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豆州から飛び立つ  作者: 練習中
1500年〜
52/58

地ならし

感想・リアクション等ありがとうございます。

今回は上手く書けた気がする。個人的な出来だけなら最高です。


(求)関白を辞任し、散位となった人物の呼称。

今回は本文のように通しておりますが、近衛尚通は1497年に左大臣と関白を辞してか16年間、職に就かなかったようなので。



◾︎相模国小田原城


「そこで鎌倉殿には、葬儀と御大典の費えの一部を出していただきたいのです」


 だろうな。出家しているとはいえ、近衛家の人間がわざわざ関東まで直接報せに来るのは、何か相談事があってのことだろうと思っていた。


「それは近衛家の……いや、舅殿の考えに?」

 

「准三宮様、並びに儀同三司様のお考えにございます」


「義兄上か……」


 准三宮とは舅の近衛政家を。儀同三司は義兄の近衛尚通のことを指す。


 俺に葬儀と即位礼の費用を献金させ、足利義氏()という近衛家の婿の存在を周囲にアピールしたいのだろう。


 現将軍義高の実の兄であり、母親の出自も上杉氏と悪くない。むしろ先例に倣えば、将軍家初代足利尊氏と同じ足利×上杉の組み合わせゆえに好ましい。


 そして、俺には長年の忠勤の実績がある。

 銭やら石鹸等の物資やら。帝の生活が多少でもマシになればと思って送った少ない品ばかりだが。


 舅殿には以前から俺を征夷大将軍に据えようと動いている節があった。

 三島に訪れた際も、今は亡き帝の御配慮と称してはいたが、暗に婿殿()が将軍にならないかと言わんばかりの態度あったし。


 その野望が義兄上にも伝染したか。

 

 室町歴代将軍の正室は3代将軍義満以降、代々日野家より出ている。

 俺の弟足利義高・北条氏時の母で、父政知の継室であった円満院も元を辿れば日野家の一族。

 10代将軍義尹の生母で、8代将軍義政の弟義視の正室も日野家の出。


 日野家の母を持たない歴代将軍は、尊氏・義詮・義満・義持・義教のみ。

 彼らも初代と2代を除き、皆日野家から正室を迎えている。


 今ここに至り、日野家の呪縛に囚われていない足利の人間は、俺と歴代古河公方だけ。


 そんな俺の正室は五摂家近衛政家の娘。

 畿内におり、朝廷に縁があり、日野家より家格が上で、足利の結ぶ可能性が高い家の娘を探していたら自然と近衛家を選んでいた。


 堀越公方を継承した婿が1代で関東に入り込み、今や南関東を制する鎌倉公方となった。

 時を同じくして、室町将軍は簡単にすげ替えられる地位となってしまった。


 これに近衛家の親子は目を付けたのだろう。

 舅殿は前々から考えていたのだろうが。


「あまりやりすぎては幕府を敵に回してしまうが、それを舅殿と義兄上は如何お考えに?」


「実は……」


 幕府相手にどのように対応するか。気になって聞いてみたところ、道興は衝撃的な話を告げる。


「崩御された先の帝、そして践祚なさる親王様。御二方の御意志にございます」


「なん、と……」


 あまりな内容に絶句する。

 御二方ということは、亡き帝の生前からこの話は進んでいたことになる。


 そもそも北朝の成立経緯からして、朝廷儀式の費えは幕府が出すべきもの。それが、応仁の乱により朝廷に加えて幕府まで困窮するようになってしまった。


 聞かずとも幕府が葬儀と御大典の費用を出さないことは予想できる。

 

「銭は無限ではありませんぞ……」


「重々承知しておりまする」


 風魔衆からの最新の情報では、幕府、特に細川政元は先帝の葬儀の費用を出さないつもりらしい。

 出したくても出せないのが実情であろうが。

 

 しかし、細川政元は初めから費用の節約のためにあらゆる儀式の簡略化を望んでいるようだ。

  朝廷・幕府の儀式の主体は関係ない。銭のかかるもの全てが対象。

 

 義高の元服の際にも自分が烏帽子を被るのが嫌だからと儀式を延期させるし、管領にも儀式の際にしか就任しない人だから、有り得なくはない。


 なんか細川政元には従来の織田信長像を感じるんだよな。


 信長のように家格や血筋に縛られず家臣を用いたり、比叡山延暦寺を焼いたり。

『儀式を行ったとて実を伴わなければ王とは認められない。儀式を行わずとも実を伴えば私は王と認める。儀式は無駄だ』と言う人だからな。どこか重なる部分がある。


「分かりました。全て鎌倉が出しましょう」


「す、全てにございますか?」

 

「ええ、全てに。義伯父上は京の舅殿と義兄上宛に、鎌倉が費えを出す旨の文を書いてくだされ。私の手の者が早急に届けます」


 京には父方の再従兄朝日助五郎が店主を務める箱根屋の店がある。

 文を箱根屋に届ければ、本人が京に在れば鎌倉公方の家臣朝日助五郎が、不在でも鎌倉公方の陪臣が京で鎌倉の意を受けて活動する。


「お願いしましたぞ、義伯父上」


 近習にさっさと義伯父道興を別室へと案内させる。


 俺も舅殿と義兄上宛に文を書くかな。

 

『費えに関しては、一旦朝廷から幕府に依頼することで幕府の面子を立て、そこで断られて初めて鎌倉を持ち出してくれ』

 

『葬儀の費え程度なら京に用意できている。文を届けた者に伝えれていただければ納める。即位の費用は別途送る』


『恩賞は左近衛中将・参議・権中納言等、地ならしを兼ねるように


『くれぐれも幕府に喧嘩を売らないように。時は()ではない』



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― 新着の感想 ―
うぉぉぉぉぉぉ! 遂に来た激熱展開!! これは古河方の反抗も激しくなりますね。室町方か。 儀同三司なんて唐名があるなんて。勉強になります。
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