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豆州から飛び立つ  作者: 練習中
1487年〜
9/58

守護大名への道

誤字報告ありがとうございます。

そしてお待たせしました。

先週まで仕事が忙しかったことに加え、先が思いつかない&文章が書けなくなっておりました。申し訳ございません。



◾︎伊豆国堀越御所


 数日後。

 御所には伊豆の主だった国衆が集められた。


 これ程多くの国人が顔を合わせるのは正月くらいなものだ。もう少しで正月ではあるけれど。

 堀越御所と国衆の関係は良く言えば従属関係、悪く言えば足利の権威に従っているに過ぎない。


「今日集まってもらったのはーー」


 そんな父の言葉から始まる最近の動向。駿河の一部を獲得したこと、その戦で活躍した長子の俺を正式な跡継ぎとすること、出陣している間に継母が清童子を勝手に京に送り出したこと。


 彼らにとってはその一つ一つが現在の体制の変化を意味する。

 堀越御所が勢力を伸ばすことは一見良いことのように見えるだろう。世継ぎが初陣で切り取ったなら尚更伊豆国の将来は明るい。

 しかし、堀越御所が力を持てば彼らを武力で圧迫するだろうし、後継が決まれば近年は比較的落ち着いていた御所の方針も変わる。今回の駿河侵攻がその最たる例だ。

 良い主君であるのならば仕えても良いのだが、権威や力を持った武家というものは得てして横暴である。

 そして、この度は御所内部に裏切り者がいた。それも御所の正室。

 国衆に堀越御所は頼りにならない、そう印象付けるには十分だったのだが…。

 

 そう思われることを見越して呼んだわけだが、広間の空気は酷く重い。原因は叛意ではない。もしそうであるならばもっとピリピリとした空気であるはずだ。

 ここにあるのはある種の恐怖心、それがここにいる者の心を押さえ付けている。

 昔から訳の分からぬことをする長子であったが、初陣でこれ程の武功を上げるとは。事実、この場の多くの者がこのように考えていた。


「して左馬頭から皆の者に聞きたいことがあるそうだ」


 あらかた語り終えた父が本題を切り出した。場の緊張感が最高潮に達する。


「そなたらはこの狭い伊豆国で何を目指しておるのだ?」


 強い言葉で訴えかける。彼らのプライドを刺激することでこれからの身の振り方について真剣に考えてもらわなければならないからだ。自分に集まる視線が冷たくなるのを感じる。


「家の維持か?所領の保持か?それとも私腹を肥やすことか?」


「そのようなことはありませぬ!」

 

 俺の言葉には多くの国人が表情を変化させる。中には立ち上がった者までいた。声を上げたのもそんな1人だった。最初の1人に続くように続々と新たな国人衆が殺気立った怒鳴り声を上げていく。騒がしいったらありゃしない。

 馬鹿にされたと思ったか、もしくは心当たりがあるのか。後者は顔を憶えたぞ。

 早速引っかかってくれてありがたい。


「ではなんだ。自領に引き篭っていれば満足か?」

 

 伊豆国は堀越御所のある平野を除きほとんが山間部。海岸線に領地を持つ者でさえ、山と海に挟まれた限られた土地を治めるに過ぎない。

 あまりにも各々の所領が孤立しているせいで所領の境界を巡った小競り合いすら俺が生まれてから片手で数えられる程度しか聞かない。


「お前たちが誠の武士であるならば後の世に名が残る武功を上げたいと思わないのか?」

 


 これには騒いでいた者も口を噤む。

 このような反応を見せるのは彼ら伊豆国衆がここ30年に渡り、ある不満を抱え続けてきたことに起因する。

 それは不満とは自らの存在意義の証明だ。

 伊豆国衆たちは堀越御所が成立してからというもの戦という戦をしたことがない。

 御所が赴任し、いざ関東攻めとなれば宛にしていた援軍は他所に向かい、援軍が揃えば京の御所から静止が入り戦は起きず。

 例外は古河御所が堀越御所に攻め寄せた時と今川家の家督争いに介入した時くらいだろうか。


「先の駿河攻めで活躍した執事上杉治部少輔や富永四郎左衛門、鈴木兵庫助等には駿河攻めで獲得した地の抑えを任せている」


 口にした3人は以前から俺に従っていた者の代表格になる。彼らを重用しているとアピールすることで実現可能性のある利をチラつかせつつ、国人衆の俺に与することへの心理的ハードルを下げることを意図した宣伝だ。

 

「名をあげたいという者は話を聞く価値があると思うが皆は如何かな?」


 彼らに理不尽な要求はしない。己の所領に拘らなくなれさえすれば良いのだ。


 まずは国人衆の説得からだ。



○ ○ ○



◾︎伊豆国三島城


「駿東郡葛山城城主葛山備中守維貞と申します。左馬頭様の臣下となるべく馳せ参じました」


 そう言って頭を下げるのは葛山備中守。この葛山備中守は三島城の北方、現在の裾野市辺りを治めている国人である。

 幕府の奉公衆でもあるので元々堀越御所との関係は深いのだが、堀越御所が都鄙和睦により伊豆国に完全に定着したことにより近年は堀越御所の影響力が強まっていた。そこに俺が駿東郡から京の都や駿河国の国府へ繋がる道を分断したことで今回の臣下の礼に至ったというわけだ。


「それは条件を呑むという意味で良いのだな?」


「はっ。以後は左馬頭様の御指図に従います」


 条件とは兵の扱いと税についてである。

 前者は常備兵化、後者は関所の廃止に留まる。この時代の武士にとっては有り得ない施策だろう。しかし、今(1487年)やれば種子島の伝来くらいのアドバンテージを得られるだろう。


 常備兵の保持や関所廃止による費用のマイナスは石鹸等で補えるように計算しているが、未知のものに触れるのは得てして恐れるものだ。だから強制はしてこなかった。

 これは伊豆の国人衆も同様だ。

 

「ならばよい。備中守の臣従を認めよう」


 

守護と守護大名と戦国大名。それぞれ微妙なニュアンスの違いで分けたいと思います。

守護→幕府の役職

守護大名→上記に加え在地勢力を取り込んだ守護のこと


次回の投稿に向けて頑張りたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] ようやく守護大名か。 今更ですが、主人公の飛躍と葛山が味方になると言う事は、この世界の新九郎殿はどうなる事やら。
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