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第35話 目を覚ますドラゴン

 ドラゴンにかかっていた精神系魔法を治してから丸一日が経過した。


 意図せず野営になってしまったが、野宿自体は慣れた様子のプレラ様に教えられ、結局一夜を森で過ごしてしまった。


 なんだか、魔法研究局を辞めてから、プレラ様に頼りっぱなしな気がする……。


 それはさておき、驚いたことに、むくり、とドラゴンが顔を起こした。


「ワシは、いったい……」


 困惑したような言葉を口にするドラゴンは、戦闘時とは比べ物にならないほど流暢に人の言葉を話していた。


「目を覚ましましたか。えっと、ドラゴンさん」


「お主がワシを助けた人間か」


「はい。まあ、一応」


 ドラゴンさんの方も、驚いたように目を丸くしていた。


 それはそうだろう、僕みたいな男、今は少女か。に助けられたとなれば、ドラゴンなら驚く。


「名をなんと申す」


「ライト・ミンドラです」


「ライトか。恩人に対しては名乗らなくてはな」


 ドラゴンさんは大袈裟に咳払いすると、倒れたままだった体を起こした。


「ワシはファルナル。ドラゴンじゃ。正確には、ディスバイン魔王国幹部であり、魔王様の愛娘でもあるイリヤ・ドーソート・ローゼンバーグ様専属のドラゴンじゃな」


「えぇっと……?」


 なんか情報量多いな。


 整理すると、ディスバイン魔王国のドラゴンで、魔王の娘のドラゴンってことか?


「ということは、あなたはイリヤちゃんのドラゴンだったんですか!」


 先ほどの情報で十分だったらしく、プレラ様はいち早く反応を示した。


 イリヤというのは、魔王様の愛娘だっけか。イリヤちゃん、なんて随分と親しげな感じだけど……。


「これは、プレラ姫ではありませんか。大変失礼いたしました。ご挨拶が遅れてしまい。どうかご容赦ください」


 二人の様子をうかがっていると、ドラゴンのファルナルさんがプレラ様に頭を下げた。


 力関係がよくわからないが、面識があるというのは本当だったようだ。


「いいのですよ」


「ライトも済まない。そして、そう固くならないでくれ。恩人に対して横柄な態度を取るのは、言語道断だと言われておるからな」


「なるほどなるほど」


 とはいえ、喋るドラゴンというか、そもそもドラゴンを実際に見るのは初めてで、緊張せずにはいられない。


 何せドラゴンといえば、エルフとどっちがすごいかは知らないが、長寿で知られていたはずだ。人間なんかとは生きた年月が違う。


 冷静となった今では、存在の凄みだけで圧倒されるほどで、話すだけで空気が変わったと錯覚してしまう。


「固くならなくてよいというのはあなたもですよ。ファルナル様。わたくしはもう姫ではありません」


「なんと、王位を継承されたということでしたか」


「いいえ。そうではなく、国を追われたのです」


「国を追われた!?」


 喋り口調に似合わず、素っ頓狂な声を出すドラゴンに、僕は思わずびくりとしてしまった。


「失敬した。しかし、急いでる故にその事については深掘り致しません」


「急いでいるのですか?」


「はい。おぼろげな記憶ながら恥ずかしいところを見せたと思いますが、その原因とも言えるものでございます」


「原因、ですか」


「そうです。ワシとしたことが人に遅れを取りまして」


「イリヤちゃんがいても、ですか」


「ええ。イリヤ様のお目付役も任されていたたワシとしてはとんだミスをしでかしたものです」


 そんなことをドラゴンがやるのか。


 しかし、未だ会話においていかれているような気がする。


 僕はそのイリヤ様とやらのことも知らないし、第一ディスバイン魔王国がどんな国かも、実のところ詳しくない。


 こうなると、僕としては色々と深掘りの質問をぶつけたいところなのだが、こちらだってグダグダしている時間もない。急ぎでないにしろ、まだ解決していないとなるとこれで万事解決とはいかないはずだ。


 それに、怪しげな情報が出てきてしまったからには、このまま放置というわけにはいかない。


「ファルナルさん。人にやられたって、どんなヤツですか?」


「ライト、お主を悪く言うつもりはないが、お主のような精神操作に長けたヤツじゃったよ。そんな女にやられた」


「女……それは、魔族の女という意味ですか?」


「いいや。人間じゃよ。言っただろう。人に遅れを取ったと」


「聞きましたけど、でも、そんなヤツが……?」


 僕が最後の一人。と驕っていたつもりはないけれど、精神系魔法つかいに他に生き残りがいるとは考えづらい。


 一般には普及していない魔法なのだから、ファルナルさんの話が本当なら、おそらくは同郷ということになるのだと思う。


 となると可能性としては、あの一件の時にはすでに村を出ていた誰か、ってことになるのか。


 言われてみれば、まるで同じ師に仰いでいたかのような、魔法の類似性、反応のよさはあった。


 本来ならばありえない。もう僕のいた村はなくなっているのだから。でも、実際にガルラの時と同じ残滓だった。


 無意識のうちに、体がぶるりと震えた。感じたことのない気持ち悪さに思わず体が身構えてしまう。


「ワシだって驚いたものさ。武器や何かが飛んできたなら、悠々と構え、それに対することもできただろう。じゃが、相手が使ったのは見えない武器。精神操作の魔法じゃった。相手の出方をうかがっているうちに、気づけば相手の術中だったというわけじゃ」


「それは確かに、正しい使い方の一つかもしれませんね。相手の準備の最中に自分の準備を終わらせる」


「そうであろう? あれは危険じゃよ。ただの魔法ならば、もっとわかりやすく、攻撃意思を感じられる。だからこそ対処もできる。じゃが、心の内に潜り込まれては敵わん。なんといっても、回避できないのじゃからな」


「ファルナルさんでもですか」


「無理じゃよ。精神操作魔法はかわせるものではない。使い手なら知っておろう」


「あまり人に対して使わないんですけどね」


「そうか? たしかに、扱える人間を初めて見たな。魔物のそれとは練度が違った。そして、このままでは姫が危ない」


「姫?」


 僕はプレラ様の方を見やった。しかし、プレラ様は僕の視線を受けても首をかしげるだけだった。


「いや、語弊があった。プレラ姫ではない。我が主、イリヤ様のことじゃ。ディスバイン王国の姫様が危ないんじゃ」

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