優男登場
それは昨日の昼頃。
野暮用を済ませ、ポカリ街のギルドへと向かった時の事だった。
「おっ! やっときたかテッドちゃんよぉ! 今日は遅いじゃないのぉ! お疲れサマーソルト! からのソルトぶっかけそいやさァ!」
ギルドのドアを開けて早々、べろべろに酔った酒カスの1人が下手糞な宙返りをしながら俺に塩を投げつけてきた。心底意味不明な上、普通に不愉快だったので、雑魚の酒カスが死なない程度に裏拳を叩き込んだ。
「ぎょにゅっ!?」
短くてキモい断末魔と共に、壁に叩きつけられる酒カス。俺はそれを一瞥し、ステラたちが座っているテーブルに向かう。
「あっ来ましたねテッドさん! 今日のおすすめランチは鰻重ですよ! 鰻重!」
テーブルについて早々、ステラが子犬の様にキャンキャン吠えながら俺にくっ付いてきた。鬱陶しいのでステラの首根っこを掴んでそのまま軽く投げ飛ばす。しかし、当の投げ飛ばされたステラは何故は高らかに笑っていた。
「はっはっは! 甘いですねテッドさん! その程度の投げ技は私には通用しませんよ! ほっ! はっ! いやっひぃーーー!」
ステラは投げ飛ばされた勢いを殺すように体を捻り、着地と同時に側転した後、鮮やかなバク転を披露して見せた。そして、美しい姿勢のまま床に着地したステラは……
「ぎゃあああっーーーーーー!!?」
まるで落とし穴のように抜けた床と共に、ギルドの床下へと落ちていった。
「どうやら床の一部が腐っていたようだな。ドンマイステラ」
「まったく。初っ端から何してんのアンタたちは」
俺たちのやり取りを一部始終見ていたジャスパーが呆れて溜息をついた。
「別に。ただじゃれてただけだ」
俺はステラがいなくなった事で空いた席に座り、通りがかった受付嬢に声を掛けた。
「いつものカレー1つ」
「はい畏まりました!」
「床ぶっ壊しといて平然とカレー頼むアンタもどうかと思うけど、それに天真爛漫な笑みで応えるアンタもどうかしてるわよ受付嬢さん」
呆れ顔で珍しくまともな事を口にするジャスパー。それを聞いた受付嬢は、再び満面の笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。修繕費はいつも通りテッドさんの報酬から天引きしておきますので!」
「それは困ったな。おいジャスパー。今回は俺とお前の折半という事でいいか?」
「黙りなさい戦犯」
ぴしゃりと言い放ち、俺の軽口を封殺するジャスパー。そんなあまりにもいつも通りの俺たちのやり取りに、同じテーブルのリンリン、スカーレット、ドンファンは微塵も興味を示す事なく、全く違う話に興じていた。
「さてカレーを食ったら出るとするか。今日は──」
俺がそう言いかけた、その直後だった。この街で感じた事のない気配がいくつか、このギルドに入って来たのを感じた。気配の元へ目を向けると、そこには金髪イケメンの優男を筆頭にした数人ほどが、ステラが落ちた穴の前に立っていた。
「き、君! 大丈夫かい!?」
金髪優男は穴に向かって手を差し伸べ、ゆっくりとステラを引き上げた。
「ぐっ……ぐすん。ありがとうございますイケメンのお兄さん……。私、もう死ぬかと思いましたあ゛ぁ~」
優男に引き上げられたステラの顔は涙でぐずぐずになっていた。中々面白い顔だが、発言は随分と大袈裟だな。たかだかギルドの床下に落ちたくらいで死ぬわけがないだろ。
「一体何があったんだい?」
金髪は深刻な表情を浮かべながら優しくそう聞くと、ステラは左手で涙を拭いながら、右手で俺を指さした。
「……あそこにいる人相の悪い男にやられました」
それを聞いた優男は、俺たちを力強く睨みつけてきた。
何やら久々に面倒な事に巻き込まれそうな、そんな予感がした。
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