④①
一方、ディアンヌはリュドヴィックの三日間の休暇と聞いて、あることを思っていた。
(メリーティー男爵家に、色々と自分のものを取りに行きたいな……)
必要なものはなんでも買い揃えてくれると聞いてはいたが、まったく自分のものがないとなると落ち着かない。
それにパーティーに出かけてからというもの、両親や弟たちにも会っていないことが気になっていた。
故に、この機に会って話ができたらと思っていたのだ。
(足も治ったし、馬を借りられないかしら……三日以内に戻ってくれば問題ないわよね)
こんなに贅沢な生活をさせてもらっているのに、帰りたいと言うのは失礼かと思った。
やっぱり図々しいかもしれないと、ディアンヌが顔を上げた時だった。
「ディアンヌ……もしかしてリュドのこと嫌いになっちゃったの?」
「……え?」
ピーターの表情が強張っているのを見て、ディアンヌは首を傾げた。
どうしてリュドヴィックを嫌いになるのか理解できなかったからだ。
「二週間もディアンヌを放っておいたから、リュドのこと嫌いになって捨てちゃうんでしょ?」
「…………っ!?」
「リュドがディアンヌのことを大切にしなかったからこんなことに……」
ピーターの恨めしそうな視線に、リュドヴィックの肩が僅かに揺れる。
バツの悪そうな顔をしているリュドヴィックに、ピーターが責めるように怒っている。
そんな二人の間でディアンヌは戸惑っていた。
「……ディアンヌ、すまない」
ピーターの言葉を素直に受け取ってしまったためか、リュドヴィックの表情がどんどんと暗くなる。
素直に謝るリュドヴィックにも驚きだ。
「あの、違いますから……!」
「挽回のチャンスをくれないか?」
ディアンヌが思ってもいない方向に話がズレていってしまう。
このままではいけないとディアンヌは口を開く。
「お二人とも聞いてください。違うんです!」
「……?」
「メリーティー男爵邸に荷物を取りに行きたくて……」
その言葉を聞いて、ピーターが涙ぐみながらディアンヌに抱きついた。
ディアンヌは理由がない限り、ここを離れるつもりはない。
それこそリュドヴィックに終わりを告げられない限りは。
「どこにも行かないで……ディアンヌ」
「どこにもいかないわ。ピーターのそばにいるから安心してね」
可愛らしいピーターの頭を撫でていると、リュドヴィックがあることを提案してくれた。
「それなら皆でメリーティー男爵領に行こう。メリーティー男爵への挨拶もまだだったからな」
「いいんですか!?」
「ああ、忙しないが三日で帰って来られるはずだ」
「本当ですか!? ありがとうございます、リュドヴィック様」
ディアンヌはリュドヴィックの提案が嬉しくてたまらなかった。
ピーターもベルトルテ公爵邸から出て、出かけられるのを喜んでくれた。
リュドヴィックは早馬でメリーティー男爵邸にディアンヌの荷物を取りに行くことを伝える。
それからディアンヌは明るい気持ちのまま、ピーターと話していた。
ディアンヌは今日、足が治ったためピーターと中庭で遊びながら家族や男爵領の話をしていた。
するとピーターは目を輝かせて、早く行きたいとはしゃいでいる。
たくさん遊んだ後、夕食の時間になる。
料理人たちは、ディアンヌの料理を参考にしてかシンプルな家庭料理を出してくれたようだ。
ピーターは嬉しそうに皿をピカピカにしていき、おかわりまでしている姿を見て、料理人たちは泣いて喜んでいた。
やはり皆もピーターが少食なことが気になっていたのだろう。
ディアンヌは手を握られながらお礼を言われた。
遊び疲れたのかピーターはエヴァとマリアと共に「また明日」と言って、自分から部屋に戻っていく。
ディアンヌがピーターを見送っているとリュドヴィックから声が掛かる。