俺の幼馴染がパーティーのリーダーに。
「ガヴィノ、仲間を大切にしろ」
元冒険者だった親父の口癖だった。
口数が多い人ではなかったが、
城塞都市からほど遠い小さな村の猟師として、
男手一つで俺を育て上げてくれた立派な人だった。
俺を産んですぐに亡くなってしまった母も冒険者だったと聞くが、
詳しい事は親父が教えてくれなかった。
ただ、写真の中の父と母は真ん中に俺を抱き、幸せそうだった。
そんな親父が流行り病で亡くなった後、
俺は働き口を探して村を後にした。
村で猟師をするよりも、
城塞都市のギルドで冒険者として働いた方が、実入りがいいからだ。
それから間をおかず、
おれを追いかけて幼馴染のユルマが城塞都市まで来て冒険者となった。
ユルマは幼いころから家が隣同士で、
何をするにも俺の後をついてきていた。
俺も憎からず思っていたが、俺を追いかけてきたユルマに告白され、
それを受け入れる形で俺はユルマと恋人同士となり、
城塞都市での生活を送ることになった。
------ユルマの両親から、婚前の娘なので正式に結婚するまでは清い交際をしてほしい念押しの手紙があったこともあり、事情を話してユルマとはお互いを大切にしながらの恋人関係になった。
俺には「変化」というユニークなスキルがあった。
自分が良く知る動物に変化することが出来るスキルだ。とはいっても、せいぜいが狼や大鷲といった自分の大きさ程度の、一般的な生き物になるだけなのだが。
他に同じスキルをもっているものがいないので俺も詳しいことはわからないが、
珍しいだけで大したことは無いスキル、ということらしい。
それよりも、ユルマの方が「癒し手」という強力な希少スキルを持っていた。
聖職者に匹敵する回復魔法を使うことが出来るスキルで、望めば勇者パーティに加わることもできるだろう。D、C、B,A、Sとランクわけされていくギルドのランクでも、このスキルがあるだけでAランク以上は間違いなし、という超レアスキルだった。
スキルというものはもっていない人もいるし、持っている人もいる。
誰がどんなスキルをもっているかも、まったく法則性のないものだ。
弓使いの俺とヒーラーのユルマはコンビでパーティを組んで、
モンスターの討伐や、アイテムの採集などをこなしていった。
珍しいスキル持ち2人のパーティということもあり、
俺たちは1年ほどの冒険者活動で、ランクを駆け上がりBランクになっていた。
そこに同じBランクの魔法使いイズリと、
Aランクの剣士リティンがパーティに加わり、
難易度の高いクエストも攻略していった。
イズリは男の目を引く豊満な身体と胸元の開いた煽情的なドレスをトレードマークに、
パーティーへの引く手数多の魔法使いだった。
ギルド併設の酒場でユルマと仲良くなったようでパーティに加わることになった。
リティンは軽薄で粗野なところもあるが、
Aランクというだけあって強力な技を幾つも持ち、確かな腕を持つ剣士だった。
ギルドはパーティの最大人数を4人と定めている------色々と理由はあるらしいが詳しくは知らない-----ため、パーティ上限人数となった俺たちはそこから4人パーティとして活動していった。
親父の教えもあり、俺は後衛という立場から他のパーティメンバーの動きをよく見て支援をし、仲間の行動を手助けしながら弓で援護をするようになった。
魔法使いのスキル持ちであるイズリはいくつもの大魔法を必殺技に持ち、凄腕の剣士リティンは様々な剣の奥義を覚えていた。「ハルペーニースラッシュ」、ユルマの回復魔法は致命傷から回復されるほどの回復力をもつ。
そんな中で俺は派手な技はないが、堅実に、誠実に。
仲間を手助けすることでパーティを支えることに尽力していた。
そしてユルマはAランクの冒険者へと昇格したのだった。
ジャイアントオークの討伐。
Bランクパーティでは少しむずかしいと言われるターゲットだ。
