4.しょんぼりするのはだれ?
麦茶を一気にぐいって飲んで、玲奈はお店から出る。
来たときのウキウキ楽しい気分はもうどこにもない。反対に「来なかったら、よかったな」なんて思いながら門に向かって歩いていたら、イングリッシュガーデンのとちゅうで人の後ろ姿を見かけた。
白い半そでブラウスとベージュのロングスカートの女の人だ。髪の毛はくるくるって巻いてバレッタで留めてる。
玲奈は最初、お客さんかなって思った。
だけど女の人は手に杖を持っていて、「いち、に。いち、に」って言いながらオーケストラの指揮者みたいにふってる。合わせて花が右、左、右、左、ってゆれた。その上で飛んでるトンボみたいな羽を持った男の子は、絵本で見た妖精にそっくりだ。
あんまりにもふしぎな光景だったから、玲奈はついじっと見てしまった。
そうしたら妖精の男の子が気がついて何か言ったみたい。女の人もふりかえって玲奈を見て、びっくりした顔をする。もしかしたら玲奈はジャマをしてしまったのかも。
とっても悪いことをした気持ちになって、玲奈はあわてておじぎをして、走って門から出た。呼び止められた気がしたけど、そのまま走り続けた。
きっと玲奈はあそこにいちゃいけなかった。だって玲奈は魔法使いでもなんでもない、ただの人間なんだもの。
それでも夜になったら星座盤を持って庭に出た。
もうこれはクセみたいになってる。
「よう」
今日もヒスイはホウキに乗って、キューイといっしょにやってきた。
「昼は悪かった。何か用事があったんじゃないのか?」
「用事ってわけじゃないよ。ちょっと……キレイな石を見てみたくなっただけ」
本当はなんでもいいからヒスイと話をしたかっただけだけど、言えなくって、適当にごまかした。ヒスイは「ん?」って顔をしたけど、とくに何も言わなかったからよかったって思った。
「それよりヒスイくんは何をしてるの?」
「界移動してきた魔法使いを探してるんだ」
「二か月くらい見つかってないっていう?」
「そう。昼よりも夜のほうが、気配が強くなってる気がするんだよ。だけどキューイもよく分からないみたいで困っててさ」
「キュウウ……」
しょんぼりするキューイは、玲奈がこの庭で最初に見た星座盤と同じ感じのしょんぼりさん。だから「大丈夫だよ!」って玲奈は言う。
「ちょっとしか見てないけど、そのちょっとの私がバッチリ安心できるくらいだもん! ヒスイくんとキューイなら、きっとどんな魔法使いを見つけられるよ!」
「キュ! キュキューイ!」
「……そっか。じゃあ、がんばってみる」
いつもみたいにカワイイ感じでヒスイが笑って、ちょっと考えた感じになって。
「オレ、お前に言いたいことがあったんだ」
思い切ったみたいな表情でそんなことを言いだしたから、玲奈はドキッとする。
「私に? 何?」
「実は……」
「ヒスイ!」
高い声がして、流れ星みたいに尾を引いたホウキがあらわれた。エルダだ。
オレンジのワンピースを着てるから、またがるんじゃなくてホウキに横座りしてる。
どうしてエルダまで来るんだろう。星空の庭でヒスイと会う時間は、玲奈にとって宝物だったのに。
「やっぱりここだったのね!」
「エルダ? どうしたんだ?」
「んー、ちょっと気になることがあって」
「もしかして何か見つけたのか?」
「そうねえ。見たような、見てないような……」
「どっちなんだよ」
「私はこの地の番人じゃないからうまく言えないわ。ねえ、いっしょに来てよ」
「しょうがないな」
ヒスイは玲奈の方へ顔を向ける。
「ごめん。話はまた今度な」
「う、うん」
「案内してくれ、エルダ」
「まかせて!」
飛んでいく瞬間、エルダはちらっと玲奈を見て、じまんするみたいにニヤって笑った。




