表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/77


もうシャーリーには関わらない方がいいだろう。


前にある鏡にはストロベリーブラウンの髪と薄いピンク色の瞳が映っている。

日本人の黒目と黒髪ではないことで違和感を覚える。

今は化粧をしていないが、目鼻立ちははっきりしていてそばかすは可愛らしい。

ディアンヌはそのままでも十分、可愛らしい。

ドレスや髪型さえちゃんと選べば、誰かに見初めてもらえるくらい魅力的だと思う。

今は真逆の雰囲気のドレスや高すぎるヒールのせいで、本来のよさも消されてしまったが。

前世の記憶が戻ったばかりだからか、アン視点で物事を見てしまう。

ディアンヌは今すぐにパーティー会場に戻らなければと思っていた。

パーティーが始まった時には日が沈んで空がオレンジ色だったのに、今は真っ暗で空には月や星が見えたからだ。

時間がない、それだけは自然と理解できた。

簡単に髪を整えて、ドレスの裾を持ち上げて部屋を出る。


すると、目の前に小さな男の子が心細そうに立っていた。

心細そうに服の裾を握っている少年は、ホワイトシルバーの髪にライトブルーの潤んだ瞳をこちらに向けている。


(ま、まさかこの世界には天使がいるの……?)


そう思うのも無理はないほどに可愛らしい少年だ。

しかし今は家族の運命がかかっている。

このままでは何の成果もないままメリーティ男爵領に帰らなければならなくなってしまう。

ディアンヌはパーティー会場へ足を進めようと一歩踏み出す。

けれど泣きそうになっている少年が気になって仕方ない。

何より弟たちと姿が重なってしまう。


(……この子を放ってパーティーに戻れないわ!)


ディアンヌは少年を怖がらせないようにと、ハイヒールを脱いで視線を合わせるように屈む。



「君、どうしたの?」


「……」


「もしかして迷子かな?」


「……」



少年はディアンヌの声に何も返事をしない。


(ライ、ルイ、レイと同じ歳くらいかしら?)


答えてくれるのを待っていたが、少年の目からはポロリと涙がこぼれ落ちる。

困惑したディアンヌは額に触れると、先ほどぶつかったところが大きなコブになっていた。

どうにかして不安を取り除きたいと思い、ディアンヌは少年に声をかける。



「あのね、さっきこのドレスの裾を踏んじゃって頭ぶつけて転んじゃったの。見て見て! 大きなたんこぶできているでしょう?」



ディアンヌは前髪を持ち上げて見せる。

どれだけ強くぶつけたのだろうか。

額がボコンと大きく膨らんでいた。

すると少年はディアンヌのたんこぶを見つめながら目を丸くしている。



「……そこ、痛いの?」



少年が口を開いて、ディアンヌに問いかける。

やっと少年が話してくれたことに安堵していた。



「ふふっ、もう大丈夫だよ!」


「……そっか」



少し照れながらそう言った少年は、天使そのものだ。

あまりの可愛さに、にやけてしまいそうなのを堪えていた。

少しはディアンヌに対する警戒を解いてくれたのかもしれない。



「わたしはディアンヌ。あなたの名前を教えてくれる?」


「……ピーター」



しかし名前のことを問いかけた途端、ピーターの顔色は暗くなってしまう。

話題を変えようとディアンヌは誰を探しているのか、さりげなく問いかける。



「ピーターは誰かを待っているの?」


「うん……リュドを探しているんだ」


「……リュド?」



ディアンヌが首を傾けながら考えていると、再びピーターの目に涙が浮かぶ。



「ピーター、大丈夫?」



ディアンヌは無意識に腕を広げてしまう。

しかし、ピーターは何のことかわからないようだ。

とりあえずいつもの癖で抱きしめようと思ったが、逆に警戒されてしまったようだ。

ディアンヌとアンの記憶が混ざり合ったばかりだからか、馴れ馴れしい態度になってしまう。


反省しつつも腕を下げると、ピーターが控えめにピタリと体を寄せてくるではないか。

上目遣いでこちらの様子を確認してくるピーターの可愛さに、ディアンヌは心臓を撃ち抜かれていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] もう!もうね!ピーターに星五つ! [一言] おじさんも、見知らぬ子供を愛でたい時があります。昼下がりの公園で、ニパーと笑って寄ってくる幼女!でもでも、下手な声掛けは事件になっちゃうので、お…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