都市にほど近い森に出没したそれは、豚頭に筋肉の発達した二足歩行の怪物である通常のオークが人の1.5倍程度の背丈の怪物なのに対して3倍近い巨躯を持つ大型のモンスターだ。
そして今回の依頼はそのジャイアントオークを中心にした数頭のオークの群れも相手にすることになる。依頼を受けた俺たちは早朝に都市を出て森の中を半日ほど歩き、指示されていたポイントにたどり着いた。程よく開けた森の広場で俺たちは食事中のジャイアントオークの一団と相対した。ジャイアントオークが1匹、そして取り巻きのオークが3匹。
「雑魚が・・・ブッ殺してやらぁ!!」
剣を振りかざし迷うことなくジャイアントオークに斬りかかるリティン。
イズリが短く呪文を詠唱し周囲のオークに火球をぶつけていく。
-----------マズい。
リティンはジャイアントオークを自分で倒すことしか眼中になく、
周囲のオーク達への防御がおろそかになっている。
さらに周囲のオーク達のうち2頭は火球攻撃を受けてイズリへ向かって走ってきているものもいる。
開幕して30秒もたたないままに、モンスターからの敵視がとっ散らかっている。
最前列で分断されているリティン、そこから距離を置いて俺の前にイズリ、俺の後ろにユルマ、という立ち位置になっているのを確認するが・・・陣形も糞もない状態だ、いつものことではあるが。
このパーティーは強力な技を持つがゆえにスタンドプレーで暴れまわろうとする。
矢筒から矢を3本引き抜き、一本を口にくわえてイズリの前へと出る。
「ひとつ・・・ふたつ・・・・!」
2本の矢を続けざまに撃ち、こちらに向かってきていたオーク2頭それぞれの太ももを射抜く。
「プギュア?!」「プイプイ!」
矢を受けてそのまま転倒し転がる2頭。
それを確認するよりも早く口にくわえていた3本目の矢をつがえ、
背後からリティンにおそいかかろうとしていたオークを射る。
「ギャッピイ!!」
矢はそのオークの右肩に刺さり、悲鳴をあげてもんどりをうつ。
「あぁ?!テメーッ!何俺に襲い掛かろうとしてんだクソブタァ!!」
悲鳴に反応したリティンが振り向きざまにオークの首を一刀両断する。
「イズリ、今のうちに倒れた2頭を--------」
矢筒から次の矢を取り出しながらイズリに声をかけると、イズリはため息をつきながら答えた。
「あぁもう余計な事を。
言われるまでもないわよ。・・・アンタが邪魔したから一発で仕留めそこなったじゃない」
--------この言いぐさである。
転んで起き上がれなくなっているオーク2頭に火球が着弾し、わずかな悲鳴を残してオークは瞬く間に炭になった。
「グビュ?プギィ・・・オドレラナニシテケツカルウウウウウ!!」
手下を倒されたジャイアントオークが怒声をはりあげ、丸太の様な腕でリティンを薙ぎ払おうとする。
「あぁ?やんのか豚足野郎ォ!」
リティンはリティンで自分の剣技とスキル任せで攻撃しか考えていない・・・回避できない位置だ、まずい。
即座に判断し、ジャイアントオークの右目を射抜く。
片目を潰された痛みで顔を抑えるジャイアントオーク。
「あぁ?!何すんだガヴィノ邪魔すんじゃねぇよ!!」
リティンからの罵声。・・・これも、いつものことになってしまったが。
「童貞の癖にリティンの邪魔ばっかりしないでくれる?童貞の癖に」
傍らで、あきれたように俺を馬鹿にするイズリ。
このパーティは個々の実力は高いのだろうが、
それゆえに連携や協力と言ったものには無縁だった。
親父の言葉通り、仲間を大切にしようとした。
・・・なのにもうずっとこんな有様だ。
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「ガヴィノ、お前もうパーティ降りろ」
今ではすっかりパーティのリーダーという立ち位置になったリティンからの、
突然の宣告だった。
「え・・・?急に、何を言うんだ?」
驚き、聞き返すと、イズリが豊満な胸を弾ませながら、けたけたと嗤った。
「おっかしー、まだ気づかないの?
