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第39話 自業自得

 ビクンビクンと体を跳ねさせ、エレナがその場にへたり込んでいる。


「今回は範囲だけのつもりで、魔法としてははったりだったんだけどなぁ」


「はっはっはっはっ」


 過呼吸気味なエレナからは、先ほどまでの威勢のよさなど微塵も感じられない。やっと生きているような、弱々しさだった。


 イリヤさんとの戦いで、僕は威力だけ全力の精神治癒魔法を使った。


 イリヤさんの状態では、回復という形で精神の治癒が行われたが、目の前のエレナに関してはそうではない。


 アレを見て、自分に対して起こる現象を想像して、実際に使われたことで起きた脳のショック。自らの心が引き起こしただけの幻覚症状だ。


「精神系魔法は相手の心の在り方に大きく左右される。そんな話だったけど、まさしく自分がその状況に陥ってみて、どうかな?」


「はぁはぁはぁはぁ。ああああああ!」


 僕の質問に返事をする代わりに、エレナの体から、メキメキッミシミシッと、聞こえてはならない類の音が聞こえてくる。


 またしても僕の魔法を合図に戻ってきたファルナルさんだった。


「何か聞き出そうとしていたところだったか?」


 エレナから軽く足を上げながらファルナルさんが聞いてきた。


「そんなところです」


「しかしこんな女、生かしておいても価値などないじゃろう。ワシが殺していいよな」


 イリヤさんの件もあり、どうやらファルナルさんはかなり気が経っているらしい。


 僕はそんなファルナルさんにゆったりと首を左右に振った。


「なぜだ! 同じ魔法を使えるから同情しているのか!」


「違いますよ。いずれ死にます。人なんですから」


 死という言葉にビクッと反応して、エレナはギリギリとぎこちなく僕の方へと首を向けてきた。


「いや! いや! 嫌だ! 死にたくない死にたくない死にたくない! 殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで!」


 必死になってもがきながら、エレナはファルナルさんの足から逃れようとバタバタし出した。不毛な大地を泳ぐように腕を動かしている。だが、身体中の骨が折れているらしく、まともに動かせないようで、見るからに動きはぎこちない。


 そんな醜い動きを見て、ファルナルさんも我慢ならないらしく、騒ぐエレナの体をグリグリと足でこね出した。


「ああっ! ああああああ!」


「さんざん人を殺しておいて、自分が死ぬとなってはこれだ。こんな人間、殺した方がこの世界のためとなるだろう」


「それは否定しません」


「それなら」


 僕はファルナルさんの言葉を遮るように手を突き出して、またゆっくりと首を左右に振ってみせた。


「なぜだ。なぜなんだライト。お前は聖人にでもなろうとしているのか?」


「違いますよ。そんなんじゃないです。僕が気にしているのは、ファルナルさんが悪役にさせられ、黒幕の思惑通り、国同士の争いに発展することです」


「……」


 怒りで我を忘れていたのか、ファルナルさんはそこで苦虫を噛み潰したような顔をしつつもエレナのことを解放した。


「や、やった」


 エレナはそんな隙を見逃さず、腕だけで僕の足元まで移動してくる。


「助けて、助けてくれ。ライトくんならあたしをなんとかできるでしょ。なんてったってライトくんなんだから」


「ライトという名前に対してなにやら知ってそうですね」


「……それは」


 ごまかすようにエレナは目をそらした。


 プレラ様が僕の名前を呼んだ時から、エレナの反応はおかしかった。


 まるで、僕のことを知っているかのように、僕の名前を咀嚼していた。だが、そんな反応はあまり考えにくい。村が襲われた段階で村にいなかったというのに、僕のことは知っていた。そんな短い期間で村を去った人間がたまたまいただろうか。


 いたかもしれない。だが、僕の記憶にはない。


「はあ……」


 僕はその場にしゃがみ込み、エレナと視線を合わせる。


「エレナ。痛みは好きか?」


「嫌い! 何よ。助けてくれないの? 今すぐこんな茶番から解放してよ!」


「そうか、わかった。決まりだ」


 意味がわからないと言いたげなエレナの額を僕は人差し指でついた。


「あうっうあ、ああっ、あっ、あああああ!」


 瞬間、エレナはその場で転げ回るようにしながら額を押さえて苦しみ出した。


「ライト、なにをした」


「エレナは今から僕の奴隷です。これは単に頭痛ですよ。と言っても、痛みを錯覚しているだけですけどね。体を壊さない程度の苦しみってところです。それで、ファルナルさんは納得できないかもしれませんが、これを落とし所としてもらえませんかね」


「いやあああああ。痛い痛い痛い! 割れる。頭が割れるうううううう!」


 目を血走らせ、涙を流しながらもその場で額を押さえることしかできないエレナを見て、ファルナルさんは流石に同情の視線を向けているようだった。


「今の一瞬で精神を掌握したというわけか」


「ずっと一度は試してみたかったんですよ。ただ、一度も使ってきませんでした。こんなの、善人に対して行えば、僕の首が何個あっても詫びることなんてできませんからね」


「全く、精神系魔法はここまでできるのか」


「やめろ、ふざけやがって。完結したみたいに」


「黙れ、今はお前の話を聞いてない。静かしてろ」


「は? 言うことなんて聞くか、ごめんなさいごめんなさい」


 前後の文脈を無視してエレナは謝ってから口を閉ざした。


 それでも続く痛みは歯を食いしばりながら耐えているようだ。


 これが精神を掌握したということ。僕からの命令は絶対だ。


「さあ、話は後日聞くことにして、ここはお開きにしましょうか」

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