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幽霊?

『婚約者のことは蔑ろにするくせに、部下には手厚いのね』


大声を出すことを堪えながら、嘲る女を睨みつける。


「お前は何者だ?どうして私以外は気づかないんだ?」

『あら。ようやく私の存在を認めたの』

「御託はいいから早く答えろ」


女はニヤリと笑う。こんなにも太々しい表情をする女性を未だかつて私は見たこともない。婚約者のナタリーや婚約が決まる前に遭った少女達も皆、こちらの機嫌を窺いながらヘラヘラと笑う者しかいなかったのに。


『この時代はアタシが本来生まれる時代よりも過去にあるから、実体が無いのよ』


実体?


「意味が分からない」

『要するに未来から来たのよ』

「……嘘を吐くなら、もっとマシな嘘を吐け」


未来から来ただなんて馬鹿馬鹿しいと私は吐き捨てた。


『創世神に遣わされた聖女だと言えば通じるかしら?』


【創世神】と【聖女】という壮大なキーワードに眩暈がしそうになる。


この世界は創世神カエルムによって創られたと言われている。

創世神カエルムが天地を、植物を、生き物を、そして人間を創った。けれども人間は強欲で、他の生き物に比べて無秩序な存在だった為に、慈悲深きカエルムによって教えが授けらた――それが大陸の多くの国が信仰するカエルム教である。


「幽霊のくせに大それた嘘を……」

『馬鹿王子の癖に、ある程度の神話は理解しているのね』

「馬鹿だと?」

『馬鹿じゃなけりゃ何だって言うのよ。アンタが王子じゃなけりゃ、こんな頭の悪いクソガキの相手なんかしたくもないわよ』


そう言って女は鼻で嗤う。私の前に現れた瞬間から、この女は私を馬鹿にする言葉しか口にしない。言い返してやりたいのを我慢し、我が国の建国神話に思いを馳せる。


我がルリジオン王国は創世神カエルムの愛し子・セレステが国を興したと言われている。ろくでもない人間達に嫌気が差し始めた矢先に現れた、心清き巫女セレステを見初めたのだとか。

私達王族はカエルムとセレステの子孫であるとの伝承から、王国は大陸の中でも一目置かれた存在でもあった。


建国神話には次の一節がある。


≪【創世神カエルム】は愛し子セレステの死後も王国を見守り続けている。そして王国に危機が訪れた時、【聖女】を遣わし王国を救うだろう≫と。



「王国に危機だと?今は戦の兆しも無いし、飢饉への備えもある。そんな馬鹿な話があるか」


幽霊の癖に小賢しいと私は吐き捨てた。


『もちろん、今この時は問題無いでしょうよ。アンタの父親は特別有能じゃないけど平々凡々に統治してるものね』

「だったら……」

『けど、これから馬鹿王子が起こす問題のせいで、100年後に王国は滅びるのよ』


反論してやりたかったが、女がまるで御伽話に出てくるオーガの如く憤怒の表情で私を睨みつけてくるせいで、再び口を噤まざるを得なかった。


『アンタの妻が、無実の少女を陥れて殺したせいで一家揃って破滅するの。貴族からも平民からも怒りを買って、王族の権威はメチャクチャになるのよ』

「私の妻が無実の少女を殺す……?」


私の妻ということは、ナタリーが誰かを殺すというのだろうか。


『そうよ。嫉妬に駆られてね』

「……」

『信じられない?そりゃそうよね、さっきも具合の悪いアンタを心配してくれるような……』

「心配?私の妻となって権力を奮おうと考えている者なら、それくらいの媚びは売るだろうな」

『は?それ本気で言ってんの?』


オーガは更に目を尖らせた。しかし、それでも私も怯むわけにはいかない。


ナタリーはブランシュ侯爵家の長女で、その血筋から私の婚約者に選ばれた。候補に選ばれた令嬢は他にもいたそうだが、母である王妃が特にナタリーを気に入ったらしい。完全な政略結婚である。恋愛というものに憧れる気持ちはあるが、王侯貴族として国民の生活の為に政略結婚をすることは納得している。


だが、ナタリーだけはダメだ。あの女だけは王族に迎え入れてはいけない。


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