アンタ、レアなスキルはあるけど弱っちいし、このパーティにいらないってこと!」
・・・確かに俺は他の3人のように奥の手というべき技はないが、それでもBランクと認められるだけの実力はあるし、パーティでの活動できちんと貢献していたはずだ。
そんなリティンとイズリの言葉にユルマをみると、つい、とリティンにもたれかかり、蔑むような目で俺を視て、笑った。
「ねぇガヴィノ、冒険者やめなよ」
「な・・・何を言うんだいユルマ、そ、それに君は・・・」
どうしてその男にくっついているのか、と、言うまでもなかった。
「あーもう、気づけよクソ童貞!!
ユルマは俺の女なんだよ!
お前がいつまでたっても手を出さなかったユルマは俺が女にしてやったってことだよ!!」
---------な、に・・・?
「ちょっとリティン、言い方言い方」
イズリがこらえきれないという様子で爆笑している。
「イズリもユルマも俺の女ってことだよ!
で、俺のハーレムにお前は不要なんだよ。
パーティが4人までって決まってるんだから、
お前にはさっさと抜けてもらって、
Aランクのいい女をいれて、ハーレムにするのさ。
---------挿れるだけにってな!」
そういいながらイズリとユルマを抱き寄せ胸をもみしだくリティン。
ユルマを見ると、目を伏せる。
・・・・そうかそうか、つまり君はそんなやつなんだな。
そんなユルマの様子に、今までのユルマの想いが音を立てて崩れていく。
あぁ、なんてくだらない。
「わかった。俺はこのパーティを出ていく」
そういって踵を返す背に、「装備までおいていけとはいわねぇ、餞別代りにくれてやるよ!俺は代わりにユルマの処女を貰ったからなァァ?!
使い心地は最高だったぜ!
つりはいらねぇとっときな!ギャハハハハ!!」
聞くに堪えない罵声だ。
あぁ、もう、本当に。
色々な事がどうでもよくなってしまったな。
酒場を出てしばらく歩き、いくところもないので町の広場まで歩いてきた。
噴水にこしかけ、ため息をつく。
親父は仲間を大切にしろといったが、
大切にした仲間に裏切られた俺はどうすればいいのか。
ユルマもあんな子ではなかった。
いや、元々そういう気質があったのかもしれない。
幼馴染は寝取られると古い本にも書いてあった。
古来から伝わるとおり、もう幼馴染というものはそういうものなのかもしれないが・・・。
膝の上に拳を置き、俯く。
「ちょりーっす☆お兄さんどうしたんッスか?」
明るく甲高い少年の声に顔をあげると、そこには黒い髪、黒い瞳に黒い衣装----みたこともない異国の服で、詰襟に丸い金色の丸ボタンが縦に並び、貴族の礼服の様なズボンをはいている------がこちらを心配そうに見ていた。
「えっ?あ、ああすまない。考え事をしていた」
そんな少年の様子に、申し訳なくなりつい言葉を濁す。
「・・・なんてウソっす。すんません、実は酒場の出来事みちゃってたんッスよ。・・・酷い目にあったッスね」
そういう少年が、悲しそうな顔をする。・・・情けない。
こんな少年に心配をさせてしまったのか。
「あ、ああ。なに、世の中そう言う事もあるさ。心配をかけてしまったようだね、すまない。私は大丈夫さ」
そういって無理に笑うが、少年はううっ、と目を伏せる。
「いいっす、いいっすぅぅぅ!
わかるッスよ!
幼馴染ってのはどいつもこいつもあっさり寝取られて股を開いて積み重ねた年月をドブにしすててポッと出の男とヤリまくる存在なんすよ!
そういう種族なんスよ、そうなるようにできちまってるんッスよ!
でも俺が異世界転生したからには、
そんな報われない寝取られ被害者のざまぁを手助けしまくるんでマジ!」
矢継ぎ早にいいつつ、俺の手を握る少年。
異世界転生?ざまぁ?なにをいっているのかわからない・・・・。
「俺、タケキチ。滑々饅頭蟹武吉って言うんすけど、タケキチって呼んでくださいガヴィノ・トレポーラさん」
・・・なぜ俺のフルネームを?と思った心の中の疑問に、
タケキチと名乗った少年がにっこり笑いながら答える。
「それは俺が異世界転生したときのギフトのひとつで、
人のスキルや情報がわかるんッスよ。
ガヴィノさんは変化スキルのスペシャルエクストラランク・・・略して変化S・EX持ちの超超スペシャル有能スキルもちなんス。S☆ex!S☆ex!
