表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豆州から飛び立つ  作者: 練習中
1487年〜
10/58

使者



◾︎伊豆国三島城


 臣従した備中守に幾つか確認した後、体制を整えるようにとこちらの手の者を付けて送り出した。

 

 備中守の治める所領は北で甲斐国と相模国に接している。国境を注視するように指示を出したが、葛山家が堀越御所に臣従したくらいではすぐに問題が起こるということはないだろう。

 

 現在の甲斐国の守護は武田信玄の曽祖父の武田信昌である。この人は先代が若くして亡くなったために幼くして家督を継ぎ、それから魔境甲斐国の守護を30年以上務めてきた人物だ。土地柄的に貧しい上に、力を持った守護代や国人衆が何度も反旗を翻し続けてきた甲斐国を治めているだけあって非凡なようだが、それはあくまで守護とし てだ。

 現在進行形で反乱が起こっているくらいなのでこちらに手を出している暇はないだろう。


 問題は相模国だ。相模国の守護は扇谷上杉家当主上杉定正。その扇谷上杉家自体は昨年家宰の太田道灌を暗殺したことで揺らいでいる。しかし、問題はそれだけに収まらなかった。

 現当主上杉定正の兄には既に亡くなった先々代当主の他に三浦家の家督を()()()()()三浦高救がいる。高救自身は道灌暗殺による混乱の隙をついて扇谷上杉家の家督を狙ったがために養父であるである三浦時高に追い出されて今は安房国にいる。その息子は母方の実家である大森家に逃げている。

 

 この息子が1番の問題なのだ。名は三浦義同。母の母が現当主三浦時高の妹であり、本人も現当主の養子になっていた。記憶違いでなければ、後に自力で三浦家当主の地位を実力で奪ったはず。

 実力行使に及ぶ場合、母方の実家である大森家の支援があることは自明の理。そして大森家は葛山家の本家筋。その繋がりで相模国に引きずり込まれることだけは避けたい。


 古河御所との和睦があるため巻き込まれる可能性は限りなく低いが気を付けなければならない。



○ ○ ○



◾︎伊豆国三島城


 ようやくと言うべきか。今川家からまともな使者がやってきた。

 

 蒲原城で今川家の使者と会って以来、初めての接見である。

 これまでも今川からの使者は何度も来ていたのだが、名を知らなかったり家格の低そうな者ばかりで話す価値なしとして追い返していた。

 そういった者達に限らず使者という者はまず御所たる父政知のいる堀越御所へ向かう。使者としては当然だろう。しかし、現在の堀越御所は父個人に対する使者を除きほとんどの使者は決まって俺の元へと誘導されてくる。

 

 それは何故か?軍事政治ともに俺が実権を握っているからだ。清童子の件で奉公衆は信頼を失った。とは言っても全ての奉公衆が件の出来事に関わった訳ではない。

 関わった奉公衆は問答無用で首を撥ねた。多少関わった者であっても奉公衆の任を解き、一兵卒からやり直すか追放されるかを本人に選ばせた。

 結果として、無関係だった数少ない奉公衆で堀越御所の体裁を形成しているに過ぎず、統治機構として処理能力が圧倒的に不足している。そして信用もできない。そのため、父から俺へと権力の移譲がなされたというわけだ。

 これにはいざという時に責任の所在を曖昧にするという目的もある。

 

 少し歪な権力体制ではあるのだが、堀越御所の父は伊豆国主として伊豆の国衆達への監視役となり、世継ぎの俺は御所の権威を利用して足場を固めている。

 よくこんな体制が成立したなと自分でも思うのだが、父には鎌倉御所になりたいという願いはあっても、何をしてでも鎌倉御所になりたいという欲はない。

 そんな思いから成り立っている。


 部屋に入ると使者2人が頭を下げて待っていた。

 

「幕府奉公衆、伊勢新九郎盛時と申します。ですが、この度は今川家当主今川龍王丸の叔父として参りました」


 この男があの伊勢新九郎盛時か。後の北条家の家祖。そして、本来の足利茶々丸を殺したであろう人物。

 本物を見られるなんて少し感動。そのせいか、もう1人の使者の名前を聞き逃してしまった。

 この伊勢新九郎という人物。幕府に忠実な人物なのか、または下克上を平然と成し遂げる人物なのか。それをこの会話で見極めなければならない。

 今後の動きに大きく影響を与えかねない存在だ。まずはここに来た目的を知らなければ。


「それで何用で参られたのかな?」


「堀越御所と今川家の和睦の仲介をしたいと考えております」


 和睦の仲介か。先程、今川家当主の叔父として来たと言っていたはずだ。


「新九郎殿。いくら御屋形様の叔父と言えど勝手が過ぎますぞ!」


 すかさずもう1人の使者が口を挟んできた。今川家の使者としてこの場にいるにも関わらず、その義務を放棄して利敵行為に走っているように見えるのだろう。


 俺も同じような感想だ。一体何が目的なのか。


「まあまあ、使者殿。この者は私が相手をします。もてなしの用意をしているので、そちらでごゆるりとお待ちを」


 部屋の外に待機していた近習に視線で指示を出して使者を誘導させる。

 「お待ちを!」とか叫んでたけど、この使者との会話には何も期待してないからいいか。


「さて、邪魔者もいなくなったことだ。新九郎殿は何が目的かな?」



現状、興津川以東は制圧しているので今川方にとっては堀越御所の勢力はかなりの脅威となっております。

本文に書いていませんが薩埵峠の砦で何度か小競り合いも起きる程度には緊張状態の両家です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