武蔵攻め評定②
評価・リアクション等ありがとうございます。
少し短いですがキリが良かったので投稿します。
◾︎相模国小田原城
「ここまでで何かあるか?」
「調略は如何程かけておりますでしょうか?」
四郎左衛門はそう言って、俺の横に佇む書状の山に視線を移した。書状の意味を理解しているのだろう。
そこから乱雑に何通か掴み、円座の中央にフリスビーのようにスナップを効かせて投げる。
「いや、一部を除き調略という調略はかけてない。御内書に対する反応及び風魔衆の齎してくれた情報を元に優先度を付けたくらいだな」
皆が視線を書状に落とす。
書状には1から5までの数字が各3つ割り振られている。この数字は簡単な符牒となっている。
1つ目の数字の意味は対応の優先度。
その家・人・土地が今後の鎌倉御所にとって重要か否か。
大きい数字の者ほど優先度が高く、小さい数字ほど優先度は低い。
2つ目の数字の意味はその者への対応のレベル。
大きい数の者ほど丁重に扱い 、小さい数の相手には現場の裁量で処理して構わないということだ。
3つ目の数字は1~3の3択のみ。
1から順に「降伏のみ、追放または殲滅、現場判断」となる。
「一部というのは何処の家でございましょうか?」
「西部の大石・藤田に、東部の吉良・渋川・(武蔵)千葉だ」
「武蔵守護代と秩父を治める国人、そして足利一門に御所様と治部少輔殿の血縁ですか」
そう言って考え込む四郎。いい傾向だ。
相手の家柄と縁。
家柄が高い家であればそれだけで周辺への強い影響力が見込まれるし、縁というものは血縁関係に限らず人知れず広がっていくもの。
現在の表面的事実だけでなく、過去未来にわたる事実の裏側を知ることが肝要。
ちなみに大石・藤田はともに5.5.3である。
つまり、確実かつ火元が燃え広がらないよう丁寧に、そして確実に降伏または潰せ(意訳)。
対して吉良・渋川・千葉は5.5.1。
丁重に彼らを迎え入れよ。ただし、従わない場合はその限りではない(意訳)。
「となると、武蔵西部攻め手の将が重要になりますな」
「爺様の言う通りだ」
ただの将では駄目た。ちょうど良い塩梅に敵を処分できる利発さが必要だ。
「兵庫助と江戸城代の左衛門尉は俺の麾下に欲しい。したがって、それ以外の者を将にと考えている」
兵庫助が「おぉ」と声を上げているが、それは承諾の意思表示と受けとって良いだろうか。
「河越城を目指す隊は四郎を大将にしようと思う」
「私が大将にございますか!?」
四郎が驚きの声を上げた。
他の出席者からは驚きの反応がないことから、彼らからしても順当な選出なのだろう。
「うむ。そなたも今年で16。副将として四郎左衛門を付ける故、全てを任せることはないから安心して励め」
事前の根回しはやらなかったが、四郎左衛門を見れば頷いているのでOKらしい。
「それならば……。四郎左衛門殿、よろしくお願いいたす」
「俺からも頼む」
「御二方からお願いされては、この四郎左衛門、断れませぬな。謹んでお受けいたします」
これで一安心。
侮るわけではないが、このルートには目立った国人はおらず大きな城もない。
唯一のネガティブポイントは扇谷上杉家の防衛部隊と戦になる可能性が高いこと。
もう1つの松山城を目指す隊は山内方の領土を通るため、今回の主目的扇谷上杉家の軍勢を割ることができない。
その松山城を攻める将にもこのことを認識していてもらわなければならない。
「松山城を目指す隊だが、この隊は河越城を攻める四郎に一旦合流することになるだろう」
これは四郎の5000(予定)だけでは河越城が落とせない可能性があるからだ。なんと言っても扇谷上杉の本拠だからな、河越は。
落城後、再び分かれて松山城に向かうことになると予測される。
このルートには山内上杉の武蔵守護代大石氏が最初の敵として控えている。故に慎重さが必要となる。
「豊前守を大将に、左近将監を付けようかと考えている。左近将監、行ってくれるか?」
「はっ。ご期待に添えるよう尽力いたします」
左近将監はいつも淡々としているな。
「して、兵はいつ頃挙げられますか?」
「そうだな……」
今は4月。順当に考えれば田植えを跨いでの戦となるが、自領となる土地の実りを阻む行為だけは避けたい。
「兵糧や物資は既に奉行衆により手配を終えている。だが、敵方にこちらの動きを気取られないよう動きたい故、6月頃から徐々に兵を前線へ動かし、兵を挙げるは8月としたい」
これに一同が頭を下げたことで、次の戦は決定した。
タイトルはネタ切れです。