そのスキルはその造形を詳しく知る者であれば何にでも変身できる、
幻獣や神獣も可。
この世界にいないものでも!!
最高ッスよこれ絶対おもしれースキルっすよ!!
いやぁざまぁのしがいがありそうっすねーきゃっきゃっ」
タケキチ少年がいっていることが全く分からないままに混乱しているが、
きゃっきゃウキウキしているタケキチ少年は俺の手を握りながら、にやっ、と嗤った。
「まかせてくださいガヴィノさん!
俺がガヴィノさんの本当の能力を引き出してやりますよ!!----------手始めに俺が用意したこの『怪獣王』のDVDでシリーズ全部みましょう。
そうすればイメージも固まってリアルでかっこいい怪獣王爆誕ッすよ!
ささ、俺の宿へウェルカムウェルカム」
・・・そこからはタケキチ少年に連れられた宿で、不思議な道具・・・「でいぶいでい」で箱の中に移された映像・・・タケキチ少年は「とくさつえいが」といっていたが、巨大な怪物が暴れ、この世界とは全く構造の違う発展した美しい街並みを破壊したり、怪物同士が戦う物語を延々と見せられることになったのだ------------
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ガヴィノがパーティーを追放されて一か月ほどの時間がたったころだった。
ほうほうのてい、という様子で国の兵士や、傭兵や、冒険者たちが街へと逃げ帰ってきていた。
街の入り口までなんとか帰ってきたという様子だ。
誰もかれもがボロボロの姿で、中には身体の一部を欠損していたり、虫の息の仲間を背負っている者もいる。
「だめだ、魔王領との国境の砦は完全に陥落して、あれだけいた兵士もこれだけしかいない。魔王軍最強と言われる黄金竜王の軍勢が攻めてきた!・・・直にあの大軍勢がここに攻めてくるぞ!!」
指揮官らしき男が馬上から叫んでいる。
そしてその中にはリティン、イズリ、そしてユルマの姿もあった。3人とも薄汚れ、街の近くにまで帰ってきたところで力尽きて地面に倒れている有様だ。
「もうむりだ・・・おしまいだぁ・・・」
あれだけ自信過剰で大言壮語を吹いていたリティンが、ガタガタと震えていた
それは他の2人も同じで、言葉にはしていないが絶望と諦めでこれから自分たちに訪れる死に震えていた。
そんな一団とすれ違うように、一人の男が街を出るべく歩いていった。
皆自分たちの事に手いっぱいで慌てている中、ユルマはそんな男の姿に気づいた。
「・・・ガヴィノ?」
男は敗残の一団や、リティン、イズリ、そしてユルマにも一瞥もくれず----興味もなく---街の外、魔物の軍勢が攻めてくる方向へと歩いていく。
「ガヴィノ、そっちは魔物の軍勢が!」
街の外に出たガヴィノに、ついユルマは声をかけるがガヴィノは振り返ることもしない。
-------ただ、吠えた。
そしてその咆哮と共にガヴィノの姿は黒い巨竜・・・いや、巨大な怪獣へと「変化」したのだ。
弦楽器を鈍くかき鳴らすような咆哮が響く。
「グァァァァーオォォン」
鈍く黒い皮膚に、背中には珊瑚礁のような、とさかのような背びれ。
自身の身長よりも長く伸びる尾。
らんらんと見開いた左右の眼。
逃げ帰ってきた一団や、街の入り口に来ていた住人たちは、その光景を固唾をのんでみていた。
タケキチ少年のアドバイスと教育で得たこの変化も、上手くいったようだ。
咆哮と共に巨大化し、今では城塞すら見下ろせるほどの大きさとなったことを実感するとともに・・・自分が思い描いた通りの姿に変化したことがわかる。
怪獣王----------ガッズィラ。
それはタケキチくんが元いた世界にいた最強の獣の名前だという。
背後にある都市の城壁も俺の腰までにも届かない。
背後にいる有象無象の冒険者たち-------その中にはほうほうのていで逃げてきたリティンやユルマ、イズリもいるのだろうか。まぁ、どうでもいい。
今はタケキチ君が導いてくれたこの力を・・・思うがままに振るってみたい。
都市を護る為ではない。
間違ってもリティンやユルマ、イズリを護る為でもない。
俺が、俺自身のために、この力を愉しんで、振るうのだ。
「グァァァァーーーーーーーーーオォォン!!!」
さらに再び、先ほどよりも大きく咆哮する。
雲霞のように押し寄せる、豆粒のような雑魚モンスターの群れが足を止めた。
いちいち踏みつぶすのも面倒だ。俺は2歩、3歩と歩み寄り、そして身体をひねる。
尾の薙ぎ払いがモンスターを森の木々や地表と同時にまとめて薙ぎ払う。
吹き飛ばされたモンスターはひき肉になってはじけ飛ぶか、
大型の個体---それでも今の俺からしたらゴミのようなものだが----は原形をとどめていたが、吹き飛ばされて地面にたたきつけられた後どいつもこいつも動かなくなる。
弱い、脆い、無様。
最高の気分だ!!!
