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彼女たちに裏切られて心が壊れた息子をそばから見守る話

作者: 金木 城

母親視点です

息子が痴漢をして逮捕された。



突然電話がかかってきて、警察を名乗る男性から告げられた内容はこの様なものだった。


信じられなかった。


ウチの息子がそんなことするわけありません!


何度もその言葉が喉まで出かけたが、唾を飲んでその言葉を飲み込んだ。



私の息子、加山秋彦(かやまあきひこ)は小さい頃から手のかからない子供だった。

それは小さい頃に父が亡くなり、私に手を煩せたくなかったからか、


今となっては分からないが、とにかく優しい子だった。


幼馴染の松本絵梨香ちゃんに息子が好意を抱いていることも知っていた。

彼女の隣に立つために随分と努力して来たのも私はずっと見てきた。


だから...ウチの息子がそんなことするはずがない。



「あの...聞こえておりますか?」

「あ...すみません...」


その言葉で我にかえり、息子はどこにいるのか問いかけた。

その男性から住所を聞き、慌てて準備を整えて、車で迎えに出かけた。



運転中も正直夢心地でまだ現実の出来事であると信じられなかった。

聞いていた住所が警察署を指し示し、中に入ると息子が俯くようにして座っているのを見て私は


ああ、息子は本当に捕まったんだ


そう認識した。



引き取る際に警察の方から説明を受けた。


本人は否定しているが、

目撃者もいることで状況証拠的に息子が痴漢をしたことは間違いないそうだ。



そう言われ、私は自分の考えに揺らぎが生じた。


自分の息子が犯罪を犯すわけがない......本当にそうだろうか?


小さい頃から手がかからなかった。

だからこそ、今回、間違った事をしてしまったのではないか。

それならば親として『信じている』と、肯定してやるのではなく、叱るべきなのではないか。

そう思った。


とりあえずその場は警察に息子と共に謝り、

被害者を名乗る女性にお金を支払うと言う形で事なきをすませた。




車で自宅に戻る途中、息子にどう話しかければいいのか分からず、

車内は沈黙に包まれていた。


何度も口を開こうとする。

でも、どんな言葉をかけてやればいいのか分からなかった。


そうこうしているうちに自宅が近づいてくる。

その時だった。


「...母さんは...俺のこと信じてくれるよね...?」


無言を貫き通していた息子が私に問いかけて来たのだ。

私はその言葉をすぐに返すことができなかった。



弱々しい息子の叫びを聞き、味方してやりたかった。

でも...息子が本当に痴漢をしていたら...


今思うと、一瞬でもそう疑った時点で私は母親失格だったのだろう。



そんな迷いが伝わったのか、

息子は再び目を伏せると一筋の涙を流した。




息子が学校に停学を言い渡されてから三日間。

ずっと家におり、何度も言葉を交わす機会があったが、私達が喋りかけることはなかった。




停学が明け、朝早くから息子は学校へ通う準備を整える。

そして玄関でゆっくりと靴を履き、ドアを開けようとする。


「あ............あき!」

「......................?」

「そ、その............」



もう少しで何かが私の口から出ようとしていた。


「もう、時間だから」

「あ.........」


しかし、息子は待つそぶりすら見せず家を出て行った。




その数時間後、息子は帰ってきた。


バタンッ


と荒々しい物音を立てて扉をあけ、何事かと玄関に出向いた時には


バタバタバタッ


と、二階につながる階段を駆け上がる息子の姿が見えた。

一瞬、見れた顔は脆く、今にも壊れそうなガラスの心が剥き出しになっている様であった。


息子は自分の部屋で閉じこもり、その部屋から出ようとしなかった。




......これでいいの?


自分の中で疑問が湧き上がった。

息子をこのままの状態にしていいのか、

息子に何か話しかけるべきじゃないだろうか。

色々考えた。


けれど、車の中で、息子の問いに答えられなかった時点で

彼のことを信じていると口にするのは何かが違うと、そう思った。


もう、息子のことを信じていると口にはできない。

だけど.........






次の日、閉じこもっていた息子はいつも通り起きると下へ降りて来ていた。

しかし、その目は空虚な瞳で、誰の姿も映っていないように思えた。

まるで、『もう、誰も信じていない』という様に。


ご飯を食べ、息子は学校へ行く準備を整え、玄関で靴を履き替える。

そして、何も言わずに出て行こうとする。


「................あき!」

「..........................」


息子の動きが一瞬止まる。

昨日までの私ならここで言葉を止めていたであろう。

でも...昨日、息子にかける言葉を決めたのだ


私はできる限りの笑みを浮かべ、


「気をつけて...行ってらっしゃい!」

「!?............」


一瞬息子のハッとした表情が顔に浮かび上がり、その瞳に今日初めて私が映った様に見えた。

しかし、息子はすぐに顔を伏せると、出て行こうとする。

しかし、扉が完全に閉まり切る前に向こうから


「行ってきます」


と、小さな息子の声が聞こえて来た様な気がした。


これでいいのだ。

私は息子を信じるなんて言葉は言えない。

だけど...せめて、息子が安心して、帰って来れる場所を用意するのが、

親としての...私としての務めだと、そう思った。



その3ヶ月後、息子の痴漢冤罪が判明し、

警察の方がひたすら謝りに来たりした。


学校側からも、痴漢が判明してから3ヶ月間、

息子に体罰のようなことを行ってきた担任教師がいることが判明し、

また、昔から生徒差別が激しかったことを重く受け止め、

わざわざ教育委員会が出向き、懲戒解雇が言い渡されることになったとのことだ。


また、いじめのようなことを行った生徒も発見され、無期停学となったそうだ。


息子はずっと好きだった絵梨香ちゃんとも別れ、ずっと一人で過ごしている。

しかし、家に帰ると少しほぐれた表情で、


「ただいま」


と、声をかけてくれる


しかし、その瞳の奥に見える本質は変わらない。

全ての人を信じないとする目だ。


だけど、踏みとどまった息子なら大丈夫だ。


いつか、暗い闇の中から息子を救い出してくれる様な

そんな人が現れることを願い、今日も私は


「おかえり」


と、声をかけるのであった。












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― 新着の感想 ―
[良い点] 安易に救いを与えない所 [気になる点] 全然美談じゃねぇんだよなぁ・・・ [一言] 他人事じゃねぇんだよな 基本的に「この人痴漢です(ザラキ)」されたら社会的に死ぬ
[気になる点] 幸せな家庭に生まれた読者多過ぎる [一言] 壊れるの放置したのにまるで美談にされてるwwww
[良い点] こうやって重ね塗りしていけば、短い物語に厚みが出て面白くなると思いました。 主人公目線が感情等スカスカだったのはこうやってサイドストーリーで埋めていくからだったんですね。 [気になる点] …
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