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豆州から飛び立つ  作者: 練習中
1494年〜
32/58

情報で動く情勢

評価やブックマーク、誤字報告等いつもありがとうございます。


今回のタイトルを“盤面遊戯”のような少し洒落たタイトルにしようとしたら、無難な話になってしまったので没に…



◾︎相模国小田原城


「新九郎。上総介殿から兵ではなく、叔父であるそなたを援軍として求められた。期間は斯波家を遠江国から追い払うまで。俺としてはその要請に応えるのもやぶさかではない。どうする、行きたいか?」


 そう言って上総介殿からの文を小姓を介して新九郎に渡す。


「駿河へ行きたく存じます」


 目を通し終えた新九郎は悩むことなく即答。やはり甥のことは気になるんだな。


「では駿河へ行くことを認めよう。嫡男千代丸は小姓として召し抱えようと思うのだが如何かな?」


「御配慮まことかたじけなく存じます。倅共々、御所様、そして上総介様のご期待に添えるよう励みまする」


「年に1回は報告を兼ねて顔を出すように。子の成長は早いものだからな」


 翌日、早々に新九郎は家臣を引き連れ駿河へ旅立って行った。

 千代丸の傍には弟弥次郎と山中才四郎を残し、他の備中に居た頃からの家臣は皆引き連れていったようだ。


「言った通りであろう?煽ってれば叔父である新九郎を求めてくると」


「これほどいとも簡単に人の行動を操れるとは思いませんでした……」


 四郎が愕然としている。


 事の経緯は簡単。風魔に今川家の影響が及ぶ地域で今川氏親の一門の脆弱性を煽らせたのだ。


 今川家当主氏親に最も血が近い今川一門は歴史に名が残らない庶子を除き、ほぼ他人といえる十二親等に2人存在する。

 1人は幼少の今川氏親を補佐したことで瀬名郷を与えられた瀬名一秀。そしてもう1人は遠江今川家当主の堀越貞基。この2人は兄弟であり、そして遠江今川家の人間。


 今川本家と遠江今川家。

 両者は約90年程前、俺の大伯父足利義持の治世の頃。遠江今川家の“今川”の家名について争ったことがある関係だ。

 遠江今川家の祖今川貞世は甥である時の今川家当主泰範により間接的に“今川”の名を奪われ、孫の貞相の代に取り戻した。


 そのことを今代の当人たちが如何に思っているのか。

 

 特に堀越貞基は父貞延の死後、兄が駿河に入ったのに対し、理由は不明だが堀越郷に因んで堀越を名乗るようになった。

 本家に取り込まれたとも取れるが、翌年に本家当主の義忠も討死した後も堀越の名乗りも継続していることから何か不満を抱えているかもしれない。

 そういった点を考慮して俺は堀越貞基と誼を通じている。

 

 もし万が一、今川氏親が今すぐ死ぬようなことがあれば今川家の家督は誰が継ぐことになるだろうか。


 この言葉に今川本家一門譜代は危うさに身構え、逆に遠江今川家の者達にはさぞ耳触りのいいことだろう。


 氏親本人も今川本家の血の細さを再確認したことだろう。

 本家の男子は己ただ1人なのだから。


 己に仕える一門譜代が自分の地位を脅かす存在かもしれない。そう思わせることができたならばこの謀は成功である。

 事実、母方の叔父である新九郎を呼び寄せたのも謀の効果であろう。


 あとは氏親の行動次第。

 一門譜代より母方の叔父を頼るようになれば今川家の不和を煽れるし、この荒波を乗り越え今川家を結束させることができたなら、それは戦国大名今川家としての船出となるだろう。


 俺としては後者の展開となってくれた方が嬉しいかな。


 史実だと伊勢宗瑞さんはそこそこ援軍として三河国まで出向いたらしいからね。一門譜代との関係も何とかするだろう。


「次は如何するのですか?」


「そうだな。今川はしばらく慌ただしくなるだろう。その隙に斯波を再び遠江に呼び込もうかな」


 視線を四郎から外せば、ふと廊下に馴染みのある気配を感じた。


「四郎。少し待っていてくれ」


 部屋の外に控える小姓や近習の反応がないことから察するに気配の主は1人しか考えられない。

 立ち上がり廊下に出てみると室内から見えない場所に、やはり小太郎がいた。


「如何した」


 と小声で問いかけると小太郎は立ち上がり、“お耳を拝借”と言って耳打ちしてきた。小声で話すことなのだろう。


「山内が挙兵の支度を始めました。目的はおそらく堀越御所領」


「やっと来るか、山内。侵攻先が分かり次第報せよ」


「はっ」


 小太郎が下がれば次は小姓に指示を出す。


「そなたは明日緊急の軍議を開くことを皆に伝えよ。三島の祖父には詳細は追って報せる故、しばらく待つよう伝えよ」


「ははっ」


 小姓が任を果たすために去るのを見届けた俺は部屋に戻った。

 

「如何されたのですか?」

 

 元の位置に座れば四郎が待ってましたと言わんばかりに質問してきた。


 仔細を説明すると、“あの関東管領が攻め込んでくるのですか”と恐れ始める。


「落ち着け、四郎」

 

 そんなに恐れることなのかな。


 延々と争い続けている関東勢力なぞ大したことないと思うのだが。これは慢心ではなく、事実だ。


 関東最大の勢力の古河公方ですら勢力圏は3カ国に留まり、しかも配下の国人の意思をまとめ切れていない。


 そんな者に負けるつもりなどない。


「心配することはない。山内が攻めてくることは以前から分かっていたことだ。それに、攻め口も武蔵国か甲斐国に絞られる」


 家督争いが続く武田家を巻き込んで甲斐国を通る進路よりも、山内の所領が続く武蔵国から攻め込んでくることだろう。


 もしかしたら古河公方を担ぐことで関東公方の統一を訴え、扇谷をも従えてくるかもしれないな。


 ちょうどいい。これまでの戦は全て攻め側だった。だから、防衛戦というものをやってみたかったんだ。


 

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― 新着の感想 ―
面白い。 いつもよりはっきりと空間を感じることができた気がする。
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