一方的な蹂躙!!
これが------暴力!!!!!!!
尾の一撃で敵の前線は崩壊し、後詰は踵を返し逃げ出していた。
圧倒的な力でひねりつぶし蹂躙するのはこんなに気持ちいいのか。
ありがとう、タケキチ君!
いずれ君にはこの恩を返すとしよう。
こいつらを殲滅したあとは、
先に旅に出てしまった彼をおいかけて彼の旅に同行して彼の力になろう。
そう考えていると雷鳴のような咆哮が天から響いた。
「キュルルロオオオ!」
空から黄金色の雷が降り注ぎ、俺の足元近くにも着弾する。
まぁ、わざわざ避ける必要もないので成り行きを見守る。
すると天から3つ首を生やした黄金の竜が降りてきた。
3つ首黄金に左右一対の巨大な翼。
ガッズィラになった俺は城塞都市よりも大きくなっているが、
その俺よりもさらに一回りデカい。
たしか魔王の四天王の一人でドラゴンを統べる黄金竜王とかいうやつだろう。
俺も噂話には聞いていたが・・・
タケキチ君にみせられた「でいぶいでい」の知識を得た俺からすると、
ガッズィラにはよく似た金色で3つ首のライバル怪獣がいたな、と思う。
「貴様、何者---!-一体どの眷属の竜種だ。黄金竜王であるこの俺様に歯向かう馬鹿は」
居丈高で無駄に尊大な黄金竜王の物言いがひどく癪に障る。
-------ごちゃごちゃうるせえんだよきんぴかトカゲ
「グァァァァーオォォン」
咆哮一つで返事をする。
「この我を・・・トカゲ、だと・・・?!言ってくれたな三下め!!」
-----------来いよ黄金竜王。ブレスなんて捨ててかかってこい。怖いのか?
挑発するように、クイクイッと----掌を上に向けてかかってこいと煽る。
「野郎ォ!ぶっ殺してやる!」
そういいながら3つの首をくねらせながらこちらに突進してくる黄金竜王。
「引き裂き、くいちぎり、かみ砕いてやるぞザコがぁ!」
黄金竜王は激しい怒りをむき出しにしているが・・・
----------滾る!!!
恐怖など微塵も感じないし、負ける気もしない。
この自分の力がどこまでのものか、愉しみで仕方がない。
互いが同じように突進していき、正面からぶつかりあう。
「グァァァァーーーーーーーーーオォォン!!!」
「キュルルル、キュルルルオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
中央の首にかみつき、そのままくいぎってやろうと顎に力を入れる。
黄金竜王が悲鳴のような鳴き声をあげるが、左右の首がそれぞれ俺の身体に絡みつき締め上げてくる。筋肉が、骨がきしみを上げる音を感じる。
体重、体格では俺が負けている。だが、不思議と負ける気はしない。
そう、ガッズィラは、タケキチ君が教えてくれた怪獣王は
---------------まだ最強の奥の手を持っているのだから。
一方のユルマは、城塞都市の入り口で他の冒険者たちと共にその戦いを固唾をのんで見守っていた。
「ヒィィ、もうおわりだ、俺たちは終わりだ、
あの黒いドラゴンがなんだかしらねえが、
黄金竜王にかなうはずがねえ!マ、ママー!!」
腰が抜けたリティンは地面にへたり込んだまま泣き叫び、
股間からは失禁しながら脱糞し、それでいて何故か勃起もしている。
イズリは既に気絶しており、その股は黄色く湿っていた。
だが今は、そんな2人の事よりも、ガヴィノの事だ。
黄金竜王に戦いを挑んでいるあの黒い竜は、ガヴィノだ。
ガヴィノが変身して、
魔王軍四天王の中でも最強と名高いあの黄金竜王に戦いを挑んでいるのだ。
なぜ?それは間違いない、私のためだ。
あんなに酷い事を言って、裏切って。
本当はガヴィノに捧げるはずだったはじめてもリティンにあげてしまったが、
それでもガヴィノは私を想っていてくれたんだ!
