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豆州から飛び立つ  作者: 練習中
1494年〜
28/58

ただの野望

タイトル思いつかなかったので適当



◾︎伊豆国三島城明応4年(1495年)


 今年もまた1年が終わろうとしている。


 あれから扇谷は何度か攻め込んできた。されど、武蔵3郡の兵だけで追い返すことに成功。


 それを玉縄城で見届けた俺は後の事を郡代たちに託し小田原に移動。城の普請状況を確認の後、三島に帰還した。


 それにしても、小田原辺りは随分と領土化が進んだものだ。


 小田原城は居住機能だけを考えれば既に完成している。

 

 嫡男茶々丸もいつの間に数え年で2歳、年を越したら3歳になる。小田原への移動にも耐えられる年齢になった。


 つまり、来年には本拠地を小田原に移転することができるだろう。

 

 しかし、俺の知る小田原城の規模があまりにも大きすぎるせいで、未だ小田原城としての満足のいく完成の目処が立たない。

 考えてみれば後北条氏は2代氏綱から5代氏直の4代にかけてあの小田原城を築城したのだ。


 あの規模を再現しようとしたらあと数年は考えねばなるまい。


 そういえば知らないうちに義高は第11代征夷大将軍に就任していた。

 報せは届いていたようだが記憶にない。情報は見落とさないように気を付けていたはずなのだが。


 暖を取るのに高価そうな紙を燃やした気がするが、きっと気のせいだろう。


 そんなことは如何でも良いか。


 堀越御所は室町幕府公認の関東公方として、相模国・伊豆国・武蔵国3郡・駿河国2郡・甲斐国都留郡半郡を支配下に収めている。


 伊豆・相模を除く残りの関東7ヶ国を古河御所寄りの勢力が占める現状は安心できるものではない。


 しばらくは内を固める時期だ。


 堀越御所には足りないものがある。

 それは領地を治める者の存在もそうだが、あまりにも戦略を理解した上で兵を任せられる将が少なすぎるのだ。


 従う国人地侍が皆馬鹿だと言いたいわけではない。


 虱潰しに探せば、内政なり一軍の将なり商人なり何かに特化した者を見つけられるだろう。

 しかし、成人した大人に虱潰しするようではあまりにも効率が悪い。


 故に次世代には学校の形で一定の教育の後、内政・外交・戦略・戦術・実技など専門分野に別れての教育を行い、個々の長所を伸ばす形式を採用している。

 

 子どもはまっさらなキャンバスのようなものだ。


 人間知らない事には恐怖を抱くもの。

 特に経験を重ねた大人程、恐怖に対する拒否感も大きくなる。

 何十年かけて描いてきたキャンバスを土足で踏み荒らされるのは誰もが良い思いはしないだろう。


 老害が老害たる所以。一見新しい物・新しい事を否定することで自身の既得権益を守っているようで、実は自らの立場を失うことを恐れている。

 

 ただ守るのと恐れて守るのでは意味が大きく異なる。

 前者は理由や対価があれば既得権益をも手放させることが可能であるのがポイントだ。

 それに対して後者は、何を提示しても首を縦に振ることはない。その人物の恐れを克服させない限りいつまでも抵抗し続ける。それが老害というもの。


 対して、子どもは無知な好奇心で恐怖をも乗り越えることもある。まっさらなキャンバスは何色にも染まっていないからだ。

 幼児が何でも口に入れるのは好奇心を満たすため。そのためにはどんな危険物だろうと無知で押し通す。


 同じように既得権益を抱えていない、何も失う物がない元服前の子どもは知識に対しては恐怖よりも好奇心が勝る。


 これも成果が出るのはまだ数年先の見込みだ。


 

〇 〇 〇


 

◾︎伊豆国三島城


「爺様。御自身の跡継ぎは考えておられるので?」


 祖父の子は亡くなった俺の母ただ1人。


「以前は儂の弟、一色式部少輔政(ひろ)の子か伯父が養子に入った四条上杉より養子を貰おうかと考えておりました」


 一色式部少輔政熙。一色の名は先々代将軍義政から許された入名字。足利一門の


「されど、御所様は人を増やすことは認めても地位の継承は否定される御方」


「爺様が辞められたら執事は置くつもりはございませぬ。将軍家を見ても分かるでしょう。家職となった将軍職や管領は争いの元にしかならないと」


 姿勢を問われた気がしたが確かにそうだ。

 そして、俺がそう答えるのを分かっていたかのように祖父は続ける。


「なればこそ、このまま犬懸上杉を断絶させる覚悟にございます」


 そこまでの覚悟を祖父はしていたのか。

 俺の立ち回りが追い詰めていたのかもしれない。


「そんなことを言わないでください、爺様。せっかくの上杉家()()の名。もったいないではありませんか」


「身に余る光栄にございます。しかし、どなたを据えられるのですか?」


「目の前にいるではないですか。 上杉治部少輔政憲の孫で、血筋だけなら高貴な適任者が」


「ご、御所様にございますか?」


 俺の言葉に祖父は目をかっぴらいて驚いた。


「ええ。俺には足利の家名に何のこだわりもありません。“義”の字も“氏”の字だって捨てても構わないと思っています」


「それはいけません!少将様が足利であってこその御所にございます」


 まあ、そう言われるよな。


「安心してくだされ。男子がもう1人生まれればその子に継がせます。それまでは表には出られませぬが上杉五郎憲氏とでも名乗り、爺様を陰から支えましょう」


 

今更ですが一説に上杉治部少輔政憲、主人公の外祖父の弟(?)の子孫に一色藤長がいて驚きました。


今年の更新はこれで最後となります。

良いお年を。

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― 新着の感想 ―
藤長ってその流れなんだ。初めて知った。
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