ドリームトリップ①
世の中『多様性』の新時代。生き方は人それぞれ。自分の心のままに過ごす時代。肌の色、身体の差、性別、全ての差別や偏見が撤廃された理想的な社会。
これはそんな『多様性社会』の外側にいる人々の話。
『こちらは国立未来都市 迅海市です。迅海市では新たなテクノロジーを利用した未来に繋がる都市開発を行っています。【明日の夢を叶えよう】プロジェクト迅海』
壱立町 2丁目
「アカネ〜さよならなんてやだよ?」
「ごめん、でも病気は治さなきゃ」
「また会えるよね?」
アカネは親友のマリに抱きつかれて少々困惑しながら引越しの支度をした。
すると親友のシオリが苦笑いしながらマリを引き剥がす。
「こらこら、アカネも行きたくて行くわけじゃないんだから……」
「はぁ、しょうがないか…難病だもんね」
マオがため息をつきながら椅子に座る。
「アタシだってやだよ、みんなと離れたくないけどさ…」
「寝たらしばらく起きることが出来ない…アルトデルン症候群だっけ?」
「そうそう、一千万分の一の確率だって医者に言われたよ。宝くじの当たりと同じ確率だって」
アカネは名残惜しそうに家を見る。そして、2人の親友にお別れを言って壱立町を後にした。
迅海市 市立新明高校
新学期、抜けるような青い空。暖かい春の風と共にこれから始まる新たな生活に期待を含ませている………なんてことは杉山シグレには割とどうでもよかった。
「今日はみんなに転校生を紹介する。どうぞ、入っていいよ」
創作物のようなありがちな美少女とかは転校してこない。どうせ俺みたいなメガネ陰キャぼっちだろう。
「壱立町から来ました。日下アカネと言います。よろしくお願いします」
お、予想外だな。女子だしそれにかなり美形。クラスの男子たちが猿のように騒ぐわけだ。
「皆静かに。日下さんはアルトデルン症候群という難病にかかっていて、この迅海市には難病を治すために来た」
「わたしその病気のせいで週に2日程度しか登校出来ませんがどうぞ仲良くしてください」
「よろしくね!」「アカネちゃんって呼んでもいい?」「ようこそ!迅海市へ!」「これから楽しもうぜ!」「日下さん、後で学校案内するね!」
相変わらずみんなフレンドリーだな。
アカネはクラスを見渡す。転校自体が初めてで全く知らない人ばっかり。しかし、みんな病気に着いて触れずに歓迎してくれる。
なんていいクラスなんだ!
クルンタウン迅海
アカネは学校帰りに姉のヒイロとショッピングモールで買い物をしていた。
「でね、サクラって子がすごく優しくしてくれたんだ」
「じゃあ上手くやってけそう?」
「うん。なるべく早めに仲良くなれるように頑張ってみる!」
前にいた学校は幼馴染や知り合いが多かったので友達づくりには苦労しなかった。しかし、今回は病気のこともありなかなか親しくなるのは難しそうと考えていた。しかし、クラスの雰囲気はとてもよくすぐに馴染めそうだ。
「まぁ、とりあえず頑張りなさいな。アカネは少し受身なところがあるからなるべくグイグイいくのよ」
アカネとヒイロは買い物をした後、施設内にあるフードコートで軽くお茶をしていた。
「帰ったらそのBFデバイス起動してみな。何か快適に就寝できる機能とかついてるらしいよ」
「へぇー、便利だね」
B Fとは最先端のテクノロジーで作られた現実拡張ができるデバイスの総称。腕時計型や携帯型などさまざまな形で配布されている。今までに体験したこともない現実拡張というサービスが受けられる。迅海市が最先端の近未来都市と呼ばれている理由のひとつである。
「現実拡張かぁ。ちょっとやってみようかな」
アカネが目を輝かせて腕時計型のデバイスとセットで付いているグラスをいじっている。
「もうすぐ帰るんだから家でやりなさいよ」
「いやー気になっちゃって」
アカネがBFデバイスをいじっていると
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
急にフードコートの真ん中で男が叫んだ。
すると辺りにいた人たちが次々に倒れていく。
「なに…これ…」
いつの間にかアカネが倒れているのを見たヒイロは突然の出来事で何も言えなかった。
すると施設内のシャッターが閉まり唯一起きていたヒイロも気を失った。
『市民の誘導とフードコートの閉鎖が完了しました』
『ご苦労。安全を確認次第、男を回収しろ』
知らない場所
どこだろ。さっきまでフードコートにいたのに……。
アカネが辺りを見回す。住宅街や高層ビルが立ち並んでいる。見た事のある建物のデザイン。ほかの街にはない街の中心にそびえ立つクリスタルタワー。
大通りなのに人が1人もいないのと空が虹色であることを除けばここは間違いなく迅海市だ。
自分の目が悪くなったということも考えられるが人がいないのはおかしい。それに建物の中には半壊しているのもある。
「これは…夢でも見てんのかな」
アカネが呆然と立ち尽くしていると遠くの方から獣のような雄叫びが聞こえた。
雄叫びの聞こえた方角はクリスタルタワーがそびえ立っておりよく見るとタワーに青色の蛇のような巨大な生き物が巻きついていた。
「何あれ!?」