この都市を護る為に、いや、私を護る為に、ガヴィノが戦ってくれているんだ。
「頑張って、ガヴィノ・・・!」
祈りながらガヴィノを応援する。
みっともなく泣き叫ぶリティンも、胸に栄養がいって頭の中お花畑のイズリも、もういらない。
黄金竜王を倒したらガヴィノは間違いなく英雄。
ガヴィノとよりをもどせば----いや、ガヴィノは私を愛してるのだからリティンに無理やり抱かれたとでも適当に言えば、それで許してもらえるだろうから-------私はもう、一生安泰だ。
もしかしたら、黄金竜王を倒せばその功績でガヴィノは貴族になるかもしれない。
そうしたら私は貴族の夫人だ。
「ガヴィノ…!勝ったら私の事を好きにさせてあげるからね!!」
処女ではなくなったが、まだ私に未練タラタラなガヴィノなら抱かれればまたすぐに私にべったりになるだろう。ガヴィノは私が謝ればいつでも許してくれるからだ。
リティンとの性行為で覚えたテクニックで気持ちよくしてあげることができるのだからガヴィノもかえって喜んでいるかもしれない。
そうだ、ガヴィノが黄金竜王を倒したら、あとは出世したガヴィノのお金で好き放題が出来る。
そう考えると私はたまらなくなり、がんばれ、がんばれとガヴィノを応援した。
・・・・なんか意味もなく不愉快な気分になって虫唾が走った。
なんか誰か・・・・ユルマあたりがロクでもない事考えたりしてないか?
黄金竜王の首にくらいついたたま、そんな気がしてうえええ、と吐きそうになった。
だがまずはこの黄金竜王を倒してしまおう。
タケキチ君にみせてもらった「でいぶいでい」の、その光景を想いうかべる。
じわり、と背中が熱くなってくる。
背から生えた背びれが、瞬くように輝いているのを感じる。
ちかり、ちかりと青白く瞬く輝き。
------『ほうしゃねっせん』
次の瞬間、黄金竜王の首に食らいついていた口元から青白い光が漏れる。
くらいついたままに炸裂したほうしゃねっせんが、その首を焼き、千切り飛ばす。
「ギャァァァァァァァッ!」
食らいついていた首が吹き飛んでいき、そのままねっせんを吐き続け胴体を焼く。
「グアアアアアアア?!」
俺を締め上げていた左右の首が離れ、そして数歩後退する。
その間もねっせんは止めない。
「ぐうう、熱い俺の首が・・・・ウオオ、オンドレエエエ!」
悲鳴を上げながら両翼で羽ばたき、飛び上がる黄金竜王。
逃げればひとつ、進めばふたつ手に入るとタケキチ君が言っていたな。
逃げたお前が手に入るのはひとつ。
---------俺にぶち殺される惨めな死だけだ。
ねっせんをうけながらも空中で踵を返し、
飛び去ろうとする黄金竜王の右翼をねっせんで焼く。
「ヌアアアアアアア?!」
翼に穴が開き、黄金竜王が墜落していく。
ねっせんを吐いている間は呼吸ができない、というデメリットに気づき、
いったんねっせんをとめて呼吸を整える。
--------------森の中、逃げまどう魔王軍の、自分の配下たちの上へと墜落する黄金竜王。
地表を統べるように転がっていく黄金竜王につぶされ、
森の木々と共に魔王軍の大軍は黄金竜王の身体で引きつぶされた。
壊滅と言っていいだろう。
------------引き裂かれ、くいちぎられ、かみ砕かれる覚悟はOK?
