富士の麓の父と子と邪魔者
後半詰め込みすぎて自分でも何を書いているか分からなくなりました。
◾︎駿河国富士郡善徳寺
「父上。自ら援軍を率いての出陣、誠にありがとうございます」
「そなたに進軍の許可をしたのはこの父。それに子の尻拭いをするのが親の務めというものであろう」
そう威厳のある雰囲気で笑い声をあげる父上に頭を下げる。出陣前と様子が随分変わられた。
以前から変わりつつあったが、御所としての威厳というか、覇気を纏うようになったといえば良いか。
「それにしても左馬頭、ようやった!初陣にてこれだけの城を落とすとは我が跡継ぎながらこれほど喜ばしいことはない!」
「あ、ありがとうございます…」
褒められて思わず語尾が震えてしまった。幼い者に対する褒め言葉ではなく、俺を一人の大人と認めた上での称賛の言葉がこんなにも嬉しいとは。
それに跡継ぎとして認めてくれているとは。うん?跡継ぎ?
この時になってようやく周囲の家臣たちのざわめきに気が付いた。
「父上、今なんと…」
「跡継ぎのことか?そなたは以前から頑張っていたではないか。それに合わせてこの度の手柄。そして母は上杉の者。上に立つ者としての器も身分も申し分ない。そなたが次の堀越御所に相応しい。儂がそう思ったのだ」
なんと。この俺が次期堀越御所に決まった、のか?
「…身に余る光栄にございます」
「どうした左馬頭。涙など流して」
気付けば涙を流していた。
「これで母上の願いを叶えられると思うと、自然と涙が…」
この身体は生みの親の願いを叶えられることに打ち震えているが、前世の記憶の混じる魂は母には申し訳ないと思いつつも茶々丸廃嫡の可能性を大きく排除できた達成感に震えている。まだ問題は残されているがかなり楽になったのではないだろうか。
「そなたは立派な孝行息子だ。儂など早くに寺に入れられたために両親の顔すらろくに覚えていないのだ」
父方の祖父は誰もが知っている万人恐怖の足利義教。側室の子だった父の立場からしたら将軍の実父に会えなくてもおかしくはない。
祖母は幕臣の娘だとか。祖母の血縁は確か父の奉公衆にいる斎藤何とかさんだった気がする。奉公衆は敵対気味だから形式的な場でしか言葉を交わしたことがない。
「父の期待に応えられるよう精一杯励みます!」
これからも頑張ろう。そんな俺個人としてはいい感じで終わりそうな会話に横から邪魔が入る。
「お待ちをください!」
声の主は奉公衆の者だった。誰だったかな。見たことはあるはずなのだが。風魔衆を召し抱えてから1度家臣全員を1年かけて洗ってもらったことがある。覚えていないということは裏を取っても大したことができない人物だろうと思ったのだろう。
父に促され続きを口にし始めた。
「御所様の御正室は京の大御所様がお決めになられた権大納言武者小路様の娘であり、嫡子となるべきは清童子様または潤童子様にございます」
一難去ってまた一難。元服をしたり河東を攻め取ったり他多数。それだけ史実と乖離した動きをしてきたのになんでこの人は史実ルートに戻そうとするのか。
「では、そなたはこの京の御所から左馬頭の官位をいただいた左馬頭を寺に入れろというのか?」
室町幕府成立後の足利家の慣習といえば世継ぎ以外は寺へGOだと思っている。鎌倉時代には母が北条の出ではない庶長子が分家して今の細川や今川といった足利一門を形成してきた歴史がある。昔は緩かったのかもしれない。
室町時代に入っても尊氏の嫌っていたのかもしれない庶子の直冬がいた。俺の曾祖父の義満も特に可愛がっていた息子と共に昇殿したり、これまた慣例から外れて公家の加冠させたくらいだ。
近年は専ら寺に入れることが当然のようになっているが。
「そのようなことは申しませぬ。この度左馬頭様が立てられた戦功は比類なきもの。故に、跡継ぎのない執事上杉治部少輔殿の跡を継いでいただき、堀越御所を支えていただくのが最善かと考えたのです」
長子として堀越御所に尽くせということか。足利の跡継ぎから堀越執事にランクダウンすればこれまでのように自由な行動はできない。俺を跡継ぎの座から降ろすこと加え、自由にこうとさせたくないというのが本音か。
堀越御所、血筋、兄弟。血筋…?
継母の姉妹が摂関家の九条家に嫁いでいて、数年後に生まれる予定の男子は弟たちにとっては従兄弟となる。その男子は管領細川政元の養子となって、一応訳ありで細川京兆家の家督を継ぐ。細川政元が将軍・管領・堀越御所全てが従兄弟と兄弟同士となるのを狙っていたと聞いたことがある。
考えすぎか?堀越御所の奉公衆と継母の実家だけでこの策を考えられるとは思えない。となると管領絡みが考えられる。
深く考えても分からないな。
いや、細川政元といえば清童子を京に招いて将軍のスペアとして確保しておこうとした人た。
現将軍の死後、義澄を将軍にしようとしたが日野富子との権力闘争に負け将軍は義稙に。後に日野富子と組み義稙を追放して義澄を将軍に。
「父上、少し失礼いたします」
頭を下げ返事を待たずして陣を出る。近くにいるであろう小太郎を呼び出す。
「小太郎。堀越からの知らせはないか?」
「ありませぬ」
動きはないか。
「ならば、急ぎ清童子と潤童子の所在を確認せよ。杞憂であればよいが、どちらか行方が分からなくなっているはずだ」
「は」
さて、本陣に戻ろう。
次回、土曜日か日曜日