3.ホウキと、お友だち
「ホウキ!」
思わず叫んだ玲奈の視線の先をクラスのみんなが追う。
注目をあつめた男の子はびっくりしたみたいにキョロキョロしたあと、黒板を見て、ボソッと言った。
「ホウキはお前だろ」
「えっ、すごい! よく知ってたね!」
玲奈は背のびをして、黒板に書かれた自分の苗字を指さした。
「みんなも覚えてね。私の苗字の彗っていう字はね、ホウキとも読むの!」
だれかが「ぷっ」てふき出した。
それがキッカケになったみたいで、クラス中に笑いがおきる。
「こ、こら。みんな、笑わないの! しずかに! しずかに―!」
先生は言うけど、一度スイッチが入ったみんなの笑い声は止まらない。
「あのー、先生」
「しずかにしなさーい! ……あ、なにかしら、彗崎さん」
「さっきのあの子、なんていう名前ですか?」
「あの子? ええと、宝城 ヒスイくんのこと?」
「宝城くん……」
先生に字を教えてもらった玲奈は思わず言ってしまう。
「宝城って、音読みにしたらホウキだね」
玲奈の声は少し静かになった教室によく響いた。ヒスイが「うっ」と言ったのも。
「ホウキコンビかよ!」
誰かが言って、それでみんなはまた大笑いをはじめてしまった。
困った先生がなんとか教室をしずかにさせるには三分かかった。ようやく、玲奈も自分の席が教室の真ん中くらいにあるって教えてもらえた。イスに座ると、となりの席の子が話しかけてくる。
「ねぇ、ホウキちゃん、ホウキちゃん! ……あ、ええと、玲奈ちゃん」
「いいよ、ホウキちゃんでも」
「本当? よかった。私は一花だよ。よろしく!」
一花は髪の毛をポニーテールにした、とっても元気そうな子だ。
「ホウキちゃんってさ、どうしてヒスイくんのことを『ホウキ』って言ったの?」
「実はね、あの男の子が、ホウキに……」
そこまで言って玲奈はなんとなく「この話はほかの人にしない方がいいかも」と思った。だって、ホウキに乗って空を飛ぶ人間なんて玲奈は今まで見たことがない。
「じゃなくて、あの子が大きなホウキを持ってる姿を見かけたから」
とごまかしてみる。
「ふうん。もしかしたら、そうじ用のホウキだったのかな。ヒスイくんの家には大きい庭があるからね」
「そうなんだ。家を知ってるってことは、一花ちゃんはホウキくん……じゃない、ヒスイくんと仲良しなの?」
「いや、話に聞いて知ってるだけ。ヒスイくんはあんまりほかの人といっしょにいないから、仲良しっていうほどの人はいないと思う。ね、あおいちゃん!」
「え?」
一花の前の席の子が振り返った。髪を左右に分けて、三つあみにしていて、ちょっとおとなしそうな感じの女の子。
「ほら、前にヒスイくんのことをナントカって……なんだっけ?」
「ナントカ……ヒスイくんは、一匹狼っていう言葉が、似合う……って……?」
「そうそう、それそれ!」
「わあ、難しい言葉を知ってるんだね」
玲奈が言うと、三つあみの子は恥ずかしそうにうつむいた。代わりに一花が「そうだよ!」って答える。
「あおいちゃんはたくさん本を読んでるから、いろんなことを知ってるんだ」
「そんな、たくさん知ってるってわけじゃ……ただ、家にはパパの本がたくさんあるから……」
「すごいね。私にもいろんなことを教えてほしいな。ね、一花ちゃん、あおいちゃん、私と友だちになってくれる?」
「もちろんだよ!」
「えっと、私で、よければ……」
「二人とも、ありがとう!」
一花と、あおい。
さっそく二人の友だちもできて、玲奈の学校生活は楽しくなりそうな予感だ。