そう、眼差しで語りかけ、俺はズシン、ズシンと地鳴りと足音を鳴らしながらゆっくり近づいていく。
得物を前に舌なめずりが出来るのは俺が絶対強者だからだ。
「コンナ・・・コンナトコロデェェェ!」
そんな俺の様子に、黄金竜王は起き上がると、
左右の首から黄金の雷のブレスを吐いてきた。
文字通り渾身のブレスなのだろう、今までにない、激しいダメージを受けるのを感じる。
・・・よし、充分に息を整えた。
再度背中を輝かせ、こちらも口からほうしゃねっせんを撃ち、
黄金竜王の左翼を撃ち穴をあけ、そして左翼から胴体へと薙ぐようにねっせんをはきつづける。
「グギャアアアアアアアア!!」
左右の首がもんどりを撃つ。
再び「ねっせん」をとめ、思い切り息を吸いなおす。
「グァァァァーオォォン」
咆哮ののち、黄金竜王の胴体へと、再度「ねっせん」をあびせかける。
「ウ・・・ア・・・・アアアアアアアアアアアアアッ!!」
そんな断末魔を残し、黄金竜王の巨大な体躯が粉々に爆散した。
勝った。勝ったぞ!!!
戦ってみればあっけないものだった。
ハハハ、これが俺の力だ!
ありがとうタケキチ君、
君がいたから俺はこの力を手に入れることが出来た。
----------まったく暴力は・・・・最高だぜ!!!
黄金竜王を倒してから人に戻り、街に帰るとボロボロでゴミみたいに薄汚い女がかけよってきた。誰だこの浮浪者は?と思ったがユルマだった。
「すごいわガヴィノ!!あの黄金竜王を倒してしまうだなんて」
妙に目を輝かせながらみてくる。
「何だ?裏切り者のアバズレが喋りかけるな耳が腐る」
心の底から不快に思い、眉根を詰めて吐き捨てる。
そんな俺の言葉に戸惑う様子を見せるユルマ。
気持ち悪いからいますぐ心臓発作かなんかで即死してほしい。
こんな汚物を手にかけても俺は罪になってしまうからだ。
どうか自主的にもしくは偶発的に速やかに死んでほしい。
「なんという力だ・・・君は冒険者かね?」
馬上から知らない男が話しかけてくる。
「元・冒険者だ。それより馬上から話しかけるとはいい身分だな何様だ焼き殺すぞ」
そう言いながらじろり、とにらむと、戸惑ったような様子を見せるが馬から降りた。
そうだ、それでいい。
「む・・・う、君は間違いなく英雄級の活躍をしたのだ無礼は不問とする。・・・ありがとう」
馬上から降りた男はそう言うが、何の感慨も浮かばない。
「それよりもあの黄金竜王を倒した君のあの力は何というのだ?圧倒的だ、この力があれば我が国は魔王軍などに遅れはとらぬ」
何言ってんだコイツ、俺がお前らに力を貸す前提で上機嫌になっててうざいな。焼き殺すか?
「君ほどの力があれば、間違いなく爵位と領地を賜るだろう。
救国の英雄として君はこれから貴族にとりたてられていくのは間違いない!
ぜひその力をこの国のために振るってほしい!
そうだ、言い忘れたが私はこの国の第三皇子だ。私からも王、父へはしっかりと進言させてもらうよ」
「え、爵位?貴族?すごいじゃないガヴィノ!------彼の名はガヴィノ!私の幼馴染で恋人、希少スキルの変化を持つ冒険者なんです!」
横からユルマが口を出してきた。
誰が恋人だ、裏切って他の男に股開いた馬鹿女がどの面下げて物喋ってるんだ?
それにペラペラと俺の事をしゃべるな。やはり焼き殺すか?
「黙ってろ股ユル女。
恋人だと?
