(やつ)だな!」


 ヒスイはきつい顔立ちだから、人をよせつけない雰囲気(ふんいき)がある。でも、笑うとちょっとカワイイんだな、って玲奈は思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