10.境の森の番人、ヒスイ
「ひとつずつ説明していく。さっきも言ったけど、オレは魔法使いなんだ」
ヒスイはホウキに乗って空を飛ぶし、ふしぎな呪文を使う。それはすごく魔法使いっぽいって玲奈は思う。
「カッコいいね!」
「別に、カッコいいってわけじゃない。オレの一族には魔力があるから。それだけだ」
「でも魔法が使えるんでしょ? カッコいいよ! さっきの変なクッションみたいなのも魔法使いって言ってたけど、ヒスイくんの方がずっとカッコいい」
玲奈が言うと、ヒスイはちょっとだけ笑った。
「クッションか。あいつは界移動で力を失ったからあの見た目になっただけで、本当の姿はちがうんだ」
「あ、それ、クッションも言ってたよ。今はとても小さくなってしまったけど、マイナスパワーを集めたら元に戻るって」
「だろうな。世界の移動にはすごく魔力を使うから、あれじゃ大したことはできなかったはずだ」
「うん。お母さんと子どもの足にはりついて、転ばせてたくらい」
「こっちの世界に来てすぐだと、そういう小さなイヤガラセくらいしかできない。でも力がたまれば、もっと大きなことができるようになるんだ」
「大きなことって、どんな?」
「たとえば、火で家を燃やしたり、風でいろんなものを吹き飛ばしたり。人にまぼろしを見せたり、心をあやつったり」
「えっ、こわい」
玲奈の背がぞくっとする。
「そっか、そうやってこの世界の支配者になるつもりなんだね」
「魔力のあるヤツらは、魔力のない人間をバカにしてるからな。この世界の人間は基本的に魔力なんて持ってないし、カンタンに支配できると思ってやって来るんだ」
「それを防ぐのがヒスイくんなんだね!」
「オレも魔法使いだし。何より、境の森の番人だからな」
「すごいすごい、すごーい!」
心の底から感激して拍手をおくったけど、玲奈はちょっと気になる。
「ねえ。ヒスイくんはちがうよね?」
「なにが?」
「魔法使いだけど、魔力のない人間をバカにしてないよね?」
「もしもバカにしてたら、境の森の番人じゃなくて世界の支配者やってるよ」
「そっか」
それにヒスイは一匹狼だから、世界を支配するなんてメンドウだ、って思ってるのかもしれない。
「どうして笑ってるんだ?」
「なんでもないよ。ねえ、境の森の番人ってなに?」
「質問多いな」
「だって分かんないことだらけだもん。森っていうのは、ヒスイくんの家の後ろにある大きな森のことだよね?」
「そう。あの森は別の世界との“境”なんだ」
「別の世界との境、かあ。とってもワクワクする言葉だね、キューイ?」
「キュキュ、キュキューイ!」
「やっぱりそう思うよね!」
「キュ!」
玲奈とキューイがまた指と手で握手もどきをしていると、ヒスイがあきれたみたいに言う。
「なんで通じてるんだ、お前ら」
「だって私とキューイはもう仲よしだもん。ねー!」
「キュー!」
「あははは! かーわいい!」
「……なあ、麦茶まだいるか?」
「うん、もらう!」
麦茶をコップにそそぐと、ヒスイは立ち上がって、
「用を思い出した」
そう言い残して、奥へ行ってしまった。