俺を裏切って他の男に処女膜捧げたクソビッチがペラペラ喋んじゃねえよ。
てめえは裏切り者の便女だろうが。
--------次に口ひらいたらあの「ねっせん」でてめえの顔面焼きつぶすからな」
そういいながらふーっ、と口をすぼめてユルマの顔の横を軽く「ねっせん」で薙いでやった。腰を抜かし、ガタガタ震えるユルマ。
「いいか、黙って聞いてろ。
俺とお前は何の縁もない。
俺とお前の関係はお前が俺を裏切って、浮気して、他の男に抱かれて、
俺を馬鹿にして嘲って追放した時点で完全に切れてるんだよ。
それを何だ?美味しい思いが出来そうになったら掌返してゴマすりか?
恥知らずの淫売女が。
男の精液をしみ込ませた身体で俺に近寄るんじゃあない、汁臭いんだよガバ穴が」
そこまで言うとやっとユルマは黙った。
そんな俺たちのやり取りを見守っていた第三皇子とやらにも言葉をかける。
「それと俺はもうこの国の爵位だ貴族だやらに興味はない。今回こうして戦ったのは俺の力を試すためだけだ。あとはアンタ達だけで魔王軍と戦ってくれ。俺は力は貸さない」
「なっ・・・?!なぜだ!?ま、まってくれ、どうすればいい?君ほどの猛者を失うわけにはいけない、どうか考え直してくれ!」
「五月蠅いな。俺を従えたいなら俺以上の力を持ってきて屈服させることだな。その女ももう俺には関係がない赤の他人だ。」
ユルマが震えたのが解るがまぁ俺には関係ない。
・・・そもそもユルマ達が俺を裏切らなければ今のこの力は手に入らなかったのかもしれないのだが、感謝をするつもりにはならない。。
「俺は俺の行きたいところに行き、やりたいようにように力を振るうから後の事は勝手にやってろ。今日助かったのは・・・2度目のない幸運だったと思うことだ」
俺はそれだけ言うと、そのまま街を背に歩きだす。
実に晴れやかな気分だ・・・歌でも歌いたいほどに。
ひとまずの目標はタケキチ君に追いついて合流することだ。
君が見出してくれたこの力で、俺が君を助けよう!待っていてくれタケキチ君!!
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「やべええええええ、すっげえよガヴィノさん。
あれマジ完璧にゴッズィラじゃん。かっこよすぎるわー、最高だわー」
都市から随分離れた小高い丘で、双眼鏡を手に怪獣王と黄金竜王の戦いをみていたタケキチが、大興奮という様子で声を上げていた。
その傍らに立つのは、その場に似合わない白いドレスを着た銀髪の美女。
「面白い事をするのう。折角の異世界転生だというのに、こんな能力を欲する者はお主が初めてじゃ。・・・して、これからお主はどうするのじゃタケキチ」
「フッフッッフ。これから俺がこの世界を面白くしてやるのさ・・・女神様。
俺はこれから世界中を旅して、「幼馴染ざまぁ」を手助けしまくるのさ!世界のためなんかじゃないし魔王軍だとかも俺には関係ねえ・・・俺が幼馴染ざまぁをみたいからだ!!!」
「ほほほ、歪んでおるのう!じゃが、面白い!!今まで何人も転生者を色々な世界に贈ったが、お主のような気持ちの悪い奴はおらなんだ」
意気揚々と応えるタケキチと、けらけら笑いながら言う女神と呼ばれた美女。
「最高の褒め言葉だありがとう女神さま!
俺を転生させてくれた礼だ、
俺の隣で俺がプロデュースするざまぁをとくとご覧あれ、だぜ」
「楽しみにしておるぞ。そのためにわざわざこの世界の器を用意したんじゃからな」
そう言いながら、
タケキチ少年と『女神様』は次の幼馴染ざまぁを求めてその場を後にするのであった・・・。
その先に、まだみぬ幼馴染ざまぁを求めて。
没にしようとしていた作品ですが、折角なので投稿しました。
退職が決まってウルトラハッピー↑↑↑になっていたときにお酒ガブガブ家のみしながら書いた作品なので、どうしてこんな作品を書いたのかよくわかりません。
その時にプロットを書いたタケキチ君短編がいくつかあるんですよね・・・。
何を思って書いたんだろう不思議ですね・・・。
皆様の暇つぶしになったなら幸いです。