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ディアンヌはシャーリーに背を押されるように部屋を出る。


(このドレス、わたしには絶対に似合わないわ……)


そんな気持ちを見透かすように、シャーリーに「パーティーには絶対にそのドレスを着てきてね」と言われてしまう。

試着までさせられたが、裾が長く、タイトなドレスはディアンヌにまったく似合っていない。

チグハグ感は拭えなかった。


(シャーリーが親切にしてくれたんだもの。ちゃんと着ないと……)


シャーリーはディアンヌを見てずっと腹を抱えて小さく震えていたが、気づかないフリをしていた。



「あとは、このパーティーは婚約者を見つけるのにもってこいよ! 誰でも参加できるからあなたでも大丈夫」



シャーリーから渡されたのは真っ黒な封筒に金色の文字。

明らかに普通の招待状ではないが、窮地に陥っていたディアンヌにとってはありがたく思えた。



「シャーリー、何から何まで本当にありがとう」


「あはは、いいのよ……がんばっていい人を見つけてねぇ?」



シャーリーにお茶でもどうかと誘われたディアンヌだったが、これ以上ここにいたくはなかった。

さすがのディアンヌも、シャーリーに馬鹿にされているのだとわかる。

だがドレスを貸してくれたり、いいパーティーを紹介してくれたりと、優しい部分も残っているのだと言い聞かせていた。

ディアンヌは無理やり笑顔を作っていた。


ディアンヌが「弟たちの面倒を見ないといけないから、すぐに帰らなくちゃ……」と言うと、シャーリーはまた吹き出すように笑っていた。

その後ろでは、カシス伯爵邸の侍女たちも笑うのを堪えている。


なんとか領地を建て直して、領民たちを守ろうとする両親の代わりに、家のことはすべてディアンヌがやっていた。

カシス伯爵邸の玄関まで辿り着いて立派な扉が開く。



「あなた何で来たの? 馬車はどこ?」


「馬車は壊れてしまったから、馬に乗ってきたのよ」


「ブッ、アハッ! 最悪じゃない、本当に貴族なの!? 信じられないっ」


「……」


「ああ、貴族じゃなくなりそうなんでしたっけ! あははっ」



ついに隠しもせずに笑い出したシャーリーに、ディアンヌは俯くことしかできなかった。

しかし今、メリーティー男爵家に馬車を新しく買ったり直すお金はない。

ディアンヌは笑みを浮かべながらも、モヤモヤする気持ちを必死に押さえていた。

そして表向きは親切にしてくれたシャーリーにお礼を言うために口を開く。



「ドレスや靴を貸してくれてありがとう、シャーリー。本当に助かったわ」


「いいのよ! フフッ、がんばってねぇ」



クスクスと響く笑い声は居心地のいいものではない。

もうシャーリーには何も頼まない方がいいだろう。

ディアンヌは今回の件でシャーリーの本音を垣間見たような気がした。

彼女はディアンヌを見下しているのだろう。

変わってしまった友人に大きなショックを受けつつも、借りたドレスをギュッと握りしめた。


(馬鹿にされても仕方ないわよね……こうしてドレスを貸してくれただけありがたいと思わないと)


ディアンヌはなんとか気持ちを立て直してから、心からの笑顔を作る。

シャーリーに深々とお辞儀して「ありがとう、シャーリー。必ず返すから!」と言って馬に乗った。

シャーリーは小さく振っていた手をすぐに下ろした。

ディアンヌを見送りながら、シャーリーは呟くように言った。



「あの子の、ああいうところが大っ嫌い……っ!」




* * *



メリーティー男爵領に帰る途中、ディアンヌの目からはポロリと涙が溢れた。

シャーリーと自分の境遇を嫌でも比べてしまう。

どうして自分ばかりこんなに苦労するのか、そう思ってしまうことが嫌だった。

今、ディアンヌは不安で仕方がない。

家族の未来がどうなってしまうのか、こんな自分が本当に嫁ぐことができるのか。

考えても考えても答えは見つからない。


(弱気になってはだめよ。わたしだけでも前を向かないと……!)


大好きな家族のためならなんだってできるはず。

そう言い聞かせながら、ディアンヌは乱暴に涙を拭った。


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