表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豆州から飛び立つ  作者: 練習中
1491年〜
20/58

取り込み

遅くなり申し訳ございません。

あまりにも続きが思い浮かばず、堀越御所跡などを巡って参りました。



◾︎伊豆国三島城


「では関わりがないと」


「その通りにございます」


 今川家への使者の任を果たし帰ってきた新九郎の話を別件で呼び出していた豊前守とともに聞いている。


 新九郎によると、今川家が甲斐国の穴山家と連絡を取り合っていたのは昔の誼からだそうだ。


 これには今川家と穴山家という個の家の関係だけではなく、両家の立地が強く影響している。


 周囲を山々に囲まれた内陸国である甲斐国は他の国から塩を買わなければならない。内陸国の信濃国・上野国を除くとして、残るルートは海に面する駿河国・相模国・武蔵国の3カ国に絞られる。

 

 そんなルートのうちの1つ、穴山家が治める河内地方は甲斐国と駿河国を繋ぐ大動脈だ。あまり整備されていないが富士川を船を使って移動することができ、それ故に古来より塩の運搬がなされてきたようだ。


 古より続く土地の縁と言ったところか。


「この件については納得しよう。それで、今川家の様子は如何であった?」


「まさに蜘蛛の巣に捕らえられた虫のような有り様でございました。虫が蜘蛛の巣から逃れようともがくように、今川家もまた問題を解決しようと手を伸ばせばまた別の問題にぶつかる。御所様が家臣に領地を配ることに消極的な理由がよく分かりました」


「新九郎殿。それは京でも変わらないのでは?」


 話を聞いていた豊前守が問い返す。


「『それ』とは、捕らわれた虫のことにございますか?」


 豊前守が頷くのを見て新九郎は続ける。


「その通りにございます。されど、京の都で行うは天下の差配。大事は目立てども、小事は誰も気にせぬのです。某も政所執事を預かる伊勢家の分家出身とはいえど、小事から目を逸らしていたのかもしれません」


 これを聞いて豊前守も満足そうだ。いや、何で豊前守が満足そうなんだ。


 最近は豊前守も俺に近い考え方をするようになってきた。

 それも俺を否定しない見守ってくれた父政知のおかげだろう。

 

 現在の堀越御所は御所である俺を筆頭に、外政を祖父上杉治部少輔、内政を外山豊前守をそれぞれ長に任じ、俺の指示の元、職務に励んでもらっている。

 

 実際は、執事である祖父治部少輔を外政に重用しすぎた影響で停滞しかけていた内政を豊前守にお願いして担ってもらっている状態だ。


「小事にも必要なものと不要なものがある。それは見極めなければならない」


 とは言ったものの、外ばかりを重視して内を疎かにしていた俺が言えたことではないが。

 

 それにしても、新九郎は無難に働いてくれている。


 今回の今川家への使者にしても、甥に靡くかと思ったのだがそんなことはなく、冷静に物事を見ているようだ。

 

 風魔に張らせていたがおかしな行動も見当たらなかった。


 やはり、伊勢新九郎は下克上タイプではなく幕臣として幕命で堀越御所に攻め入ったのだろう。


「新九郎。嫡子の千代丸は幾つになった?」


「7歳にございます」


「そうか。器量はどうかな?」


「親の贔屓目もありましょうが我が子ながら物事に囚われることなく優秀かと思います」


「では、10歳になったら小姓として召し抱えよう」


「はっ。ありがとうございます」

 

 疑心暗鬼になるのもいけない。警戒も必要だが、鞭ばかり与えては裏切りの原因となってしまう。

 

 まずは後の北条氏綱を手元に迎え、子から後北条氏を抑える。


「新九郎。そなたにも常備兵の指揮系統が定まり次第、副将の地位を与えよう」


「なんと!新九郎殿にそこまでお与えになるのですか!?」


 俺の言葉に豊前守が大袈裟に反応する。

 新九郎が上げようとした驚きの声は豊前守に打ち消されてしまった。


「我らに大軍を率いた経験を持つのは俺と祖父くらいだ。その祖父も歳だ。ならば、今川家の空気を読むことができた新九郎に任せようと思ってな」


 仕方ないといった表情で豊前守は引き下がった。


 幸いなのか、俺の手元に信頼できる駒は少ない。

 祖父と豊前守、水軍と遊撃の兵庫助と四郎左衛門くらいだ。その下に国人衆を付けている状況だ。

 

 そこに新たな頭として登用することで恩を与える。

 

 能力面で計算できる駒はいくらあっても足りないくらいだ。後北条を取り込めると考えればかなりのプラスとなるだろう。


「外様の私が重用されることを国人衆は良くは思わないないでしょう」


 新九郎の言うことはもっともだ。

 だが、それを見越して策を練っている。


「俺は武士は信頼しているが、国人は全く信用していない」


 2人が息を呑んだ。


「御恩と奉公とはよく言うが、与えられる御恩には限界がある。日ノ本の土地は有限であるし、官位も公家との取り合いになる。いずれ奉公に対する御恩を返しきれず政権は瓦解する。かつての鎌倉のようにな」


 鎌倉幕府が元寇の恩賞の影響だけで滅んだとは思わない。

 各地の力を持った者が不満を持ち、錦の旗の元に立ち上がる。武士のような由緒正しい人間にとってこれほど都合の良いものは他にないだろう。

 

「その分、今の足利はよくやったと思う。主君が意味のある名誉を生み出すことができればその政権は長生きする。しかし、それにも限度がある。いずれ滅びるだろう。新しい秩序によって」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
待ってました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