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0-4 灰被りな少女、初めて杖を使う。

 気合を入れたのは良いけど朝ご飯がまだでした。あはは。


 という訳で朝ご飯は残りのシチューにパンでした。どんなに経っても愛情は劣化しないよね。


 美味しく食べたあとは食器洗いを手伝った。お世話になりっぱなしはどう考えても駄目だと思う。私なりにできる範囲で手伝おうと思う。


 気に入られようとしているんじゃない。これが私なりのけじめなんだ。やっぱり感謝の意は行動で表すに限るよね。


 ようやく自分が誇らしいと思える場面に出会えたのもマリアンのお陰だ。だけど! 私はもっと成長しないといけないよね!


 再び気合いを入れているとマリアンの気配がした。食器洗いは終わったので私はゆっくりと振り返った。


 やはりというか。この家には私とマリアンしかいない。二人だけだと寂しいからなんか猫でもいたらいいのになぁ。贅沢な考えかな。


 この時のマリアンは比較的に真顔だった。はは。なんだか無表情に近いのは怖さがあるなぁ。慣れると良いけど。


「さぁ。朝練といくよ。エレナ」


 うわぁ! とまるで心に花園ができあがったみたいだった。ついにというか。二日目だけどこの杖を使うときがきたんだ。はぁ。緊張する。


 足が動かなくなるのを防ごうと私は腰にぶら下げた杖を右手で抑えつけた。こんなにも緊張したのは父に怒られる手前の扉越し以来だ。はぁ。しんどいな。


 そんな私にマリアンはお構いなしな表情でいた。さっきの真顔と何ら変わり映えしていない。もっと優しい表情でも良いんだけどな。これも我が儘かな。


「なにしてんだい! エレナ! 外に出るよ?」


 あ……怒られた。ただ過去を思い出して緊張していただけなんだけどな。いくら魔法使いとは超能力はないかぁ。あったらあったで大変だろうな、きっと。


 そうこうしている内にマリアンが先頭を切り私と一緒に外に出た。うう。寒い。凍えるような寒さじゃないけど私にとっては十分に寒かった。はぁ。白い息は出なかった。


 こうして見ると人の気配がないから杖が使い放題なのでは? と思ってしまっていた。私がそう勝手に思っているとマリアンは急に立ち止まり振り返らずに口を動かした。


「この先に広場がある。そこで朝練だよ。エレナ」


 へぇ~。私の知らないところにそんな穴場があるんだ。知らないはやはり損だね。今後は場所を覚えておこう。もしかしたら独りの時があるかも知れないからね。フフ。


 という訳で私とマリアンは広場に向かうことにしたのだった。この時の私はてっきり魔法で行くものだと思っていた。だけどマリアンは歩くのも鍛練だよと言っていた。


 ぐぬぬ。というか。道順を覚えないと駄目だということに今になって気付いた。確かにそうだ。言われるまでもなく気付いてよかった。はぁ~。それでも歩きなのかぁ。


 別に嫌という訳じゃないけどなんだか腑抜けてしまう。とまぁ愚痴みたいなのはやめて私はマリアンの後についていった。この感じからして迷いそうなくらいに遠そうだ。




 思ったとおりの遠さだった。あはぁ~。これを覚えるにはちょっと苦手意識が芽生えちゃうよ。


 この時の私はマリアンの知識に驚いていた。そればかりか。体力にも驚いた。私の魔法使いに対する思いは知識はあっても体力はないだった。


 なのにお婆さんとは思えないほどの動きだ。しかも息切れになっていない。これは私自身の体力ですら貧弱なことが原因で一気に自信喪失させていた。


 あははははは。魔力だけでなく。私には体力もないのか。あはは。もう笑い飛ばすしかなかった。そんな空しい気持ちの中で私はマリアンと共に広場にきていた。


 広場は十分に広く。魔法を使うには余るほどだった。さすがは田舎だ。公園を超えて広場だと私は思った。これなら魔法を使っても文句がないかも知れないな。


 マリアンは十分に広いところを確保しようと私を無視した。そして広いところで立ち止まり振り向いてきた。その時のマリアンの表情は穏やかだったように思えた。


「よし! んじゃさっさと始めるよ! 良いね? エレナ?」


