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豆州から飛び立つ  作者: 練習中
1487年〜
11/58

伊勢新九郎

今回は文章をまとめきれなかったためにかなり難解かもしれません。



◾︎伊豆国三島城


「先程の発言は幕臣のものでも今川の使者としてのものでもありません。今川龍王丸の叔父としてのものにございます」


「叔父か…」


 龍王丸の叔父として仲介に来たと。うん、全く意図が理解できない。最大限好意的に捉えると、甥が戦に巻き込まれるのを避けたいといったところだろうか。

 それだけのことなら普通に幕臣か今川方に立ち和睦を成立させればいいだろう。しかし何故か仲介と言っている。

 

 目の前の男に下克上の代名詞的存在として扱われていた北条早雲の影がチラつく。こちらを謀ろうとしている。そう思えてならない。


「して、条件は如何に?」


「興津川を境に所領を確定。また、今川家当主龍王丸の烏帽子親を堀越の御所様に行っていただきたく」


 どちらも妥当なラインだ。所領はともかく、烏帽子親の件も堀越御所が今川家に力を伸ばすきっかけにもなる。

 しかし問題はそこではない。


「今川家はどう説得するのだ?」


 そう、今川家だ。家督が一本化されたかと思えば、河東のみならず興津川まで他勢力に侵攻されていた。それを今川家が許すはずがない。


「まずは体制を整えるべきと説きます。龍王丸様が家督を継がれたとはいえ、領内には小鹿に味方していたものが残っています。さらには遠江国見付の堀越家の動きも怪しい。そこを突けば説得できると考えております」


 なるほど、説得できる余地はあると。


「しかしな、新九郎殿。既に今川館まで落とす道筋は見えているのだ。その機会をみすみす逃すなどできぬ」


 これには新九郎の目が見開かれる。ブラフだったのだが効果は絶大だったようだ。

 まあ、やろうと思えば落とせるのだろうが、こちらの被害も甚大になってしまう。やるならば安倍川辺りまで一気に落とせる準備をしてからにしたい。


「故に和睦を結ぶ必要性がないのだ。新九郎殿が2つ条件を呑むのならば別であるがな」


「それは如何なる条件にございますか?」

 

 思わず失笑を漏らす。希望を見つけた。そのような表情になった新九郎に邪念は感じない。信じよう。


 指を1本立てる。


「1つ。我が弟が1人行方不明でしてな。その件に関わっていた継母を現在寺に閉じ込めている。しかしどうも都のお偉い様が関わっていたようでね。そこで新九郎殿にその方と執り成していただきたい」


 清童子は京の寺で清晃という名の僧になっていると小太郎から報告は受けている。それに管領細川政元が関わっているということも。

 史実では清晃は父の承知の元で京に向かったので文句はない。しかし、現実では継母が勝手に送り出したに過ぎない。おそらく現状を追認することにはなるだろうが、その代わりにこちらの動きも承認してもらわなければ。


「2つ。そなた、この和睦を纏め次第俺の家臣となれ」


 再び新九郎の目が大きく見開かれる。

 伊勢新九郎という未知数の存在を京の都や今川といった潜在的敵勢力に置いておくのは怖すぎる。だったら目に付くところに置いておいた方が安心できるというものだ。


 新九郎に2本の指を見せ付けながら笑みを浮かべる。

 

「この2つが叶った時、堀越御所は和睦の仲介を受け入れよう 」


 その笑みは酷く歪んでいた。

 後に、笑顔で相手を己の思うがままに動かす様から「魔王」と呼ばれる所以となる出来事であった。

 


〇 〇 〇



◾︎伊豆国三島城


 今川家の使者を適当にあしらい、新九郎と共に送り返した。新九郎との会話は互いに有意義なものであった。


 俺としては今川家と和睦を結ぶつもりはある。拡大した領地を自分の物とするために時間が欲しい。

 現状、都鄙和睦のせいで甲斐国と相模国には手が出せないが、


 そもそも和睦以前に、そろそろ幕臣が駿河攻めについて詰問の使者としてやって来る頃ではなかろうか。まずはそいつらを追い返さないといけない。

 あいつら征夷大将軍の威を借る害虫だから駆除するの大変なんだろうな。堀越御所にいた奉公衆(身分は幕臣)ですら今回の過失を理由に数を減らせた程度だっていうのに。


 相手の急所になりそうなポイントは幾つか用意しているから、交渉次第でお咎め無しまで持っていけるだろうと思っている。



 心配なのは勢いで伊勢新九郎を勧誘してしまったことだろうか。危険分子を目の見えるところに置いておくのは合理的だと思うが、一時の感情・感触で決めてしまったことは後悔している。

 寸前まで北条早雲の影に怯えていた自分が、突然目の前にいる新九郎は自分の理解の範疇に収まる人間だと思ってしまった。


 傲慢になってしまった。これではまるで俺が忌み嫌っている幕臣のようではないか。

 傲るのならば、常に他者より自身が有利な立場に立ち続けなければならない。今日の反省点だな。

 


前々回登場した葛山の当主の名前を維貞としましたが、調べれば調べるほど名前が違っていて混乱しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新九郎殿ゲット! [一言] >後に、笑顔で相手を己の思うがままに動かす様から「魔王」と呼ばれる所以となる出来事であった。 宣教師「ルシファー…」
[良い点] 最強の敵を味方にする展開は熱い
[良い点] めっちゃ面白い。
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