すると今度は目に見えるぐらいの距離にある家に普通車と同じくらいのサイズのネズミが3匹屋根の上にいた。
どうやらアカネと目が合ったらしく3匹が追いかけてくる。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
アカネは今までにないくらい大きな悲鳴をあげて走り出した。
ひたすら走ってT字路まで来た時、左に見慣れた人影があった。
「お姉ちゃん?」
姉のヒイロだった。
「お姉ちゃん!」
「アカネ!」
ヒイロとアカネは走って抱きしめあった。
「よかった。無事だったんだね」
「起きたら人いないし、空は虹色で不気味だし変な生き物はいっぱいいるから本当に心配で…お姉ちゃんいてよかった……」
「うんうん。あたしもすごく不安だった。とりあえず無事でよかった」
「お姉ちゃん、早くしないと、さっき大きなネズミが…」
すると先程アカネを追いかけていたネズミがすぐそこまで来ていた。
「逃げなきゃ!」
「逃げるって……キャァァァ!何あれ!」
ネズミはあっという間にアカネ達に追いつくと襲いかかってきた。
「いやあああ!」
アカネが叫ぶとネズミは急に吹っ飛び近くの一軒家にぶつかり動かなくなった。
近くにいたネズミたちも警戒し去っていった。
「何が起こって……ガッ」
突然きた激しい頭痛に悶える。
「アカネ!?どうしたの!?」
「頭痛い………」
そう言ってアカネは気絶した。
「ど、どうしよう……」
ヒイロは近くを見渡すが誰もいない。さっきまでフードコートにいたのにいつの間にか街の住宅街にいた。いろいろなことが重なりすぎて逆にヒイロは冷静になっていた。
「とりあえず病院に行かせないと」
「その必要はないよ」
「え?」
アカネを背負って行こうとすると後ろから声がした。
振り向くと銀ピカなスーツ、スーツと言ってもヒーロースーツのような姿で全身ツルツルな人が立っていた。
「ど、どちら様?」
「俺が誰かは今は関係ない。なぜなら時期にあんたも気を失うからだ。そんでその子は大丈夫。問題ない。ほっといたら起きるよ」
「そうですか………」
ひと目でわかるヤバそうな人だ。
「大丈夫。あんたが思ってるような変人じゃねえよ俺は」
「そうですか………」
しばらくの沈黙が流れた。
「そろそろ気を失う。どうせ覚えてないだろうがまたな」
「え、ちょ………」
すると急に立ちくらみのような感覚に陥りヒイロは気を失った。
クルンタウン迅海
気づいた時にはアカネはフードコートでヒイロと一緒にくつろいでいた。
「え、あれ?」
さっきまで私は住宅街にいたはずだ。しかし、目の前にいるヒイロは何事も無かったかのようにドリンクを飲んでいる。
「ねえねえ、お姉ちゃんなんともない?」
「?」
「え、ネズミに」
「ネズミ?」
「いや、なんでもない」
どうやらヒイロはさっきの不気味な街でネズミに襲われたことを覚えていないらしい。
(やっぱりあたしの勘違い?夢を見たってことはないだろう。寝たら1日以上は経過しているはずだ。幻覚かな?)
しかし、いくら考えても何も分からないということだけが分かった。
「あたし疲れてんのかな」
「まあ慣れない環境だからね。ゆっくり休みな」
「………」
迅海市 高級マンション『サングエ』地下駐車場
2人の黒服の男が車内で話し合っている。
「今日の午後4時にクルンタウンのフードコートにて信号を確認したとの情報が」
メガネをかけた痩せ型の男がスマホを取り出してとある画像を見せる。
「なるほど。またか…」
「はい。今月だけで2件です」
「とりあえず様子見だ」
「様子見ですか…」
「上からの指示はまだ来てない。まあどうせ来ても俺らにはわからんよ。超能力なんてフィクションみたいなのは」
日下家 アカネの家
アルトデルン症候群であるアカネは1度眠ると数日間起きられない体。さらに起きている時間も普通の人と同じなので生活にかなり支障をきたす。なので就寝するための準備はかなり念入りに行われている。
「おやすみ」
しかしアカネにとっては毎日のことなので手馴れたもの。10分程度で就寝するための準備を済ませ数日間寝る用の枕に頭ををのせて目を閉じた。
知らない場所
「え!?なんで!?」
気づいたら家の前に出ていた。空は虹色。
「なんでまたここに……」
また来た。やはり勘違いではなかった。相変わらず気味の悪い街だ。家の前の通りは大通りなので普段人通りが多い。しかし、昼間の時と同じく人がいなかった。そびえ立つクリスタルタワーにはビルと同じくらいの大きさの鳥が巣を作っていた。
また化け物に襲われると考えると家の中に隠れた方がいいのかもしれない。
家の扉を開けようとすると鍵がかかっていた。
「嘘でしょ……」
悩んでいると軽く地響きが起こった。まさか………。
大通りにトラックほどの大きさのでかいウサギがのそのそと歩いていた。
「可愛いけど見つかったらタダじゃ済まなそう……」
「そうだね。踏みつけられちゃうね」
「!?」
いきなり上の方から声がした。
見ると隣の部屋のベランダの手すりに座った少女がこちらを見ていた。
自分なりの異能バトルを書きました。
よかったら評価お願いいたします。
作者の励みになります。