 ついにだ。ついにって言ってもまだ二日目だけども初めての朝練だ。しかも私だけの杖での朝練だ。こんなにも嬉しいと感じたことは余りない。


 私は言われるまでもなく腰にぶら下げていた杖を外した。そして両瞼を閉じ両手で包み込むように杖を握り締めた。この杖は私の命綱だからと額に杖の先端を当てた。


 今のマリアンが私のことをどう思おうが構わない。覚悟を決めた私は両瞼を開け手を元の位置に戻した。すると目の前のマリアンが微笑んでいた。


「気合いよしだね。それじゃさっさと始めるよ」


 私は気合い十分に頷いた。するとマリアンは腰にぶら下げていた杖を外し身構えた。か、かっこいい! はさすがに言えないけどそれでもかっこよかった。


 マリアンを見続けるとまぁ見ときなさいよと言わんばかりに神経を集中させようと両瞼を閉じていた。なんとも言えない空気圧が私を襲った。こ、これが魔法使い?


 でもこんなにも大袈裟だったかな。誇張しているのかな。それともと思っているとマリアンは急に両瞼を開けた。次の瞬間にマリアンは杖の先端を空に向けた。


「そこ!」


 と言った瞬間に雷が落ち飛んでいた鳥に直撃していた。うげ。と言いたくなるくらいに鳥が一斉に羽ばたいた。森の静けさを取り戻した頃には騒音は消えていた。


「ほっほう。今日の晩飯だわい」


 はは。高度過ぎて分かんない。もっと単純じゃないと分からないよ。マリアン。なんて言えるかな。はぁ~。もっとしっかりしてほしいのはこっちなのかも知れない。


「さぁ。まずは神経を集中するために両瞼を閉じるんだよ。次は身構えてごらんよ」


 言われたとおりに両瞼を閉じてみた。辺りが真っ暗になったけど動かせるので身構えた。というか。神経を集中させるってなに? 教えて貰って習得できるのかな。


「見えないかい、杖の魔力による循環が」


 え? うーん。見えないな~。才能がないなんてことないよね? なんだか急に不安になってきたよ。はぁ~。もう早く終わらしたくなってきたよ~、割と本気で。


「もっと邪念を消し飛ばすんだよ! ほら……魔石から魔力が入り杖の先端から魔力が放出しているだろう?」


 ええー!? 分かんないよー!? そんなことがこの若造に分かる筈がないよ~。


「落ち着くんだよ! エレナ! ほら……ほんのちょっとずつ見えてきた」


 混乱する私にマリアンは優しくしてくれた。その言葉が効いたのか。それともマリアンの仕業かは分からないけどほんのちょっとだけ魔力の循環が見えた気がした。


「え? 嘘!? なに……これ?」


 これって宇宙? 無数の星が瞬いているみたい。あ。運河のように流れてる? ふわぁ~。これが魔法使いと言うことなの? なんだか凄く不思議な気分。


「どうやら……見えたようだね? 奇麗だろう? 懐かしいねぇ。全く」


 懐かしいってことはマリアンもこの朝練をしたときがあるってこと? はぁ~。ふぅ~。なんだか深呼吸が当たり前のように感じている。本当に不思議な気分だ。


「これ! もう目を晒しなさい! それ以上は駄目だよ! エレナ!」


 マリアンの声だ。でもなんだか魔力に飲み込まれそう。ああ。混濁してきた。あれ? 両瞼が開かない? う、嘘でしょう? なんだか声がする。誰? なんなの?


『エレ――よ。我を――覚ま――』


 はぁ!? というような感じで私は目を覚ました。どうやら悪夢として見ていたから起きられたみたいだ。もし悪夢じゃなかったらと思うと恐ろしかった。


「エレナ! よかった! 心配……したじゃないか。全く」


 気付いた時にはマリアンが私を抱いていた。そして安心したような声で言っていた。嫌な汗だ。こんなにも汗が出てたなんて。はぁ。なんだか怖いよ、この杖が。


「良いかい。エレナ。余り過剰になったりしたら駄目だよ。戻れなくなるからねぇ」


 これはあとから聴いた話だけどマリアン曰く余りに同調し過ぎると意識が乗っ取られることがあるらしかった。それを聴いた私は初心忘れべからずと教わったのだった。

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